142.大手メーカーに呼び出されて
あの後無事に船へとたどり着いた俺達だったが、残念ながら万事丸く収まったというわけにはいかなかったようだ。
アンティークヒューマノイドがいるという噂は一瞬にしてコロニー中に広まり、アリスは一躍時の人になってしまったようだ。
監視カメラの映像を見ると、まるで人気スターを探すかのように大勢の人が血眼になってコロニー中を探し回っている。
もちろん彼女も自分の姿を隠そうと船に戻るなりテネスにも手伝わせて監視カメラの映像などを改ざんしていたようだけど、残念ながらすべてを消すことはできず結果的にコロニー中に拡散してしまったようだ。
人間の欲というのは恐ろしいもの、最終的にあきらめて現実を受け止めたアリスだったが、残念ながらこのままでは外に出すのは危険なので一人船に待機するということになった。
だが、アリスなしでは俺達もどのヒューマノイドがいいのかさっぱりわからない。
ってことで初日に歩いた大通りで例のドローンと一緒に手乗りサイズのアンドロイドを購入、そいつを常時ハッキングするという形でついてくることになった。
「やれやれ、とんだことになったなぁ」
「仕方ありませんよ、こうなるなんて誰にも予想できませんしむしろアリスちゃんは被害者です」
「いきなり追いかけまわすなんてひどい話ですよね。あんなのに捕まったらいったい何をされるのか、想像もしたくないです」
「そういっていただきありがとうございます」
声帯ユニットがついていない人形なのでアリスの声が無線機から聞こえてくる、違和感はあるがすぐになれるだろう。
因みに今はイブさんとローラさんに左右の腕を掴まれる形で大通りを移動中。
アリスがハッキングしている例の人形は俺の肩の上、ドローンは少し離れた頭の上を飛行中だ。
中々の状況に他のコロニーだとすごい目で見られるだろうけど、このコロニーでは人間よりヒューマノイドの方が人気なので二人を侍らせていても特に気にされる様子もない。
「そうでしたマスター、一つお聞きしても?」
「ん?」
「この子を選んだのはマスターの好みだからですか?」
「いや?」
「私が選びました!可愛くないですか?」
「それを聞いて安心しました。もしマスターだったら今後の対応を考えようと思っていたところです」
突然何を聞くのかと思ったら、35にもなったオッサンがこんな人形を買うはずないじゃないか。
フリルのたくさんついたピンク色ドレスを身にまとった少女の人形、子供向けのホロムービーに出てきそうなやつをなぜ俺が買うと思うんだ?
仮にそうだとしても別に自分の趣味をアリスに押し付けることはしないし、むしろこいつに入ってほしくない。
せっかく可愛いのに中身がこれとか嫌すぎるだろ。
「まったく、お前は俺を何だと思ってるんだ」
「マスターならあり得るなとちょっと思ってしまったもので。イブ様、素敵なボディありがとうございます」
「えへへ、どういたしまして」
昨日あんなに派手な大立ち回りを演じたイブさんだが、好みは結構可愛い系で、自室にもそういうものが増えて来ているらしい。
服とかはそうでも無いみたいだけど。可愛いものを見つけるとそこから動かなくなってしまうぐらいだ。
「それにしてもあんな連絡が来るなんて思いませんでしたね」
「メタリア・ダイナミクスっていえば世界有数のヒューマノイドメーカーだからな、そこがわざわざうちに連絡してくるあたり・・・十中八九アリス関係なんだけど」
「私達の船を探し当てるあたりさすが超一流メーカーというところでしょうか。連絡を貰った後潜ってみましたが、なかなかの対策をしていました。おそらく船を探し当てたのも彼らでしょう」
「表向きはヒューマノイドの売り込みでしたけど・・・実際のところどう思いますか?」
「目的は定かではありませんが、一流メーカーの商品をお安く提案していただけるのであれば話だけ聞いても問題はないでしょう。それを強要してくるのであれば丁重にお断りすればいいだけの事、あまりにもしつこいようであればこちらのカードを切るまでです」
大騒ぎになった日の翌朝、ソルアレスの直通アドレスに一件のメッセージが送られてきた。
送り主は超大手ヒューマノイドメーカー、最新式のヒューマノイドを是非紹介したいから皆で遊びに来てほしいという内容だった。
いったいどこからこのアドレスを知ったのかはさておき明らかにアリス目当てナノは間違いない。
最初は断ろうと思ったけれども中々会えない相手でもあるので最終的には引き受けることにした。
一応俺にも手札と呼べるものがいくつかある。
男爵であったり中佐であったりと今までの旅で積み上げてきた関係は素晴らしい物ではあるけれど、できれば使いたくないものでもあるんだよなぁ。
何でも出せばいいってもんじゃない、あくまでも保険のような形で持っておくぐらいの方がメンタル的にも落ち着いてくる。
超一流メーカーの呼び出し、アリスは楽観視しているけれども個人的には何やら大事になりそうな雰囲気はあるんだよなぁ。
とりあえず言われるがまま大通りを進むと、大きなビルが並ぶ一角に到着。
その一番正面かつ一番大きいのがメタリア・ダイナミクスのビルのようだ。
「ようこそメタリア・ダイナミクスへ、アポイントメントはございますか?」
「キャプテントウマだ。名前を言えばわかると言われているんだが」
「お待ちしておりました、どうぞ奥のエレベーターへお進みください。スタッフがすぐに参ります」
「了解」
さすが一流企業、受付嬢もものすごく綺麗で対応も非常にスムーズ、っていうか名前だけで奥に案内されるっていったいどういうリレーションなんだろうか。
「あの・・・」
「ん?」
「お連れのヒューマノイド様は?」
「いるぞ?」
「え?」
「そうか、声帯システムがついてないのか。ここだここ」
俺の肩に載っていたアリスがドレスの裾を手に優雅なお辞儀を披露する。
可愛らしい人形を肩に乗せるというオッサン的ビジュアルとして最低な感じに営業スマイル全開の受付嬢でさえ若干頬を引きつらせている。
やはりアリスが目的だったか。
とりあえず言われるがまま奥へ進むと、エレベーター前で白衣を身に着けた男性が俺達を待っていた。
「ようこそメタリア・ダイナミクスへ」
「お招きいただき感謝する」
「こちらこそ急なお呼び建てしたにもかかわらずご来社いただきありがとうございます。誠に申し訳ありませんが時間もありますので早速参りましょう、社長がお待ちです」
「は?」
「ですので、社長が皆様をお待ちです」
いや、さも当たり前みたいに言われても困るんだが・・・。
社長が待ってる?
俺を?っていうかアリスを?
「どういうことなんだ?」
「社長は無類のアンティークヒューマノイドマニアでして、ぜひ一度お会いしたいとコンタクトを取った次第です。強引なやり方なのは申し訳ありませんが、あの噂を聞いた社長の慌てようと言ったら・・・申し訳ありません思い出し笑いです」
突然横で笑い出す白衣の男性、年は俺よりも少し下だろうか分厚い黒縁眼鏡がよく似合っている。
しかし、自社の社長を客の前で笑えるって中々のつわものだな。
「本人はいないんだが大丈夫なのか?」
「あの噂の中出てこられるとは思っていません。ですがその肩にいる方がそうですよね?」
「わかるのか?」
「アンティークヒューマノイドはそういうものですから。声帯ユニットがついていないようですので、あとで搭載型のヒューマノイドをご準備いたします、そちらをご利用ください」
高速エレベーターはあっという間に俺達を最上階へと連れていく。
下りた先には10m程の廊下が続いており、奥に立派な扉が見える。
あそこに社長がいるのか・・・。
近づくにつれどんどんと緊張が強くなり、横を歩くローラさんが強張った顔をしている。
わかる、わかるぞ。
俺も同じ気持ちだ。
「社長、キャプテントウマが参られました」
豪華な扉をノックし、返事を待たず両開きの扉を引き開けた次の瞬間。
「私のヒューマノイド!会いたかったわ!」
白衣の男性の下をすり抜けるようにして廊下に飛び出してきたのは、齢一桁じゃないかと錯覚してしまうような少女だった。




