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第30話 光と影

 

 中剣と短剣がせめぎ合い火花を散らす。


 直前の怪我によりエウルはうまく力が入らず押され気味だ。


「……ッく」


 なんとか押し返そうとするが、一向にパワーバランスは崩れない。


 そのもがいている隙をついて、お腹へ強烈な蹴りが入り、エウルは吹き飛ばされる。


水弾(ウォーターボール)


 間髪入れずにライカが一般魔法を発動する。


 ここで火弾(ファイアボール)を使わないのは冒険者だったからこその判断だといえる。

 水属性の魔法は火属性に攻撃力こそ劣るが、その分発動が早い。


 しかし、その威力はこめる魔力量に比例する。


 洞窟の荒い表面が削れる音が聞こえ、辺りは湿リだす。

 しかしそこにエウルの姿はない。


「閃光」


 光がライカを包み洞窟を照らしたと思えば、背後へと回っていたエウルが姿を現した。


「舐めすぎぃ」


 回し蹴りがエウルを捉える。反応が追いつくが、辛うじてガードが間に合う程度だ。反撃は出来ない。


 勢いのまま吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。

 塞がっていない傷口から血が溢れ、痛みが増していく。


 歯を食いしばり、声を出さないよう我慢する。

 本当はそんな必要はないが、エウルの意地がそれを実行させる。


「なぁんでぇそんなに頑張るのぉ?」


「ステラを…助けるためだ」


 ライカは段々とイラついた表情になりつつも、感情に流されてはいけないことを理解しているようで、冷静さを失おうとしない。


 エウルはやりづらさを感じながら、呼吸を整えるためにも、会話での時間稼ぎを試みる。


「お前らは…ステラで何をしようとしてる」


「なんだっていいでしょぉ、別にぃ殺すわけじゃないんだからぁ」


 殺さない。その言葉を聞いてエウルは少しほっとする。強ばっていた表情が少し和らいだのを自分でも感じていた。


 しかし、エウルはすぐに疑いの目をライカに向けた。冷静になって考えれば、敵が言うことなど信用できるわけがないからだ。


「そもそもぉあなた達ってぇ…私たちの目的知らないでしょぉ?なのにぃそんな目で見られるの…気分が悪いわぁ」


「聞いたら教えてくれるのか?」


「邪魔する奴らにぃ教えるつもりなんてないわぁ」


 短剣が投げられ、影になることで被弾を避ける。

 投げられた短剣は頭部が狙われていて、避けなければ死んでいただろう。


「閃光」


 再び影から出されるが、距離は詰められない。動く素振りは見えず、体の向きだけがこちらを捉えている。


 一気に蹴りをつけないことに疑問を抱きつつ、エウルはライカの固有魔法について、ある考えが浮かんでいた。


「ねぇ…あなたって家族はいる?」


 今までとは違う、真面目な話し方に驚くが、ライカから漂う悲しげな雰囲気にエウルは同情を覚える。


「血の繋がった家族はいない…というか知らないが正しいな。育ての親はいるが」


「そう…それは羨ましいわぁ。それに、憎たらしいわぁ」


 憎たらしい?話の内容が見えてこず、エウルは戸惑い始める。


「じゃあ家族を失う痛みはぁ…わからないのねぇ。なら、私の気持ちを話す必要はないわねぇ」


「お前の身の上話はこっちから願い下げだ。なんの目的があって動いてるか分かんないが、さっさとステラを返してもらう」


 立ち上がり、しばらく無言の中向き合い続ける。


 先に動いたのはエウルだった。影に潜って距離を縮めようとする。この戦闘で何度も行った行為だ。


 ライカも呆れたのか、すぐには固有魔法を発動せずに、影を目で追っていた。


「だからぁ相性悪いってのぉ」


 もうすぐで到達するという頃、ライカは固有魔法を発動した。


「閃光」


 洞窟内が光で満ちていく。影が消され、エウルは弾け出される。


 前まではここで攻撃を食らっていた。光によって視界が奪われ、防ぎようもなかったからだ。

 しかし、今回は違った。


 通るはずの攻撃が防がれ、ライカは驚きに目を見開く。これで終わらせようとしていたライカに鋭い痛みが走る。


 エウルの振るった剣が、ライカの右肘から下を切り落としていた。


「────ッ」


 声を出さないのは、さすが元冒険者といったところか。唇を噛み締め、痛みを堪えている。


「あんた、固有魔法を使う時『閃光』って言わなきゃ使えないんだろ」


 血のついた剣を見ながら、ライカの固有魔法についての推測を口にする。


「それに、光ってる間は自分自身も視界は塞がる。だから、光がなくなってからじゃないと動けない…違うか?」


 眼光がエウルを捉える。

 エウルの回答にライカは言葉を返そうとしない。その沈黙をエウルは正解と取ることにした。


 引くことのない痛みに顔を顰めつつも、左手と口を使って布を巻き、止血をする。

 一連の行動の早さは経験からなるものだろう。


「あなた、エウルっていってたかしらぁ。殺すことのできない甘ちゃんみたいねぇ」


 転生者であるエウルは、殺しに対しての抵抗が人一倍強い。それが殺すための攻撃ではなく、戦意喪失を狙った、腕の切り落としとなった。


「右手を失ったんだ。もう勝敗は着いたも同然だ」


「勝敗は着いたぁ?そういうところが甘いって言ってんのぉ。わたしは…目的のためならどんな状態になってもやりきるつもりよ」


 左手で短剣を構え、戦う意思を示す。ダメージで言えば、より蓄積しているのはエウルディスの方であり、ライカは右手だけである。


「なんで…何のために戦っているんだ?動けば動くほど血が減るだけだぞ」


「両親に会うためならぁ、血なんていくらでもくれてやるわ」


 逆手持ちしていた短剣を順手に持ち替え、投擲する。それと同時に踏み出し、再び戦闘が開始される。


「閃光」


 エウルは目を瞑り、発光に備える。しかし、洞窟内を満たしたのは光ではなく、エウルの骨が砕ける鈍い音だった。


 鳩尾(みぞおち)に蹴りが入り、威力に耐えきれずに骨が砕ける。


「ヴッ」


 痛がる隙もなく、短剣を突き刺そうとするライカを影になることで避け、背後から水弾を三発放つ。


「わたしの固有魔法についての話だけど、だいたい正解よぉ。でもねぇ…発動させるかさせないかはわたしの自由意志に属しているのぉ。あなたはぁ自分で考えることを増やしただけよ」


 まともに魔法の練習などしたことのないエウルの水弾は短剣で容易く切り裂かれてしまう。


 エウルディスは焦っていた。

 ライカの言う通り、選択肢が増えて、より戦いづらくなったのはエウルのほうである。

 自らからくりが分かったと暴露し、敵に考える隙を与え、攻撃のチャンスを逃す。少し余裕の出てきていた顔が、苦くなっていく。


 出血量が多いのはライカだが、傷の量が多いのはエウルだ。足に負傷のあるエウルのほうが機動力は低い。


 眼を使う選択肢が頭を過ぎるが、人にはなるべく使いたくない。ライカの言う、甘い考えなのは理解しているが、前世のルールが縛り付けてくる。


 しかし、勝機はあった。


 この戦闘において、未だ毒を使用していないことだ。ライカも存在としては警戒しているだろうが、発動条件やそれが魔法によるものなのかは不明であった。


 毒を使用するには対象に触れることが必要条件となる。

 そのためには低い機動力のなかで、ライカの攻撃を躱しつつ触れる必要があった。


「正直逃げ出したい気持ちでいっぱいいっぱいだよ。でも…この世界で初めて人に必要とされる喜びを知って、温かさを知った。だから僕はあんたを倒す」


「殺すって言い切りなさいよ!」


 水弾よりも威力の高い火弾を三発生み出し、短期決戦を狙う。

 二発はライカを。残りの一発は地面に向けて放つ。


「どこ狙ってんのよぉ!」


 火弾を避けたライカが走る直前に、地面へ向けた一発が爆発し、洞窟内を視認性の悪い煙が包み込む。


「閃光」


 煙の中からの奇襲を防ぐため、ライカは固有魔法を発動した。

 エウルの狙いはそれだった。


 予想で話したように、閃光の発動中はライカ自身も動くことができない。

 言い換えれば、攻撃を避けることの出来ない絶好の隙である。


 投げられた中剣がライカの腹部に刺さる。

 それにより、固有魔法は解け、洞窟内を満たすのは煙のみとなり、魔力探知が緩む瞬間が生まれた。


 体制を崩したライカの背後には既に影から出始めたエウルの姿が見えていた。


 一連の流れを予想して行動に変えていたエウルの伸びた手をライカは避けることができない。


 触れられたことで反応するも、麻痺毒が全身を蝕み、体が動かない。

 左手に握っていた短剣がカランと音をたて、地面に落ち、ライカは座り込んだ状態で動けなくなってしまう。


「地味な勝ち方だけど、僕にはこれがお似合いだ」


 動けなくなったライカを抱き抱え、来た道を戻るのだった。


「どこま…でもぉ…甘いのねぇ……」


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