第6話 〜(陽人視点)葛藤とジレンマ〜
家に帰ってからも、どうにも落ち着かなかった。制服のままベッドへ倒れ込み、天井を見上げる。
そして……また考えてしまう。
蒼のことを。
「……いやいやいや。」
両手で顔を覆う。
考えるな。
考えるなって思うほど、頭の中に蒼の顔が浮かんでくる。
授業中。
ふと視線を感じて振り向いたら、慌てて目を逸らされたこと。
ジュースを渡した時、なぜか妙に動揺していたこと。
サッカーの試合で勝った時、蒼が勢いよく抱きついてきて、しばらく離れようとしなかったこと。
一つ一つなら気にならない。
でも全部並べると……。
「いや、さすがに親友の距離感じゃなくないか……?」
ぽつりと呟く。
そして沈黙。
数秒後。
「……いやいやいやいや!」
勢いよく起き上がる。
何考えてんだ俺!
でも
もし
本当に。
蒼が俺のことを好きだとしたら……?
その瞬間、頭の中に言葉が浮かぶ。
『ごめん。俺はそういう気ないから』
「無理無理無理無理。」
即座に首を振った。
なんだそれ。
言えるわけないだろ。
想像しただけで胸の奥が重くなる。
蒼が傷つく顔なんて見たくない。
……いや。
違う。
それだけじゃない。
陽人は天井を見上げた。
自分でも気づいてしまった。
傷つけたくないから拒否したくないんじゃない。
拒否するって選択肢そのものが、しっくりこないんだ。
「なんでだよ……。」
ぽつりと漏れる。
普通なら困るはずだ。
男同士なんだから。
親友なんだから。
もっと驚いたり、気まずくなったりするものじゃないのか。
なのに…
不思議なくらい嫌じゃない。
むしろ
胸の奥が少しだけ温かくなる。
蒼はいつも俺の味方だった。
俺が失敗した時も。
落ち込んだ時も。
バカやった時も。
誰より近くで笑ってくれた。
誰より俺を信じてくれた。
そんな奴が、
もし本当に俺を特別に思っているなら……。
「……。」
陽人は黙り込む。
そして恐る恐る、その先を考えた。
もし。
本当にもし。
蒼の気持ちを受け入れたら……。
「俺も蒼のこと……」
そこまで口にして。
「いやいやいやいや!」
枕を抱えて転がった。
違うだろ!
何言ってんだ俺!
今までそんなこと考えたことないぞ!?
蒼は親友だ。
一番仲のいい友達だ。
気づいたら隣にいて。
当たり前みたいに一緒にいて。
その関係が心地良かった。
だから。
「壊れんのが怖いんだよな……。」
ぽつりと呟く。
もし蒼が本当に俺を好きだったとして。
俺が応えられなかったら、蒼は離れていくかもしれない。
今までみたいには、いられなくなるかもしれない。
それが嫌だった。
すごく嫌だった。
じゃあ、応えればいいのか?
それは恋愛になるのか?
俺は蒼を男として好きになれるのか?
「分かんねぇ……。」
ベッドへ再び倒れ込む。
考えれば考えるほど分からなくなる。
ただ。
一つだけ。
本当に一つだけ。
確かなことがあった。
「蒼は失いたくねぇな……。」
天井を見つめながら呟く。
その言葉だけは、不思議なくらい迷いがなかった。
親友だからなのか。
それ以上だからなのか。
まだ分からない。
でも。
蒼がいなくなる未来だけは、想像したくなかった。
窓の外を見る。
夕陽はもう沈みきっている。
部屋の中は薄暗かった。
「あーーーーーっ!!」
陽人は頭を掻きむしる。
「分かんねぇって!!」
ベッドの上で暴れてから、大の字になる。
心臓が妙にうるさい。
蒼。
ごめん。
俺、まだ答えが出せない。
でも。
拒否だけはしたくない。
それだけは本当だ。
だから……。
「もう少し考えさせろよ。」
誰もいない部屋でそう呟く。
その声は静かな夜に溶けていった。




