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第31話 孤独

 

「ずいぶん物騒な挨拶だな!」


 ビリルの放った一般魔法が次々と飛んでくる。

 なかには火弾(ファイアボール)もあり、冷静さを欠いていることがよくわかる。


 こんなに因縁を付けられていることすら疑問だというのに、迷惑極まりない。


「妹に会うためなら物騒にだってなるんだよ!」


 妹に会う?それだけ聞くと妹が人質として捕まっていることも考えられるな。


 具体的な目的もわからず、魔力が必要ということしか分からない状況で、無意味に計画を止めるため動くのがいいのか分からない。が、魔物を作ってるのであれば問答無用でいいだろう。


 もし、妹らしき人物がいたときは助ければいい話だ。


 ビリルが距離を詰めようと、一般魔法を駆使して試みるも、常に一定距離以上を保つために、氷の壁や槍を創り出す。


 アーリアの言う通りならば、ビリルに触れられるのは敗北を意味する。

 記憶が曖昧になれば、状況を整理する隙が生まれる。そもそも、敵味方の判別がつかなくなる可能性だってあるのだ。


 なんとも恐ろしい魔法だ。


 しかも露骨に距離をとりすぎて、固有魔法を知っていることが薄々気づかれている。


 距離をとればこちらの魔法の精度も落ちるため、決定打に欠けるのだ。現に今、シンプルな四角い氷をビリルに当てようとして上下から落としているが、一向に当たる気配がない。


「こりゃ困ったな...」


 当たらないことはないが、生成速度に重きを置いているせいで、スパッと豆腐のように斬られている。


 音速で一気に決めたいところだが、洞窟内だと顔から壁にぶつかって死ぬだけだ。


 もっと想像力が豊かであれば、魔法の自由度もあがるというのに。


 動くべきか。気を伺うべきか。

 ここは早めに動くべきだな。ロゼリーの援護にも行きたいし。


 この空間に来てから一歩も動かしていなかった足を動かす。


 冷気が足元に溜まり始め、雰囲気が変わったことを読み取ったビリルも警戒が強まる。

 手数では圧倒的に有利だが、ひとつの油断が敗北に繋がる勝負だ。気は抜けない。


 牽制も兼ねた氷玉が戦闘が激化する合図となった。


 氷の弾幕をくぐり抜けたビリルとの距離を詰め、剣と氷剣がせめぎ合う。


 ビリルの間合いで戦うのはこちらが不利だが仕方あるまい。


「そんなもんかよセン・シルヴァ!」


 交差する剣は段々とビリル優勢へと変わっていく。

 身体強化で上昇する能力値はビリルのほうが上のようだ。力の押し比べではジリジリと負けてしまうだろう。


「そんなに妹に会いたいのか?」


 人を殺してでも会おうとするなんて、たとえ歳が離れていたとしても過保護を超えてシスコンだぞ。


 それに俺を殺しても妹なんてどうにもならないだろうに。


「会いたいに決まってるだろ!あいつは俺の唯一の家族だったんだぞ!」


 だった?おかしな言い方だ。

 もし俺の仮説通り誘拐されているなら、生死なんて分からないはずだ。


 ならば仮説は正しくなく、ビリルの妹は亡くなっていて、それを知っていた上での発言だとしたらどうなる?


「……まさか」


「やっと分かったのか…俺たちが何をしようとしているのか」


「それは死者への冒涜だぞ!」


 怒りに満ち始めた声が洞窟に響き渡る。

 怒りのおかげか剣のせめぎ合いは均衡を保つ。


「はっ知ったことかよ……蘇らせてでももう一度会いたいんだよ。それが家族ってもんだろう?」


 歪んだ思想が氷剣を弾き、無防備となった身体に容赦なく魔法が放たれる。


 防御も間に合わず、轟裂な爆発音とともに吹き飛ばされた。


 直撃部分の衣服は焼け、もろに食らったせいで意識が飛びそうになる。ビリルが牽制として使用していた一般魔法の中には見えていなかった魔法だ。

 おそらく火属性上級魔法の『火薬弾(ファイアーボム)』だろう。


 くそッ……油断していた。冒険者は中級までならほとんどが使えるが、上級からは扱える者は減ってくる。

 それゆえ、近接が主であろうビリルはてっきり使えないと考えていたが甘かった。


「俺は小さい頃から妹と一緒だったんだ」


 壁でぐったりしている俺にビリルは歩き始める。顔は見えないが声からは期待と不安が入り交じっていることがよくわかった。


「両親がいなかったから、金は自分たちで稼ぐしかなくて、それでも俺たちはうまく食いつなぐことが出来てたんだ……出来てたのに」


 まだ声が聞き取れるくらいには意識はあるが、くらくらする感覚に襲われる。

 手のひらを開いては握りを繰り返し、動作確認をする。動きには問題なさそうだ。


「まあ過去のことはどうでもいいさ。もうすぐ会えるようになるんだからなぁ!」


 ハッハと狂気じみた笑い声が聞こえてくる。

 ビリルはもう救えないところまでいってしまっているのかもしれない。


「そんな会い方で……妹が喜ぶのかよ…?」


 笑い声がピタリと止み、眼光が俺を貫く。


「そんな状態のお前を…妹は兄と呼んでくれるのかよ!」


「お前に俺の気持ちなんてわからないくせに!」


「わかってんだよ!」


 ビリルは瞬間驚いた顔を見せたが、すぐに俺を見る目は戻った。


 妹に会いたい気持ちが分からないはずがない。妹だけじゃない。母にだって父にだって会ってまた幸せな時間を過ごしたいに決まってる。


 めり込んだ体を引っ張り出し、意識が朦朧(もうろう)とした中でゆっくりとその足で立ち上がり始める。


「俺にも妹はいた。そして魔王に殺された」


 今でも覚えている。

 あの時の妹の泣き叫んだ表情、声、血に染まった匂いだって。


 そして、シンと誓った魔王への復讐も。


「できるならもう一度会って話して、抱きしめてやりたいよ」


「なら、お前が俺たちを邪魔しようとするのはなぜだ…なぜなんだセン・シルヴァ!」


「妹…あいつは禁忌を犯した俺を兄だと思わないからだ」


 死者蘇生は当然の如く禁忌とされている。

 死者への冒涜だと考えられ、国によっては墓という概念がないところもある。


 つまるところ、死んだものは新たに生まれ変わるべきと考えられているため、もう一度呼び戻すなどあってはならないのだ。


「じゃあ俺はどうすればいいんだよ!唯一の家族を禁忌だからって切り捨てて、のうのうと一人で生きてけって言うのかよ!」


「お前は一人なんかじゃない」


「違う違う違うッ!」


 気づけば俺とビリルの距離は手の届く範囲まで縮まっていた。だが、ビリルは触れようとしない。固有魔法を発動しないのは、心が揺れているからだろうか。


「俺は一人だ!過去も!今も!これからも!」


 胸ぐらを掴まれ、苦しみに満ちたビリルの顔がはっきりと目の前にあった。


 しかし、固有魔法は発動しない。

 心のどこかで、不信感はあったのかもしれない。それが今こうして、対話するに至った要因だろう。


「ビリル…お前にはギルドの奴らがいるじゃねえか。少なくとも俺には、あの場にいたお前は楽しそうに見えたよ」


 魔物の大量発生のことさえ口に出さなければ、こいつは命を賭けてまで妹を待たなくてもよかったのかもしれない。


 苦しい目で見られるのは心が締め付けられる。俺はこんな顔を見たくない。


 俺も通った道だから。


「どんなに時間をかけてもいい…誰だって辛いときは辛い。でも、一人で悩むほうがよっぽど辛いんだ」


 すぐに立ち直れることではない。俺はシンがいたからこうして旅に出れている。


 ビリルが悪いことをしていた事実も変わらない。けど──。


「もっと素直になれよ…」


 胸ぐらを掴んでいる力が弱まっていき、息苦しさが解消されていく。


 立ち尽くしているビリルからは攻撃される気配は感じない。しばらくはこのままだろう。


 かくいう俺も、上級魔法のダメージが大きく、あまり無茶はしたくない。

 この先に見えている道の奥にステラはいるだろうが、未だ姿を見せていないあいつも気になる。


 呼吸を整え、気持ちを冷静にする。


 ビリルを壁に座らせこの空間を後にしようとした──。


「君か…私の計画を邪魔するのは」


 聞こえたのはやつれているような男の声。しかし、その声にはワクワクが隠しきれていないようにも感じる。


「やっと出てきたか…黒幕が」


 ステラを奪ったやつとはまた別だが、白衣を着用し、不気味な雰囲気を醸し出している姿から、黒幕であることは簡単に予想できた。


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