222.宇宙ゴミを片付けて
「で、なんでこんなことしてるんだ?」
「それはもちろん仕事だからです」
「でも俺達の仕事は宙賊退治だろ?」
「はい。ですから宇宙ゴミの掃除をしに向かっています」
なんだろうこのかみ合ってそうでかみ合ってない感じ、ゴミはゴミでもそっちかよ!とツッコミたくなるのをぐっと我慢して、静かにメインモニター越しに見える宇宙空間を静かに見つめる。
恐らく食事の席で引き受けた宙賊退治をするにはまだまだ準備が必要だから、その間に別の仕事をしようという事なんだろう。
俺以外の面々はやる気十分、ソルアレスの後ろにはノクティルカもしっかりとついてきており、自分の役目は未だかとやる気満々だ。
「もうすぐ指定宙域に到着するわよ。獲物は・・・あれね」
「多いな」
「小規模なダストベルトを形成するぐらいですから。推定数1万トンのスペースデブリ群、本日はあれを掃除します」
「いや、掃除しますって1万トンもノクティルカには乗らないんだが?」
「今回の目標はあの中にある大型デブリ、それをドローンで回収してノクティルカに搬入、リサイクルコロニーに持ち込んで分解、再形成してもらいます。流石に細かいものまで回収できませんし、飛来するデブリが危険なので必要以上には近づきません」
ふむ、つまりあそこにある中のデカ物だけを回収してお金を稼ごうという事か。
物質ってのは不思議な物で、質量があればあるほどそこに重力が発生しお互いを引き寄せ合う。
これだけのダストベルトを形成してしまった以上集まらないようにするのは難しいけど、デカ物だけでも除去すれば多少マシになる・・・らしい。
ま、いずれ大型船がごそっと掃除していくんだろうけどそこまでは依頼されていないみたいなのでやるべきことをやるだけだ。
「で、今回はこれを動かすわけか」
「私達だけでもできますが、見ているだけだとマスターも暇でしょうから是非お願いします」
「ちなみにこのドローンはどこから?」
「もちろんハムネット社長からお貸しいただきました。購入すると500万ヴェイルはするらしいのでくれぐれも気を付けてくださいね」
「そんなものを素人に使わせるのはどうかと思うぞ」
ダストベルトの大掃除を始めるにあたりアリスに渡されたのは白いヘッドセットとコントローラー、キャプテンシートに座ったまま言われるがままにそれを被るとヘッドセット内のモニターに宇宙空間が映し出されていた。
コントローラーを使って視点を変えると先ほどのダストベルトが見える。
「ほぉ、なかなかの臨場感。アームも・・・結構直感的に動かせるもんなんだな」
「それがこのドローンの特徴なんだから当然じゃない。元々人が入れないような惑星で作業するように作られている遠隔テラフォーミングには必須の大型ドローンよ、最初は慣れないと思うけど・・・って、上手いじゃない」
「こういうのは嫌いじゃないんだ。前の仕事で小型のを複数台動かしたこともある、なるほどゲームみたいだなこれは」
最初はぎこちない動きだったけど次第にスムーズに動かせるようになってきた。
操作ディレイもほとんどなく想像以上に直感的な動きが出来るので動かせば動かすほど楽しくなってくる。
別のボタンはスラスター、そんでもってこっちがブースター。
ふむ、これはいい。
500万ヴェイルだったか、そのぐらいの値段なら一台欲しいぐらいだ。
「これは、マスターの思わぬ才能を発見してしまいました」
「いやいや、俺なんてとんだ素人だ。アリス達の動きはどうやっても勝てない」
「当たり前じゃない、人間とAIじゃ情報料が違うもの。私達は全部数値で判断できるけどアンタはそうじゃないんでしょ?感覚でそれだけできれば上出来よ」
「イブ様の狙撃術やローラ様の操舵技術もそうですが、人というものは時としてAIやヒューマノイドを超えていく。どこをとっても私達の方が優秀なはずなのに本当に不思議なものです」
なんだろう、直感とか感覚とかそういう非科学的な部分はAIやヒューマノイドには理解できない部分だろう、機械化が始まった大昔からその部分だけはどうしても超えられなかったんだとか。
脳科学者に言わせれば人間が使っている脳容量まだは30%ぐらいしかないらしく、残りを使えばAIやヒューマノイドに勝てる要素が伸されているんだとか。
大昔は10%って言われていたことを考えると三倍の進化ではあるけれど、それでも七割がブラックボックス。
人間という生き物は何と不思議なものなのだろうか。
「そういえばイブさんは?」
「ノクティルカでミニマさんと受け入れの準備をしています。あそこは一時的に無重力状態になりますから、スペーススーツを着て飛び回れる人がいないと大変なんです」
「なるほどな。ミニマさんが屋内ドローンの操作をしてイブさんがそのフォロー、俺達は大口を開けたノクティルカめがけてデカいのを運び続けるってことか」
「仰る通りです。さぁ、大掃除を始めましょう」
そんなわけでダストベルトの大掃除を開始、小さな隕石から宇宙船のパーツからはじまりそれがだんだんと大きくなっていく感じ、今回狙うのはその中でも最大級の廃棄もしくは破損した宇宙船やそのパーツだ。
隕石を回収したところで残念ながらリサイクルできない。
もちろん隕石内にレアメタル成分が含まれている可能性は否定できないけれど、精錬することを考えると時間の無駄だ。
それから俺達は黙々とダストベルトの大掃除を行い、わずか半日でノクティルカの中がいっぱいになってしまった。
ドローン操作が面白いこともあって長時間の操縦でも特に疲れるような感覚はない、それよりも自分がこういう機械を動かせるのが楽しくてついつい夢中になってしまったくらいだ。
まさか自分にこんな才能があったとは思わなかった。
もちろんアリスやテネスには負けるけれども、それでもないもせずボーっとしているだけでなく頼りにされているのが素直にうれしい。
オッサンになってもこういう自己肯定感って大切なんだなぁ。
「マスター、お疲れ様でした」
「お疲れ。この後はリサイクルコロニーに搬入するだけだな?」
「思った以上にデブリを回収したこともありノクティルカが速度を出せませんので到着は12時間後となっています。今のうちにお休みになられてはいかがですか?」
「んー、そうしたいのは山々なんだが・・・。あのドローンじゃなくてもいいんだが、似たような奴のシミュレーターってあるか?」
「確か技術者向けのソフトがオルビタル・フロンティア・インダストリーのデータベースにあったはずです。あとで端末にインストールしておきますので四時間ほどお時間をいただけますか?」
理由を聞かずに準備してくれるのはアリスなりの優しさなんだろう。
なんならデータベースのインストールに四時間もかかるはずがない、つまりその時間ぐらい休めという指示でもある。
35にもなったオッサンが久々に感じた自己肯定感、それを潰さないようにするのが彼女の役目。
まったく、良い相棒を貰ったもんだなぁ。
「因みに今回の回収作業ですがマスターが行ったのが一割で私が五割、テネスが四割となっております。インストールするからにはしっかり修練してくださいね」
前言撤回。
優しいとかそんなことなかった。




