第13話 スキャンダル消去のプロと、港区のタイムマネジメントの神
「……ダメだ。これだけの証拠を見てしまった以上、僕一人の『アンガーマネジメント』では握り潰せない……」
スカイさんは涙を拭い、冷徹なリーダーの顔に戻ると、どこかへ電話をかけ始めた。
「……鬼島さん。至急、健人の部屋へ。……あと、ユウも連れてきてください。ええ、予備の『揉み消し部隊』も総動員で」
数分後、健人の部屋(ぶち抜き済み)に、嵐のような勢いで二人の男が乗り込んできた。
一人はお馴染み、鬼のオネエマネージャー鬼島さん。
そしてもう一人は――。
「え?レオンくんが同居? マジ? ウケるんだけど。あ、マネージャーさん初めましてー。ユウでーす」
ふわふわの茶髪に、守ってあげたくなるような仔犬系の瞳。
『Luminous』の「清純・癒やし担当」、ユウくんだ。
しかし、私の脳内資料には、鬼島さんから叩き込まれた「裏の顔」が浮上していた。
(……ユウ。清純派の皮を被った、港区の夜の王。ワンナイトのトラブルは数知れず、現在進行系で最大7股。週刊誌の常連だが、その全てを事務所の力で闇に葬り去ってきた、スキャンダル握りつぶし界のレジェンド……!)
「7股って……。一週間、毎日違う女の子とデートしてる計算よね。移動時間、連絡の頻度、プレゼントの重複回避……。正直、ここまで来るとタイムマネジメントの観点で、尊敬の域だわ……」
「……一ノ瀬さん、今、最低なこと言ったの自覚してる?」
健人が呆れたようにツッコむが、私の目は本気だ。
そんな私を見て、ユウくんはニカッと笑った。
「あはは! マネージャーさん、話がわかるね。そう、愛を回すにはスケジュール管理が命なんだよ。で、スカイさん。今日はどの火消しを手伝えばいいの?」
「これだよ」
スカイさんは、死んだ魚のような目で、震えるヒナと、ぶち抜かれた壁を指差した。
「一ノ瀬さんと健人の同居は、事務所の総力を挙げれば『専用の強化合宿所』という体で握り潰せるかもしれない。……だが、ヒナ。お前の未成年喫煙、飲酒、そして半グレとの関係……こればかりは日向財閥の力をもってしても、完全に消し去るのは不可能に近いぞ」
「……っ、……ごめん、なさい……」
俯くヒナの横で、ユウくんは「へぇー」と他人事のようにコーラを飲み干した。
「ヒナくんも派手にやったねー。でもさ、悪いことかな? 女の子が『抱いてほしい』って言うから抱いているんだよ? それの何が悪いの? 求めに応じるのがアイドルの仕事じゃん」
「ユウ、それはお前の極論だ! ……っていうか、お前はいい加減、撮られる回数を減らせ! 事務所の揉み消し予算の半分はお前の港区遊びで消えてるんだぞ!」
鬼島さんの怒号が飛ぶが、ユウくんは仔犬のような瞳で小首を傾げるだけだ。
「えー、だって俺、清純派だよ? 嘘はついてないもん。だってどの子に対しても、その瞬間は『君だけだよ(ニコッ)』って純粋に思ってるし」
(……こ、この男、天然のサイコパスだ……!!)
「……いい?一ノ瀬ちゃん?あんたもこの『汚物』の片付けを手伝いなさい?同じ女ならわかるでしょ?」
鬼島さんが、血走った目で私を睨みつける。
「ヒナの件は、一旦『役作りのための潜入調査』というガセネタで上書きする。健人の同居は『生活管理の徹底』。幸い、うちは超大手。並のスキャンダルなら、力でねじ伏せてきた実績がある。……だが今回は数が多い。一歩間違えれば、全員解雇よ。」
「解雇!? ……それだけは困ります! スカイさんの弟さんの学費が!!」
「そこ!? 一ノ瀬さん、心配するとこそこなの!?」
健人のツッコミが虚しく響く中、私たちは「スキャンダル揉み消し常習犯」という最悪のプロフェッショナルたちと共に、芸能界の闇へと足を踏み入れることになった。




