141.とある工房を訪問してみて
色々と見て回ったものの、結局どこがいいのかわからなくなるのはよくある話。
テネスの新しい体をと簡単に考えていたのだが、調べていくと勝手にAIを変更してはいけないという規約があるようで話が途中で頓挫してしまった。
どれだけいいボディを見つけてもそこに彼女を入れられなければ意味がない。
これに関しては事前にアリスが確認していたが、彼女曰くハッキングし続ければ問題ないという事らしいけど、結局のところそれは本人の体ではないのでその話は一度なかったことに。
やれやれ、色々見てきたけど結局はそうなってしまうのか。
それなら例のドローンだけ買って船に戻ると・・・あれ?
「帰らないのか?」
「ここまでは小手調べにすぎません、今から行くところが本命です」
「本命って仮にボディがあってもAIはメーカーでしか入れられないんだろ?それに随分と奥まで来てるが、大丈夫なのか?」
「この先は一流メーカーではなく、個人のヒューマノイド工房が並ぶエリアです。個人個人に合わせたオーダーメイド品と言えばわかるでしょうか」
「なるほど、つまりあの三バカと一緒にいたあのヒューマノイドを作っているところだな?」
「そういう事です」
なるほど、そこならAIを入れずにボディだけを買うことができるはず、あの三人を捕まえた後色々と尋問していたけれども、どうやらその答えの一つがここにつながっているようだ。
薄暗い路地を抜け雑多な荷物が積まれた一角を抜けると、そこは怪しげな電飾と卑猥な看板に彩られたなんともにぎやかな通りだった。
さっきの路地には誰もいなかったのに、ここには多くの人が肩をぶつけないように気を付けながら歩いている。
もちろんその横、もしくはその後ろにはヒューマノイドやアンドロイドの姿。
大通りを歩いているのと比べるとちょっと特殊な見た目な奴もいるけれど、それでもヒューマノイドと一目でわかるという部分は変わりない。
「これは、中々刺激的な場所だな」
「非合法すれすれのボディを扱っているとっておきの場所だそうです。職人も有名企業を退社してきたような超一流の人ばかり、皆さん自分の思い通りのボディを作りたくてこの場所にたどり着くんだとか。今から伺う人はその中でも群を抜いて素晴らしい職人なんだとか」
「つまりここのボディならテネスを入れられると?」
「それに関してはまだなんとも。ですが可能性はゼロじゃありません」
「なるほど・・・でも高いんだろ?」
「そうですね、前にお話ししたように最低が1000万、上は3000万まで様々あるようです」
「やっぱりたっけぇなぁ」
「オーダーメイド品としては格安ですよ?」
そりゃオーダーメイド品の中では安いかもしれないけど、ついさっきまで見ていた値段を考えると二倍・・・いや三倍していてもおかしくない。
それに、この間ソルアレスを改造した時の値段がざっとそのぐらいだったことを考えるとかなりの高額だという事がわかるだろう。
間違いなくそれに見合う働きをしてくれるとは思うけれども、如何せん値段がなぁ。
「この間接収した分のお金がありましたよね?アレを使えば買えるんじゃないですか?」
「もちろんそれを利用するつもりでいます。とはいえそれだけでは足りないでしょうから、その不足分を確認に来たというわけです」
「そんでもってここで足りない分を稼ごうってわけか」
「幸いノヴァドッグ同様仕事はいくらでもありますから。それに、この辺りには宙賊も多いようですので、テネス自身にも稼いでもらわないと」
「自分の体は自分で買えってか?」
「そういう事です」
そりゃまぁ二馬力で働けば金もすぐにたまるだろうけど、ボディを用意するのは俺達の希望なんだからそれぐらい出してやればいいのに・・・とは口が裂けても言えなかった。
派手なネオンサインの下、ぞろぞろと店を冷かしていく。
美男美女のヒューマノイド、女型はスタイルもよく男型はガチムチかもしくは細身で程よく筋肉がついている感じ。
もちろんアリスよりも幼い感じの子供っぽいのもいれば、明らかに人じゃなさそうなのを展示している工房もあったけれど、ようはこれが世の中の求める顔でありスタイルなんだろう。
個人的に胸よりも尻、背も別に高くある必要はないし顔だって美人すぎると逆に気後れしてしまう。
つまり俺の好みは人と離れているってことになるんだろうけど・・・まぁ今に始まったことじゃない。
「どうだ?」
「どれも似たり寄ったりでいまいちですね。内部スペックもそうですけど、この程度なら市販品でも変わりないかと」
「でもさっきとは明らかに作りが違いますよね?」
「それはボディに使われている素材でしょう。出来るだけ人間に近づけるようにより精密な疑似皮膚素材を使っていますし、胸の部分なんかもほぼほぼ人の物と変わらない樹脂を注入してあります。内部スペックもそれなりの物ですが、テネスが扱うには少々足りませんね」
「難しいもんなんだな。それで、噂の工房ってのは?」
「この先のはずなんですが・・・どうやら留守のようです」
30分ほどかけて到着した工房なのだが、ネオンは消え中は薄暗いままだ。
せっかくここまで来たっていうのに・・・調べてこなかった俺達が悪いんだろうけどまたここに来ないといけないのか。
とりあえず扉をドンドンと叩いてみるも返事はない。
「やっぱりいないな」
「内部を見ても無人、残念ですがまた次回ですね」
「連絡先とか知らないのか?」
「彼らも直接連絡を取ることはなかったそうです。非常に気難しい人らしくて、紹介を受けないと絶対に会ってもらえないんだとか」
「そもそもいないんじゃそれ以前の問題だけどな」
「仕方ないじゃないですか、連絡できないんですから」
珍しくほほを膨らませて反論するアリス、普段の彼女なら事前準備もばっちりで常にドヤ顔をしてくるのだが今回のようなイレギュラーには弱いってことなのだろう。
本人的には不服だろうが、そのぐらいの方が人間味があっていいと思うけどな。
なんて思ったその時だ。
「あの・・・」
突然後ろから知らない人が話しかけてきた。
「ん?」
「そのヒューマノイド、もしかしてアンティークですか?」
「私ですか?まぁ一応はそういう事になっていますけど・・・」
「やっぱり!このフォルム、この顔、大開拓時代前期に作られたオリジナルシリーズ!本物のアンティークを見られるなんて信じられない!」
突然話しかけてきた若い男が大きな声で騒ぎ始めると、それを聞きつけた他の客や工房主が俺達を取り囲むように集まってくる。
これはあれだな、もしかしなくてもやばいやつだな。
目を血走らせて・・・いや、輝かせて?
ともかく恐怖を感じる雰囲気を纏わせながらゆっくりを手を伸ばすギャラリーたち。
「アリス」
「すみません、失言でした」
「良いから走るぞ!」
アリスの手を取り目の前の連中を強引に押しのけて、ネオンに照らされた通りを走り抜ける。
別に悪いことをしたわけじゃないのになぜ追われなければならないのか、そんなことを思いながらももしここで止まればアリスが無事で済むはずがない。
あそこにいたのはヒューマノイドの事になったら人間が変わってしまうコアなオタクばかり、今までアリスの事をアンティークかどうかなんて聞かれたことなかったから油断したが、見る人から見ればわかるものなんだろう。
先を行く人を押しのけながら走るも、後ろはどんどんと迫ってくる。
このままじゃマジでやばい。
「イブさん、悪いが任せていいか?」
「もちろんです、足止めはおまかせください」
「くれぐれもケガはさせないようにな」
「お願いします、イブ様」
「皆さんもどうかお気を付けて」
まったく、最後の最後にこんなことになるなんて。
最終的に工房街に至るまでの路地で荷物をぶちまけるなどして何とか逃げ出すことに成功、何とか無事に船に戻ることはできたものの、残念ながらほしかった例のドローンを買い求めることはできなかった。




