第4話 〜(陽人視点)見過ごす〜
最近、どうしても蒼のことが気になってしまう。
午後の授業。
教師の声は聞こえているはずなのに、頭の中には、ほとんど入ってこない。
俺は軽くあくびをしながら横を向いた。
すると、蒼と目が合った。
蒼は慌てたように視線を逸らす。
その横顔が、どこかぎこちなかった。
……なんだろう。
最近、こういうことが多い気がする。
今思えば、気になることはいくつもあった。
先日の放課後。
「陽人、喉乾いてない? これ一緒に飲まない?」
蒼が自販機で買ったジュースを差し出してきた。
「お、サンキュー」
受け取るとき、指先が少し触れる。
その瞬間だった。
蒼の肩がビクッと跳ねた。
まるで静電気にでも触れたみたいに。
「……あ、うん。どうぞ」
少しだけ上ずった声。
あのときは気にしなかった。
でも今思い返すと、妙に引っかかる。
そして先週の練習試合。
ロスタイム。
俺が決めたシュートがゴールネットを揺らした瞬間だった。
「陽人……! すげぇ、今のマジでかっこよかった!!」
蒼が全力で駆け寄ってきた。
次の瞬間には抱きつかれていた。
汗だくの俺に構わず、強く腕を回してくる。
嬉しかった。
でも、それだけじゃなかった。
あのときの蒼は、ただ興奮していただけじゃない気がした。
震える声。
離そうとしない腕。
夕陽に照らされた赤い顔。
あの表情が妙に頭から離れない。
考えすぎだろ。
そう思う。
思うのに。
気づけば蒼のことを考えている。
今日もいつもの場所で並んで夕陽を眺めていた。
オレンジ色の光が蒼の横顔を照らしている。
昔から見慣れているはずなのに、不思議と目が離せなかった。
だから、なんとなく聞いてみた。
「なぁ、蒼。最近さ……俺、彼女欲しいかも」
蒼の動きが止まった。
ほんの一瞬だった。
でも確かに固まった。
膝の上の指先が小さく震えている。
唇を軽く噛む仕草も見えた。
「……へぇ。急にどうしたんだよ」
平然とした声。
だけど少しだけ無理をしているようにも聞こえる。
俺はそれ以上追及しなかった。
たぶん。
本当は聞きたくなかったんだと思う。
蒼が俺を特別に見ているかもしれないこと。
もしそれが本当だったら。
今まで当たり前だった関係は、当たり前じゃなくなる。
だから俺は気づかないふりをする。
考えないふりをする。
それが一番楽だから。
「陽人がそう思うんなら……それでいいんじゃない?」
蒼は小さく笑った。
夕陽の中で見たその笑顔は、どこか寂しそうだった。
胸の奥が少し痛む。
理由はわからない。
わからないけれど……
その顔をさせたくないと、なぜか思った。
沈んでいく夕陽を見つめながら、俺は隣にいる蒼の温もりを静かに感じていた。




