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砂漠転生  作者: たまりん
第3章 ラシェンテ編―探訪者の街―
61/74

第61話 金瞳族ロイド・サウル


 第61話です。


 氷の名を持つ存在が、遠き山から手を伸ばす。

 硬化した腕と黄金の瞳が、火花を散らして交わる。

 刃は交わり、殺さぬ選択が未来を分ける。

 物語は静かに、しかし確実に動き出す。



 戦況は、圧倒的だった。


――ドッ!


 当たる、その瞬間だけ見える。

 白銀の狼――ガウルの巨体。


 体当たり。


 明らかな手加減。


 それでも、ひとり。

 またひとり。


 男たちは宙を舞う。


「何をやっている!早く片付けろ!ゴハッ……」


――ドッ!


 ボスらしき男が、ガウルの突き上げをまともに食らう。

 身体がくの字に折れ、高く宙へ浮く。


 その隙を縫うように、手斧を持った男が切りかかってきた。


 右腕を上げ、ガード。


「しねええッ!」


――バガァッ!


 手斧が粉々に砕け散った。

 硬化した腕に触れた瞬間、鉄が耐えきれず弾けた。


(まずいな……全力だと確実に殺してしまう……軽く……軽く……)


 がら空きになった足へ、下段蹴り。


(軽く……軽く……硬化……)


――メキャッ!


 嫌な感触。

 骨の折れる、はっきりとした手応え。


「ぎゃあああああッ……!!」


 男の足は、見たこともない方向へ曲がっていた。


(うわぁ……やっぱり……)


 横合いから、風。

 ガウルが戻ってきていた。


「ナイス、ガウル」


 残りは、ひとり。

 若い短髪の男。


「どうする。あとはおまえひとりだけだぞ」


「……あんたを、連れて行く……試させてもらう……サリア様、待っててくれ……」


 そう言うと、短髪の男は腰からもう一本の短剣を引き抜いた。

 両手に握られた骨製の刃が、逆手のまま淡く黄金色に発光している。


 低く沈み込む。


「Ghrakthzor=Vordazkh」


 喉が膨らみ、何かを発した。

 爬虫類の鳴き声のような声。


 目が、黄金色に輝く。

 さらに深く沈む。


――ドンッ!


 地面を蹴る。

 土煙。


 迫る。


 速い。


 目視できないほどではない。

 だが、人間が反応できる速度ではない。


(全身硬化!)


 首元を守る腕に、黄金を帯びた刃。


――ギャリリリリッ!


 火花。


 もう一本。


――ギャリンッ!


 弾かれる。


「なっ!ウソだろ!竜骨刃(りゅうこつじん)が通らないっ!」


(解除!)


 口元を鷲掴み、硬化。


「……むがっ……」


 そのまま地面へ。


――ドガッ!


 白目。

 気絶。


「ふぅ……死んではいないだろう……」


 ほどなく衛兵が来た。

 事情を説明。


 ボスと思わしき男はお尋ね者だったらしく、タクミは解放された。


 宿へ戻る。

 部屋を変えてもらう。


 翌日、チェックアウト時。

 窓代を請求される。


 金貨五枚。


「くそぅ、俺は被害者なのに、納得いかない……なぁ、ガウル」


 静かに頭を撫でた。


 ガウルは、どこ吹く風といった顔で尻尾を振った。


 ◇


 探訪者協会。

 右奥のテーブル。


「来たわね。こっちよ」


 ルナの横に、もう一人。


 魔術師風の女性。

 栗色のショートヘア。幼い顔立ち。

 白のローブに、剣が交差した紋章。


 タクミは視線を落とす。

 意図して、内側へ触れる。


(……サラディン……)


 知識が開く。


『トルクス帝国の正章――北方大陸トヌメテリオのほぼ全域を掌握する帝国制国家』


 知識は、そこで閉じる。


「紹介するわ。彼女はリシェル。一緒に探訪者をやってるの。リシェル、挨拶して。今回同行してくれるタクミよ」


「は、はじめまして。魔法師のリシェルと申します。よろしくお願いします」


 可愛らしく、お辞儀。


「ああ、タクミだ。よろしく頼む。こっちはキャリア・ハウンドのガウルだ」


 ぬぅっと背後から顔を出す。


「す、凄いですね。白銀の毛並……それに、大きい……。な、なでても大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。ガウルは大人しいからな」


 おそるおそる。

 指先が触れる。


 ガウルは目を細め、尻尾を振る。


「か、かわいい……毛並がふわふわです。それに、これは、風の魔法?……風属性の魔力残滓……この子、魔法が使えるんですか!?」


「使えると言うか……まぁ、すぐにわかるよ……」


「……こ、高位魔獣は、常時魔力を帯びていると聞きます……。無意識の発露だとしたら……この子、強いですか……?」


「……ん、ああ……強いよ。俺より強いかも……」


 リシェルの顔が、ぱぁっと明るくなる。


「凄い……かわいいし、強い……」


 なで回す。

 ガウルは完全に懐いていた。


「座って」


「ん、ああ……」


 リシェルをちらり。


「リシェルには伝えてあるから大丈夫よ。出発は明後日。無名王の封鎖墓までは十日ほどかかるの。明日は旅の支度に当てるわ。費用はこっち持ちだから安心して」


「ああ、わかった。せっかくだからオルデン商会に行っていいか?」


「……そう言えばあなた、伝があったわね……商会長に伝がある探訪者なんてそうそういないわ……」


「商会長?もしかしてタイフって商会長なのか?」


「そうよ。オルデン商会の商会長。それも時期当主よ」


「……そんなに偉い奴だったのか。けどルナには無反応だったな」


 名を呼ばれ、ルナの頬に淡い紅が差した。


「……多分、御父様から釘を刺されているのよ。手を貸すなって」


「ああ、そう言う事か」


「そう言う事よ。じゃあ明日、また同じ時間にここに来て。私たちは納品依頼があるからそろそろ行くわ」


「わかった。また明日な」


「リシェル。行くわよ」


 名残惜しそうな顔。

 ガウルは見送る。


「ガウルは大人気だな。よしよし」


 静かに首筋を撫でた。


 そのとき。


――バンッ!


 協会の入口が勢いよく開く。


 短髪の若者。

 昨日の男。


 悪びれもなく、むしろ晴れやかに。

 目の前まで来る。


 深く沈み込む。

 右手を前に出す。


「手前、生国と発しまするはサラバンチュ山の生まれ。姓はサウル、名はロイド。人呼んで“双牙のロイド”と申します」


 口上。


「……なんだ?もう出てきたのかおまえ……」


「ち、違う違う!勘違いだ兄貴!俺はただ、あいつらの探索依頼を受けただけなんだって!な?な?それよりさ、頼むから一緒に来てくれよ!」


「……俺は兄貴でもないし、話が全く見えないんだが。おまえらのせいで窓の修理代取られたよ。金貨五枚。払え」


「金貨五枚?うっそ、そんな金ねえよ……でもさ、サリア様に、サリア様に会ってくれよ!」


 声が詰まる。


「とりあえず落ち着け。誰だよサリア様って」


「サリア様はサリア様だって!氷のサリア様だよ!兄貴、一緒に来てくれよ!な、頼むって!」


 土下座。


 額が床に触れる音。

 協会の空気が、一瞬で変わった。


(……氷のサリア……聞いた事があるような、ないような……)


 薄く、記憶の縁に触れる。

 意図して、開く。


(……サラディン……)


 七人の亜神――


『水のサラディン』

『砂のエルナンド』

『炎のヴァルディア』

『氷のサリア』

『雷のゼクトル』

『風のリュシエル』

『岩のドゥラガン』


(……氷のサリア、亜神の一人……)


「とりあえず、おまえ、ロイドって言ったか。座れ、あと声がデカい。抑えろ」


 ロイドは素直に座る。


「サリア様ってもしかしてスケスケか?」


「……ああ、スケスケだ兄貴」


 ロイドの声が、ようやく落ち着く。


「どこにいる?」


「サラバンチュ山のハマタイトを抜けた先の岩窟神殿にいるんだ」


「サラバンチュ山?どこにある?ハマタイトってなんだ?」


「トヌメテリオ北方の山だ。ハマタイトは地竜の巣で罪人の流刑地なんだ」


「何故、俺が行かなきゃならん?」


「予言なんだよ!『サラトニアの地に強き者が現れるから連れてこい』って。それで、俺に勝ったのは兄貴しかいなかったんだ!」


「ざっくりし過ぎだろ。それに俺がサリア様を消そうとしてる敵だったらどうする?」


 ロイドは一瞬、言葉を失った。


「……予言……通りだ……『その者は私を消す存在だと名乗るだろう。だが敵ではない』って言ってた……」


 ロイドの声は、絞り出すようだった。


「……そうか……」


 タクミは、窓の外を見る。


「ただ今は先約があってな。急ぎじゃないんだろ?」


「ああ、じゃあ来てくれるのか!」


「どんな事になっても後悔するなよ……」


「ああ、わかったよ兄貴!」


「俺はタクミだ。その兄貴ってのやめろ」


「わかった。タクミの兄貴」


 間。

 タクミのため息。


「……ところで、昨日使ってたあれはなんだ?魔法か?目が金色に光るやつ」


「……あれは、金瞳族(きんどうぞく)にしか使えないんだ」


「金瞳族?」


「祖先が竜族だと信じてる民族の事なんだ。俺もその一人さ。追放されたけど」


 ロイドの声が、わずかに沈む。


「魔法なのか?」


「竜族の言葉で詠唱するんだ。帝国では『竜言語魔法』って呼ばれてるらしいぜ!かっけーだろ兄貴!」


「……竜言語魔法……」


(……サラディン……)


 開く。

 竜言語魔法――。


『詳細不明の古代魔法体系。

 体系化された記録は存在しない。

 理論も確立されていない。

 短い言葉による発動とされるが、それが詠唱か真名かも判然としない。

 強大な現象を引き起こすという噂がある。

 一方で、実在そのものを疑う声もある。

 サラバンチュ山に住む“金瞳族”が扱うと伝えられるが、外部確認例はほとんどない。

 大半は謎』


 知識を閉じる。


「ただ人間が使えるのは第一階梯までらしいぜ。声帯がなんたらかんたらで発音できないらしい」


 ロイドは、自分の喉に触れる。


「あと、もうひとつお願いがあるんだけど聞いてくれるか兄貴」


 声が、急に小さくなる。


「なんだ?」


「金、貸してくれ」


 その声は、これまでで一番、本気だった。


「……」


 タクミは、しばしロイドを見つめた。


 氷の亜神。

 予言。

 竜言語魔法。


 そして――金。


 ため息が、静かに落ちた。


 物語は、またひとつ、別の山へ向かおうとしていた。


(経過日数:422日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第61話「金瞳族ロイド・サウル」でした。


 氷の名は、海の向こうに沈んだまま。

 だが呼び水はすでに撒かれている。

 黄金の光は、その道しるべになるのかもしれない。

 物語は、もう少しで大陸を越える支度に、そっと手を伸ばす。


 第62話「四人の買い籠」


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リシェルとガウル
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