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第5話 〜(蒼視点)霹靂〜

僕はまた、陽人の横顔を盗み見ていた。

授業中だというのに、黒板よりも陽人の方に目が向いてしまう。


ノートを取る手が止まる。

気付けば視線が吸い寄せられている。


ふと陽人がこちらを向いた。

目が合う。

僕は慌てて視線を逸らした。

耳が熱い。


……バレてないよな。


放課後、自動販売機の前でも失敗した。


「陽人、喉乾いてない?これ一緒に飲まない?」


なるべく平静を装ってジュースを差し出す。


「お、サンキュー」


陽人が笑いながら受け取る。

そのとき、指先が少し触れた。


たったそれだけ。


それだけなのに、肩がビクッと跳ねてしまった。

心臓が大きく脈打つ。


「……あ、うん。どうぞ」


やばい。

絶対変な反応だった。


陽人は気付いていないみたいだったけれど、僕は自分の顔が赤くなっていないか焦った。


陽人がジュースを口に運ぶ。

その姿を見ているだけで胸が苦しい。


僕は顔を背けた。


陽人が口を付けた場所が視界に入るだけで落ち着かない。


……何考えてるんだ、僕。


そう思いながらも、結局同じ場所に口を付けてしまう。


甘い炭酸が喉を通った。

それだけなのに、胸の奥まで熱くなる気がした。




先週は陽人の練習試合だった。


僕はいつものようにグラウンドの端から見ていた。


試合終了間際。

陽人が放ったシュートがゴールネットを揺らす。


逆転ゴール。


歓声が上がった。

その瞬間、僕は気付けば走り出していた。


「陽人……!すげぇ、今のマジでかっこよかった!!」


汗だくの陽人に抱きつく。

声が震えているのが自分でも分かった。


首に回した腕に力が入る。

ユニフォーム越しに伝わる体温。

激しく打つ鼓動。


全部が近すぎて、頭がおかしくなりそうだった。


離したくない。

そんなことを思ってしまう自分が怖かった。


顔を上げる。

夕陽に照らされた陽人が笑っていた。


眩しい。


ただそれだけなのに胸が苦しくなる。


僕の目が潤んでいたことも。

頬が熱かったことも、もしかしたら陽人には気付かれていたかもしれない。


……いや。


気付かれていたら、とっくに終わっているか。


今日もいつもの場所で、陽人と並んで夕陽を見ている。


沈みゆく太陽を眺めながら、ただ隣にいられる時間が好きだった。

ずっと続けばいいと思っていた。


すると陽人が不意に言った。


「なぁ、蒼。最近さ……俺、彼女欲しいかも」


一瞬、世界が止まった気がした。


膝の上の指先が震える。

胸の奥を何か鋭いもので刺されたみたいだった。


「……へぇ。急にどうしたんだよ」


なんとか平静を装う。

でも、自分でも分かるくらい声が掠れていた。


胸が苦しい。

息がうまく吸えない。


陽人が幸せなら、それでいい。

そう思ってきた。


陽人が笑っているなら、それだけで十分だと、ずっと自分に言い聞かせてきた。


でも……違う。

本当は違う。


陽人の恋人が僕であってほしい。

陽人の隣で笑うのは僕であってほしい。


その腕に抱かれたい。

その瞳に映りたい。

誰よりも近くにいたい。


陽人の全部を、誰にも渡したくない。

そんなことを考えてしまう。


こんな気持ちを知ったら、陽人はどう思うだろう。


軽蔑するだろうか。

困らせるだろうか。


それでも、この想いだけは消えてくれなかった。


「陽人がそう思うんなら……それでいいんじゃない?」


僕は無理やり笑った。

上手く笑えた自信はない。


夕陽に目を細めて誤魔化したつもりだったけれど、きっとどこか歪んでいたと思う。

それでも陽人には気付かれたくなかった。


隣にいられるだけでいい。

親友のままでもいい。


だから今日も想いを飲み込む。


陽人の温もりを隣で感じながら。

叶わない恋を、胸の奥へ静かに沈めながら。

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