第155話 拠り所
そして、夜も更けていく。
決戦を前にした快達が拠点で着々と英気を養っている一方、世間は以前とはまた違った反応を見せ始めていた。
——SNS画面
『夜叉、東北と北海道にいたアヴァロン、もう全部片付けたらしいぞ』
『いや、幾ら何でも早過ぎだろwwww』
『やっぱワンオペでも余裕だったか』
『ワンオペ草』
『時給幾らだよ笑』
『笑い事じゃないでしょ。でも、早過ぎるってのは同感。夜叉が幾ら有能っていっても流石に限度があると思うんだけど、それって本当なの?』
『多分な。トレンドが夜叉への感謝で埋め尽くされてるし、信憑性は高いと思う』
『なら、本当に昨日の今日で東北から北海道までの敵を片付けたってこと?それも1人で』
『そうなる。しかもこの時間帯でこれだけの情報が出回ってるってことは、遅くとも夕方には終わってたはず』
『いや、多分だけど昼頃にはもう終わってたよ。トレンドももっと早い時間帯から既に夜叉への感謝で一杯だったし、夕方には中部辺りでも目撃情報あったらしいし』
『て事は、もしや長野で発生したっていう異常現象を解決したのも夜叉?』
『あの有毒ガスがなんとかってやつ?』
『それは幾ら何でも……いや、夜叉ならあるんか?』
『ワンチャン』
『東北→北海道→長野…これが1日の移動範囲ってマジ?』
『しかも、それぞれの場所で戦闘と救助活動までしてるんでしょ』
『……鬼灯って自家用ジェットでも持ってるんか?』
『自家用ジェット笑』
『それはない。管理大変だし、最悪足がつきかねないし』
『マジレスきつw』
『なら新幹線?』
『落ち着け。公共交通機関がまともに動いてないのは、もう周知の事実だろ』
『…そもそも夜叉がそんなまともな移動手段を選んでたら、こんなに目撃情報だって出回ってないはずだからな』
『………50メートル何秒だろう』
『言うに事欠いてそれかよ笑』
『小学生かw』
『でも夜叉ならスタートの踏み切りと同時にゴールしそう』
『マジ全然ある』
『でもさ……速いとか強いとか以前に、ここまでくるとなんか普通に怖くない?いや、味方してくれてるのはすごく有難いし、実際それで助かってるんだけどさ』
『分かる。助かったって声は多いけど、その反面…手段がどうしてもね』
『まぁ、相手がアヴァロンだって分かってても、殺しの忌避感はそう簡単には拭えないよな。ちょっと前の日本じゃ考えられなかったことだし』
『うん…この期に及んで甘いこと言ってるのかもしれないけど、これを機になんかそういうのがどんどん常識になっていくようで怖い』
『鬼灯はアヴァロンとはまた違った意味で容赦ないからな。その性質上、頼りになるって思う人がいる一方で、怖いって思う人が一定数いるのも仕方がないよ』
『前科もあるから余計にね』
『……とはいえ、夜叉がいなかったら、今頃北海道は普通にアヴァロンに堕ちてたらしいけどね』
『え、それどういうこと?』
『詳しく』
『いや、俺も現地組じゃないからそこまで詳しい状況とかは知らないんだけどさ。避難所経由で回ってきた話だと、向こう、指揮系統ごとやられてたらしい』
『……それは実質壊滅状態なのでは?だってそれほぼ今の沖縄と同じ状態じゃん』
『やっぱ本州から離れるとそれだけ防衛も難しくなるのか』
『そうそう。主要都市が早々に潰れて、増援も来なくなって、現場が一気に瓦解したって…それで、もうダメだってなった時に夜叉が来て一気に片付けたんだって』
『漫画じゃあるまいし、そんな都合良くいくか?…って言いたいけど、これまで聞いた感じの夜叉なら全然あり得そうだな』
『でも、その様子じゃ死傷者は結構出ちゃった感じか』
『まぁ、他と比べれば雀の涙ほどらしいけど、風鬼や剛鬼が行った場所でも死傷者は出ているみたいだしね……夜叉と言えど、流石にこの規模で動かれたら死傷者をゼロには抑えられないでしょ。到着が遅れたのなら尚更』
『ゼロだって』
『は?』
『冗談なら笑えないぞ?』
『いや、それが今の所確認されている死者は居ないらしい。念の為、今避難所の職員に問い合わせた。そしたら、まだ確認が取れていないだけかもしれないけど、少なくとも現時点では避難所に遺体は運ばれてきていないって』
『それ、マ??』
『マ。まぁ、流石に全員が全員無傷って訳ではないみたいだけど、事態の重さを考えたら擦り傷程度は殆ど無傷みたいなものでしょ』
『確かに…』
『ヤバイな。何というか…とにかくヤバイな、夜叉』
『語彙力死んどるやん。でも、分かる。夜叉ヤバイわ』
『なんかそれを聞くと途端に申し訳なくなってきた。さっきは怖いとか言ってごめんなさい』
『まぁまぁ危機感を持つのは悪い事じゃないよ…でも、今回に関しては完全に夜叉様々だね』
『間違いない』
『薬叉様』
『ん?薬叉様??』
『今トレンドに上がってきた夜叉の別称』
『別称って何で今更?』
『詳しい事は分からん。でも、なんか札幌の避難所に避難して来た女の子が夜叉が家族の傷を治してくれたって騒いだのが発端らしい。あと、夜叉が出向いた場所はどこも被害者が異様に少ないからって』
『へ〜〜、なるほどね。でも何で薬叉様?そういうの詳しくないけど、なんか意味でもあんの?字的に味方っぽいのは何となく伝わるけど…』
『夜叉
仏教・インド神話に登場する鬼神。
本来は人間に害をなす存在とされるが、仏法に帰依した後は仏や人を守護する存在となった。
戦闘力が高く、荒々しい性質を持つとされる。
薬叉
夜叉と同一語源を持つ存在。
財宝・土地・人命を守護する守護神。
病を癒す、災厄を退けるなど「守り」と「治癒」の側面が強調される場合にこの表記が用いられる。』
『おぉ、恐ろしく対応早いな。優秀優秀』
『以上、人工知能君からでした』
『いや、お前ちゃうんかい笑』
『別にいいやん、分かりやすいし……にしても、同じ存在なのに表記でここまで印象変わるのか』
『ほんとね。でも、ピッタリかも。薬叉様』
『敵が味方か、未だに立ち位置が微妙なところとか特にな』
『でもこれは政府側は扱いに困るだろうな〜。ただでさえ東と西は仲が悪いって噂になってるのに…この件が解決しても暫くは荒れそう』
『東と西って能管のこと?』
『仲悪いんか?』
『西日本支部の設立が公表された時にちょっと噂になったんだよ。表向きは東と西の局長同士が握手したりして仲良さげだったけど、西の奴…名前忘れたけど、そいつの浅霧局長に対する態度がなんたらって』
『京極な。京極高将。眼帯して、古傷まみれで、なんか見るからに歴戦の猛者って感じの風貌の…あの人を寄せ付けない雰囲気的に多分軽く500人は殺ってる』
『仮にも国防を担う立場の人間に向かって、何言ってるんだよ。501人目』
『サラっと殺すな笑』
『でも、この緊急時でもお互いに協力はしているみたいだし、所詮は根も葉もない噂でしょ?』
『まぁ、眉唾ではある』
『ほら』
『でも言われて見れば確かにあれ以来メディアではめっきり見なくなったよな、京極局長。東の浅霧局長とか森尾次長のコンビは割とよく見るのに……やっぱ顔か?』
『顔だな。あの2人がメディア出演するようになってからの経済効果半端ないらしいし。実力に関して不透明な部分もあったから、前はアンチも一定数いたみたいだけど、それは今回の一件で良くも悪くも払拭されたでしょ』
『鬼灯の話題に隠れてたけど、東日本支部の能管の活躍も凄かったみたいだしね。特に浅霧局長…アレは夜叉と同じくらい規格外だわ。水神なんて呼び方されるのも頷ける』
『ちょっと前までは二つ名なんてなかったのに、今じゃSNSで普通に夜叉派か水神派かなんてアンケートが流れてくるレベルで浸透してるもんな』
『因みに私は風鬼派。女の子を守ってる姿にキュンとした』
『第三勢力きた』
『俺は森尾ちゃんの太もも派』
『第四勢力キショ』
『なら、俺は腹筋派』
『いや、キショい勢力増やすなよ。てか、太もももだけど森尾次長、メディアでもそこまで出してないだろ』
『そこは想像でほら…』
『ほら…じゃねぇよ笑』
『まぁ、あのキュッとしたお尻の良さが分からない異端者共は一先ず置いておいて…』
『おい』
『東と西が不仲っていう噂の真偽はどうであれ、荒れそうってのは案外間違ってないかもね。結果の方はともかく、実際、浅霧局長のところは世間から危険視されている鬼灯の手を借りて事態を鎮圧した訳だし』
『それってそんなダメな事なの?結果的に被害が小さく済んだのならそれで良くない?』
『窮地を救った鬼灯を支持する世論も無視する事は出来ないけど、万が一を考慮して動く政府的には、やっぱりあまり喜ばしい状況じゃないでしょ』
『なるほど…となると、あれ。もしかして浅霧局長って結構ピンチ?』
『何らかの責任を取らされる可能性は大。といっても…それもこれもこの事態を解決しないことにはどうしようもないけど』
『願わくば、薬叉様にこのまま竜王も倒してほしいところ。そしたら浅霧局長の判断が間違ってなかったって扱いになるかもだし』
『もしくは、浅霧局長自身がそのまま竜王を倒すか』
『何れにせよ、俺達は祈るしかないな。薬叉様と水神様に…アヴァロンを倒して早く日常を取り戻してくれってさ』
…




