第14話 虚構の潜入調査!港区の交渉術と捏造の夜
「いい、一ノ瀬ちゃん? 徹夜なんてオタクのイベント待ちに比べれば余裕でしょ? 明日の朝までに、この『未発表映画のプロット』と『ヒナの役作り用設定資料』を完璧に仕上げなさい!」
鬼島さんに投げられたのは、真っ白な台本と、膨大な量の不祥事の記録。
私は震える手でキーボードを叩き始めた。
(……まさか、ジーク様の二次創作で鍛えた私の妄想力が、アイドルの不祥事を『映画の役作り』に書き換えるために使われるなんて……!)
ヒナくんが夜遊びしていたのは、不良の役を極めるための「役作りの一環」。
酒やタバコを持っていたのは、小道具の馴染み具合を確認するため。
……そんな無理筋すぎる設定を、私は必死に、情熱的な文章で肉付けしていく。
一方その頃、ユウくんはスマホ一台で「港区の闇」を操作していた。
「あ、もしもしー? 昨日の件さ、あれ実はうちのドラマの自主練だったんだよね。……そう、エキストラお疲れ様。あ、口封じとか怖いこと言わないでよー。今度、君の店に可愛い子たくさん連れてってあげるから。……ね? よろしく」
仔犬のような笑顔のまま、半グレ相手に平然と嘘と利益供与をチラつかせるユウ。
俳優としても一流の彼の演技力と人脈は、もはや犯罪的だ。
「……ユウくん。今の、完全にアウトな交渉に聞こえたんだけど……」
「えー? マネージャーさん、人聞きの悪いこと言わないでよ。これは『ウィンウィンの関係』だよ。さ、一ノ瀬ちゃんもこっちおいで。君、仕事早いし、俺の『7股スケジュール管理』も手伝ってくれない? コツはね、相手ごとにキャラを完璧に使い分けて、通知を切ることだよ」
「多重管理術を伝授しないでください!! 効率的すぎて怖いし、私はジーク様一人いれば十分なのよ!!」
朝方。
ひよりの眼精疲労はピークに達し、画面に映るヒナの設定資料が、いつの間にかジーク様のステータス画面に見え始めていた。
「……できた。タイトルは……『裏路地の聖母』。主演・日向ひなた。潜入調査に身を投じる少年の、切ない愛の物語……」
「タイトル重いよ、一ノ瀬さん!! スカイさんの二つ名と混ざってるだろ!」
健人のツッコミが響く中、捏造された「虚構の真実」が完成した。
しかし、私たちはまだ知らなかった。
この「偽の映画プロット」が、なぜか本当に大手配給会社の目に留まり、ヒナが本当に主演映画を撮る羽目になるという、さらなる地獄の入り口であることを――。
「……いい? 一ノ瀬ちゃん。あんたが徹夜で書いたこの『ゴミ(捏造資料)』を、本物の『企画書』に見せかけるのよ。相手は業界の重鎮、鮫島プロデューサー。失敗したらヒナは引退、あんたは極刑よ?」
鬼島さんに脅され、私は高級ホテルのラウンジにいた。
手には、昨晩ジーク様の二次創作スキルをフル稼働させて作った、ヒナの不祥事カモフラージュ用企画書――映画『裏路地の聖母』。
「……ええい、ままよ! 鮫島さん! 実はヒナが夜の街にいたのは、この……この究極のリアリティを追求した社会派映画の役作りだったんです!」
私は、推しへの愛を語る時の熱量で、捏造したプロットをぶちまけた。
「孤独な少年が、闇に呑まれながらも一筋の光を探す……! あの時彼が持っていた缶チューハイは、実は『絶望』という名の小道具なんです!!」
鮫島プロデューサーは、私のあまりの熱量(と捏造された設定の細かさ)に圧倒され、眼鏡を光らせた。
「……面白い。現代の若者の虚無感を、これほど解像度高く描けるとは。この企画、本気なのかね?」
(……やばい、信じちゃった!! どうしよう、「冗談です」なんて言えない!!)
その時、背後から聞き慣れた「爽やかな、けれど金に飢えた声」が響いた。
「ええ、もちろん本気ですよ。鮫島さん。……うちのヒナは、この作品に全てを賭けています」
そこには、いつの間にか現れたスカイさんが、聖母の微笑みを浮かべて立っていた。その手には、電卓……ではなく、グループの収支予定表が握られている。
「スカイさん!? なんでここに……!」
「……一ノ瀬さん。さっきの話、横で聞いていたよ。映画化……いいじゃないか。もしこれがヒットすれば、興行収入、DVD特典、タイアップ……。それだけで三男の大学四年間分の学費と、四男の海外留学費用まで捻出できる……!」
スカイさんの瞳には、もはやアイドルとしての輝きではなく、『円』の記号が宿っていた。
「鮫島さん、今すぐ契約を! ヒナは今日から一歩も外に出さず、この台本通りに生活させます! 役作り(謹慎)はバッチリです!!」
「ちょ、スカイさん! これ、ヒナくんを救うための嘘ですよ!?」
「嘘も百回言えば真実になる……。いや、一億円稼げばそれは『正義』だ!! 一ノ瀬さん、今すぐ追加の脚本を書け! レオンも友情出演させるんだ。ダブル主演なら、五男の塾代もいける!!」
(……この人、学費のためなら魂まで売る気だわ!!)
捏造されたはずの「不祥事隠しの嘘」は、聖母(家計の守護神)の暴走によって、Luminous史上最大の映画プロジェクトへと変貌を遂げてしまった。
私は、泣きながらキーボードを取り出した。
三次元の不祥事を、三次元の映画にするために、二次元の妄想力を注ぎ込む。……私のマネージャー人生、もうどこに向かっているのか分からない。




