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第8話 〜(陽人視点)告白と蒼失〜

その日、俺は朝から落ち着かなかった。


理由は分かっている。

放課後、美咲に呼び出されていたからだ。


「なぁ陽人。」


昼休み、蒼がパンをかじりながら言った。


「今日の放課後、予定あるんだろ?」


「まぁな。」

「そっか。」


蒼はそれ以上聞いてこなかった。


なんとなく、全部分かっているみたいな顔をしていた。



放課後、約束の教室へ向かう。

ドアを開けると、美咲が待っていた。


少し緊張した顔。

でも目だけは真っ直ぐだった。


そして。


「陽人くんが好きです。」


心臓が跳ねる。


「私と付き合ってください。」


やっぱり。

なぜかそんな気がしていた。


自信があったわけじゃない。

でも、どこかで予感していた。


俺は少しだけ考える。


そして……。


「……うん。」


言葉が自然と出た。


「付き合ってみようか。」


美咲が嬉しそうに笑う。

その笑顔を見て、悪い気はしなかった。


むしろ、俺の方が先に好きだったくらいだ。

断る理由なんてない。


そう。


断る理由なんて……。


ないはずだった。


付き合い始めてからの美咲は、俺の想像をはるかに超えていた。



昼休み。


「陽人くん!」


いきなり腕を抱きしめられる。


「うおっ!?」

「会いたかった!」

「いや二時間前にも会っただろ!?」


クラスメイトたちが爆笑する。

美咲は全く気にしていない。


廊下でも。

帰り道でも。

休み時間でも。

とにかく距離が近い。


「陽人くん好き。」

「はいはい。」



「好き。」

「聞こえてる。」



「好き。」

「分かったって!」



本当に一直線だった。


太陽みたいなやつだ。

明るくて。

温かくて。

真っ直ぐで。

眩しい。


だから俺も必死だった。

ちゃんと応えようと思った。


手を繋いで。

頭を撫でて。


休日にはデートをして。

恋人らしく振る舞った。


でも……。


夜になると。

ふと考えてしまう。


蒼のことを。


「……最近、話してないな。」


ベッドに寝転びながら呟く。

気付けば蒼は距離を取っていた。


昼休みも。

放課後も。

俺たちに気を使っているみたいだった。



蒼の愛は静かだった。


あいつは何も言わなかった。

好きだとも言わなかった。


でも。


あの抱擁の熱さも。

時々見せる苦しそうな顔も。

全部忘れられない。


美咲の愛が太陽なら。

蒼の愛は月だった。


静かで。

優しくて。

見えないところでずっと照らしてくれる。


どっちがいいとかじゃない。

比べるものでもない。


それなのに。

俺は何度も比べてしまう。



告白された日の夕方。

俺は蒼を呼び止めた。


いつもの帰り道。

夕陽が街を赤く染めている。


「蒼。」

「ん?」


振り返る蒼の顔はいつも通りだった。


俺は言う。


「俺、美咲と付き合うことになった。」


少しの沈黙。

風が吹く。


蒼の前髪が揺れた。


「……へぇ。」


返ってきた声は平坦だった。

感情が見えない。


「おめでとう。」


笑顔もない。

怒りもない。


ただ。


そこにある事実を受け入れただけ、みたいな声だった。


蒼は夕陽を見ていた。

その瞳は、俺ではなく、遠くの空を映している。


なぜだろう。

その横顔が。

ひどく遠く感じた。

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