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砂漠転生  作者: たまりん
第3章 ラシェンテ編―探訪者の街―
60/74

第60話 竜骨刃の男


 第60話です。


 夜は静かに見えて、いつも騒がしい。

 安い安寧は、長くは続かない。

 約束は人を巻き込み、道を変える。

 今日もまた、選ばされる。



 翌日の夜。


 宿泊した宿には、なんでも揃っていた。


 豪華絢爛なエントランス。

 磨き抜かれた床は灯りを映している。


 ルームサービス。広い風呂。

 衣類の洗濯までしてくれた。


 小一時間ほどで乾燥までしていた。

 おそらく魔法だろう。


 旅の汚れはすっかり綺麗になっていた。

 砂塵も、森の匂いも、すべて洗い流されている。


 だが、高額。


「……一泊金貨二枚とはな……金がいくらあっても足りないよな。別の宿探すか……」


 独り言は、静かな室内に溶ける。


 二階の窓から外を見ていた。


 夜風が心地よい。

 火照った身体をやさしく冷ます。

 遠くで誰かが笑い、馬車の車輪が石を鳴らす。


 向かいには飲食店がある。


 レンガ造りの落ち着いた上品な外観。

 月灯りの厨房と掲げられた看板。

 窓越しに揺れる橙の光。


 出入りする人々は身なりがきっちりとしている。

 衣擦れの音すら上品に聞こえる。


「……高そうだなあの店……約束しちまったし、しょうがないか……」


 そのとき。


 通りの向こうから、ひとりの女性が歩いてくる。


 ブロンドの髪が月光を受けて淡く光る。

 整った顔はまだ幼さを残していた。


「……来たか……気乗りはしないが話しだけでも聞いてやるか……」


「ガウル、ちょっと出てくるから大人しくしてろよ。食べ物はそこにあるから自由に食べていいからな」


 テーブルの上に置かれた山盛りの肉を指差す。


 なでる。

 ガウルは鼻先を当てる。

 わかった、の合図。


 その瞳は深く、静かだ。


 宿を出る。


 夜気は澄んでいる。

 石畳に足音が落ちる。


 向かいの月灯りの厨房へ。 


「……良かった……来てくれたのね」


「ああ、約束したからな。ただし、依頼を受けるかは話の内容次第だからな」


「……わかったわ」


 店に入る。


 扉が静かに閉じる。


 店内は広い。

 豪華だが落ち着いた装飾が施されている。

 壁の絵画、磨かれた食器、ほのかな香草の匂い。


 店の端では音楽家が鍵盤楽器を演奏している。

 クラシック音楽に似ているが少し違う。

 どこか異国の、懐かしくも遠い旋律。


 予約の確認をしテーブルに着く。


「……なんか、俺には場違いな場所のような気がするんだが……」


「そうかしら?だってあなた、全身が国宝級の装備じゃない。誰よりも高価よ」


「そういう問題じゃない。俺はテーブルマナーなんて知らん。それより、依頼って何なんだ?」


 ルナはウェイターに注文をしている。

 前菜、パン、麺料理、肉料理、デザート。


 流れるような発音。

 魔法のような言語が飛び交う。


「適当に注文したわ。嫌いな物があったら言って、変えてくれるわ」


「あ、ああ……」


 料理が運ばれる前。

 ルナは背筋を伸ばす。


「依頼の事なんだけど。先ず再度自己紹介するわ。私の名前はルナ・フォン・ラシェンテ。この街の領主の娘よ」


 静かな爆弾。


「貴族だとは思っていたが、まさか領主の娘だったとはな……で、そのお嬢様がなぜ探訪者なんてやってるんだ?」


(面倒事の匂いがする……断ろう……)


「……十八歳から探訪者をやってるわ。今年で三年目よ。等級は銀級。あなたと一緒ね」


「家出したのか?」


「……まぁ、そんなところね……。本題を言うわ」


 一瞬、彼女の視線が揺れる。


「……その……私、結婚させられるのよ……好きでもない相手と、それで家を出たの。探訪者を続ける条件が遺物を見つけて名を上げる事。猶予は三年、今年よ……」


(案の定な展開だな……)


「結婚すればいいだろ。相手の容姿が悪いのか?」


「そういう事じゃないのよ!あなた、乙女心がわからない人ね」


(おめんどくさい。断ろう)


「それで……あなたに同行してほしいの。灰哭(はいこく)の地下回廊、黒玻璃(くろはり)の水没遺跡、無名王の封鎖墓。ラシェンテ近郊には未踏破の遺跡が何箇所もあるわ」


「断わる」


 即答。


「……そんな……」


 ルナは手で顔を押さえ泣き出した。


 周囲の目がきつい。

 ざわめき始める。

 音楽が遠く感じる。


「お、おい、わかった……一箇所だけな。一箇所だけ同行してやる。それでいいだろ。だから、泣くのはやめろ」


「そう、受けてくれるのね。じゃあ、頼むわ。料理が来たわ、食べましょう。どうかした?」


 涙はない。


「……たくましいな、おまえ……」


 騙された。

 だが、どこか気に入っていた。


 契約を取る為なら平気で欺く。

 その強さ。


 胸の奥にしまったはずのものが、かすかに疼く。

 乾いた記憶。

 似た匂い。


「それで、どの遺跡に行くんだ?」


「無名王の封鎖墓よ。場所はラシェンテ南西の断崖下。巨大な石扉が閉ざされたままなの。魔術干渉も無効で破壊不能らしいわ。閉ざされた石扉の中から叩く音を聞いたという証言が残っているの。絶対に遺物が眠ってるわ」


「石扉はどうやって開けるつもりなんだ?」


(そんな事より叩く音って……絶対にヤバいのいるだろ)


「開けられなかったら他の遺跡に行くつもりよ。まさか探索もできないのに、一箇所に含めたりしないわよね?」


「……ああ、わかった……開かなかったら他の遺跡に行ってそこで依頼は終わりだぞ……」


 料理は美味かった。

 だが味よりも、これからの予感が舌に残った。


 会計も持ってくれた。


 店の前で別れる。


 月は高い。


(まぁいい、サラディンとの約束も急いでいるわけじゃないしな)


 宿に戻ろうとしたそのとき。


「よう、兄ちゃん。ちょっとこっちまで来てくれるか」


 空気が変わる。

 ガラの悪そうな男たちがぞろぞろと現れる。


 見渡す。

 ざっと十二、三人。


 その中に異様な佇まいの男がひとり。

 短髪、若い男。


 骨のような素材の短剣を逆手に握っている。

 その短剣は淡く黄金色に発光している。


 月光ではない。

 内から滲む光。


 おそらくボスらしき男より強い。


 直感。


(まずいな……ガントレットは宿……一か八かだ)


「ガウルーッ!ガントレットだ!青い宝石の方!」


 その瞬間。


――ガシャーッ!


 向かいの宿の窓が爆ぜる。

 白銀の狼が落ちてくる。


 着地と同時に消える。

 次の瞬間、横にいる。


 いつの間にかガントレットを口に咥えたガウル。


「サンキュー相棒」


 装着。

 青い宝石が淡く脈打つ。


「……!!」


 反応が一拍、遅れてやってくる。

 ガウルの動きは見えていない。


「野郎共やっちまえ!衛兵が来る前に片付けろ!金だ!金を奪え!」


 男たちが動き出す。


 だが。


 短剣の男だけは動かない。

 静かに、こちらを見ている。


 試す目。

 夜が張り詰める。


「ガウル、殺さないでやってくれ。窓代請求しなきゃならないからな」


 ガウルの気配が、わずかに沈む。


 短剣が、わずかに傾く。


 月の下。


 刃と拳。


 過去と現在。


 対人戦開幕。


(経過日数:421日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 丁度1ヶ月経ちました。PVは4000。

 無名投稿者の平均PVは300〜500らしいです。


 タイトルは長文でもなし。

 小説は現実逃避の為の娯楽のはずなのに内容はどちらかと言えばリアルより。

 全く流行りとはかけ離れているのになぜ?


 よぐわがんね。

 と言う事で、まだまだ作者の趣味は続きますのでご安心ください。


 第60話「竜骨刃の男」でした。


 平穏は一瞬で崩れる。

 残るのは積み重ねた判断だけ。

 未来はまだ形を持たない。

 ただ進行だけが現実だ。


 次回、第61話「金瞳族ロイド・サウル」

 

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リシェルとガウル
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