227.新しい仲間を迎えて
「ということで新しいメンバーとして迎え入れたミニマさんだ。折角だし一言頼む」
「えぇぇぇ!そんな無茶ぶりせんといてよ」
「それは残念だ。イブさんが聞きたいっていってたんだけどなぁ」
「そういう事やったら・・・」
「って、言うんかい!」
オークションを終え、提出した雇用契約書にサインを貰えたこともあり無事にミニマさんが俺達の一員となった。
因みに今は、細やかではあるけれどソルアレスの食堂で歓迎会を開いている最中だ。
試用期間の間に色々あったので俺達がどういう仕事をしているかはよくわかってもらえたはず、それを知ってでも一緒に行動したいと言ってくれたので、今後は給与に見合った仕事をしっかりとしてもらうとしよう。
彼女の主な仕事はノクティルカの整備と荷物の搬入搬出。
傭兵業で手に入れた懸賞金などは残念ながら彼女の懐に入らないけれども、今回のように大量の物資を回収したり、輸送業で荷物を動かしたりした場合には報酬に合わせて一定の金額を支払う契約となっている。
メンテナンスの分は別途支給、これが固定給与となりその他が歩合という感じだろうか。
まぁ、彼女からしてみればイブさんと一緒に行動出来れば何でもいいという感じなのでそこまで給与には執着はないようだ。
歓迎会はそれなりに盛り上がり気づけばいい感じの時間、明日はいよいよアースフォージを離れる日ということで騒ぐのもほどほどにして解散という運びとなった。
皆は早々に自室に戻り、俺はというと船を離れて気づけばこんなところに来てしまった。
夜のクジラの巨大カーゴ、ライブラリでしか鯨という生き物については知らないけれど、腹の中はこんな風になっているんだろうなぁ。
「おや、マスターこんなところにおられましたか」
「アリスか。明日に備えて準備するんじゃなかったのか?」
「マスターの生体反応がありませんでしたので探しに来ました」
「別に俺なしでも問題ないだろ」
「そういうわけにはまいりません。私の役目はマスターを補佐すること、年甲斐もなく黄昏ているようですから悩みの一つでも聞いて差し上げようかと参った次第です」
年甲斐もなくという部分は余計だと思うけど、黄昏ているのは間違いないのであえて何も言わないことにした。
なぜ俺がこんなところにいるのか、それは歓迎会の最中にさかのぼる。
挨拶もほどほどに、お酒を飲みながらアースフォージでの日々を面白おかしく話していた時だった。
「しかし、まさかこの船にマスターのお父様が乗っていたとは思いませんでした」
「俺だって驚いたさ。親父どころか覚えてもいない母親の写真まで出てきたんだから。まぁ詳しい話を聞こうにも当の本人は死んでるわけだし、真相は闇の中だけどな」
「探そうと思えば探せますが?」
「ん?」
「あの顔写真を元に監視カメラの映像なんかを探し続ければいいのよ。どれだけ古くても星間ネットワークが出来た以降はある程度の映像は残っているもの、どこにいて何をしていたかぐらい見つけられるわよ」
アリスとテネスから思わぬ提案。
確かにこの二人の手にかかれば情報の海から二人について何か見つける事は出来るはず。
父親はともかく母親についてはまったく知らされていなかっただけに、酒の力もあってつい知りたいと言ってしまった。
「ではすぐに調べます。テネス、やりますよ」
「オッケー!五分待って」
「そんなに急がなくてもいいぞ」
「良いじゃない、アンタだって知りたいんでしょ?」
「そりゃ知りたいけどさぁ」
「じゃあいいじゃない」
一枚の写真をもとに、物凄い速度でソルアレスのメインモニターに画像が映し出されては消えていく。
もちろん似た人もたくさんいるけれど、だんだんとそれが絞られていき、ついに俺を抱いた画像にたどり着いた。
うーむ、すごい。
まさか本当に星間ネットワーク上に同じものがあるとは思わなかった。
モニターに拡大された両親はなんとも幸せに満ちており、見ているだけでなんとなく心が穏やかになってくる。
「ではここからさかのぼっていきます」
「次は・・・これね」
「腹が大きいという事は俺が生まれる前か」
「こちらはお腹も大きくありません、知り合ってすぐの頃でしょうか」
「ノクティルカはこの頃から変わらへんねんなぁ」
「そうですね、とても大事に使われて来たんでしょう」
お酒を飲んでいた他の面々も、映し出される写真を見ている。
俺の知らない両親の姿。
しばらくして父親の姿出てこなくなった、つまりここから先は親父と出会う前ってことになるのだろうか、次第に映し出される映像はどんどんと荒くなっていく。
「・・・あの、おかしくありませんか?」
「私も同じことを思っていました」
「なぁ、なんでこの人顔が変わらへんの?」
最初は穏やかな雰囲気だったのに、さかのぼればさかのぼるだけ空気が冷たくなっていくのがわかる。
映像はどんどんと古くなっているのに映っている母親の顔は一向に変わる気配がない。
まるで生まれてからずっとこのままのよう、それこそヒューマノイドのように。
「アリス、この映像の推定年月日は?」
「マスターが映っていた頃からおよそ20年は経っているかと」
「じゃあなんでこの顔なんだ?」
「わかりません」
「ネットワークの履歴を確認しても間違いはなさそうね。撮影場所は・・・発掘途中の遺跡の中みたいよ」
大勢並んだ男たちに紛れて白衣の女性が端の方に映っている。
別の写真もまた同じ、その人は常に端の方で穏やかな笑みを浮かべていた。
・・・遺跡か。
父親と出会ったのもそこでという話だったし、ノクティルカも遺跡調査船として使われたものだ。
そもそも遺跡とは何なのか。
結局怖くなった俺が検索を止めさせたので話はうやむやになってしまった。
イブさん達も下手に話を蒸し返すことなく、別の話題で盛り上がったのだけは覚えている。
その後の俺は上の空、その結果がこれというわけだ。
「まさかあんなことになるとはなぁ」
「心中お察しいたします」
「因みに何を察したんだ?」
「母親の、いえ自分の出自について疑問を持たれているのでしょう。母親は何者で、その人から生まれた自分もまた何者なのか。なぜ母親はあんな場所にいてそして父親と恋に落ち、自分が生まれたのか。いえ、そもそも自分は本当にあの人から生まれたのか。そんな答えのない疑問ばかり浮かんでいるのではありませんか?」
「俺の心の中までハッキングしないで欲しいんだが?」
「マスターがわかりやすすぎるだけです」
35年も生きてきて世の中では中年と呼ばれるようになったにもかかわらず、突然自分の出自について疑問を突きつけられてしまったんだ。
今までの人生を否定されたように動揺するのはむしろ当たり前だろう。
「アリス、遺跡って何なんだ?」
「現在分かっているのは、人類が宇宙に進出する中で発見した別の生命体の痕跡・・・でしょうか。星間ネットワークもまたそういう遺跡から発掘されたテクノロジーが使われているという話です。これに関しては過去に調べたことがありますが。痕跡を辿れど答えにはたどり着きませんでした」
「つまり得体も知らない何者かがいた証、ってことになるのか」
「そうですね。もっとも、時代が古すぎてそういった存在がいたという具体的な証拠は見つかっていません。遺跡そのものを証拠とするのが今の風潮ですが、あくまでも痕跡が見つかっているだけです」
「いまだ真相は闇の中・・・。そもそもアンティークもその一部っていう噂もあるよな」
「噂は否定しませんが、私が製造されましたのは遺跡が見つかったような大開拓時代よりもかなり前というわけではありません。これは製造年月日が登録されておりますので間違いようのない事実です」
アリスの出自は確定しているのに、俺の出自は確定されていない。
いや、戸籍上の生年月日は間違いなく存在しているので確定はしている。
だが、誰の子供なのか、本当に両親の子供なのかについてはなんとも言えない。
DNAでも調べれば話は早いのだが残念ながら血縁者は一人もいないわけで。
「そもそも母親が愛想をつかして出ていったってのも嘘なのかもなぁ」
「どうでしょう。マスターにはその記憶はないんですよね?」
「物心ついたときにはいなかったからなぁ」
「ではそれはあくまでもマスターの思い込みで事実ではありません。もし、それが気になるのでしたら直接調べらてはどうですか?」
「ん?」
「辺境からは若干方向が違いますが、付近の惑星で遺跡発掘が行われているコロニーがあります。まずはそこで遺跡について知識を増やしてからでも遅くはないと思いますが」
ここでアリスから思わぬ提案。
なるほど、そういう選択肢もあるのか。
唖然とする俺に向かってアリスは微笑みながら小さく頷くのだった。




