第14話 〜(陽人視点)蒼〜
美咲と別れた夜、俺は部屋の明かりもつけないまま、ベッドに寝転がっていた。
窓の外では虫の声が聞こえる。
けれど耳に入ってくるのは、今日の美咲の泣き声ばかりだった。
あれから美咲は、ずっと泣いていた。
肩を震わせながら。
俺はその隣にいたのに、何もできなかった。
もし少しでも動けば。
もし少しでも手を伸ばせば。
きっとあの小さな身体を抱き締めてしまうと思ったから。
だから、ただ見ていることしかできなかった。
最低だ。
美咲は何度も顔をこすっていた。
俺に見られないように。
こっそり涙を拭うように。
それでも涙は止まらなくて。
目は真っ赤で。
鼻も赤くなっていて。
それなのに最後には無理やり笑った。
肩はずっと震えてた。
笑顔だって泣き顔だった。
…どうして美咲を悲しませたりするんだ…
「……ごめん。」
暗い部屋で呟く。
返事なんてない。
「ごめん、美咲」
胸が痛かった。
泣かせたからじゃない。
あんなに好きになってくれた人を、最後まで愛しきれなかったからだ。
抱き締めたいと思った。
キスだってしたかった。
それ以上も期待していた。
もっと近くにいたかった。
だけど……。
心の一番深い場所だけは。
最後まで届かなかった。
俺の中には、ずっと別の誰かがいた。
その事実が何より残酷だった。
三日後。
放課後。
いつもの場所。
夕陽が校舎を赤く染めていた。
蒼が先に来ていた。
フェンスにもたれながら空を見上げている。
俺に気付くと、少し驚いたような顔をした。
「……美咲ちゃんと別れたんだって?」
「うん」
短い返事。
やがて、沈黙。
夕陽だけが静かに落ちていく。
蒼の顔が見られなかった。
俺は俯いたまま言う。
「蒼」
「ん?」
「……ごめん」
蒼が少し眉を寄せる。
「なんで僕に謝るんだよ」
俺は苦笑した。
「…美咲にも」
言葉が詰まる。
「蒼にも…」
胸が苦しい。
「俺さ……たぶん、すごくひどいことした」
蒼はしばらく黙っていた。
そして小さく笑う。
優しく。
本当に優しく。
「……いいよ」
俺を包み込むような優しい笑顔だった。
「蒼…。」
「僕は、いいんだ。」
その声は穏やかだった。
責める気なんて欠片もない。
俺がずっと欲しかった、蒼の声、笑顔…
俺は眩しくて、思わず目を細めた。
それから少しずつ、俺たちはまた話すようになった。
授業中。
ふと顔を上げる。
蒼がいる。
気付けば蒼もこちらを見ている。
目が合う。
どちらからともなく笑う。
それだけで嬉しかった。
放課後。
帰り道。
俺は思わず吹き出した。
「……なんか変だな」
「何が?」
「最近の俺ら」
蒼が少しだけ笑う。
「ああ」
そして肩をすくめた。
「…お互い意識しすぎてる」
その瞬間、二人同時に吹き出した。
久しぶりだった。
こんな風に心から笑えたのは。




