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砂漠転生  作者: たまりん
第2章 古代樹林脱出編
47/74

第47話 静寂の深層

 

 第47話です。


 深層の静寂は、偶然ではない。

 森は選別を始めている。

 記録が途切れる地点へ。

 足を踏み入れる。



 フォレストアンカーとの戦いから七日。


 巨木に印を付けながら。

 歩き続けている。


 同じ景色が続く。

 方向感覚が狂うほどの緑。


 幹は太く。枝は空を覆い。

 光は常に薄い。


 湿った空気が肺に絡む。

 足音さえ吸い込まれていく。


 道中。


 フォレストウルフ。

 背中に棘の生えた猪。サラディンの知識によると、フォレストスパインボアという魔獣らしい。


 何度か遭遇した。


 だが。


 襲ってくるようなことはなかった。


 遠巻きに見ているだけ。


 低い唸り。鼻を鳴らす音。

 だが距離は詰めてこない。


 明らかに。警戒心が強い。

 こちらを値踏みしている。


 いや。


 違う。


――何かを恐れている。


 進むごとに魔獣たちの警戒心が強くなる。

 体感でわかるほどに。


 森の空気が変わっている。音が減っている。

 虫の羽音さえ、少ない。


朽木(くちき)だ」


 久しぶりの朽木。


 道中は1カ所だけあった。


 約四日ぶり。


 穴は空いていない。

 割れ目から滑り込む。


 樹皮は乾き。

 内側は静まり返っている。


 中はぽっかりと空洞になっていた。


 空が見える。

 まだ昼らしい。


 天井は全て抜けている。

 久しぶりの日の光。


 円形状に空が見える。


 落ち葉がわずかに積もっている。

 踏んでも音は小さい。


「ここなら星が見えるな」


 旧サラトニア王国の星読み。

 止まり星を探して左が西。


 サラディンの知識から教わった技術。

 砂漠でも必須だった技術。


 森では空が見えない。


 だから朽木は貴重だ。


「ここで休憩だな」


 荷物を降ろす。

 肩が重い。


 地面は乾いている。


 久しぶりの休憩。


 座り込む。

 木壁に寄りかかる。

 体の奥に溜まっていた疲労が滲み出す。


「ここなら安全そうだ」


 深緑の柩。唯一の休憩場所。

 巨木の朽木。


 この朽木は人ひとりが通れる程度の隙間しかない。


 危険な魔獣は巨大だ。


 ここなら見つからないだろう。


 気が緩んだのか眠気が襲う。

 意識が落ちる。


 


 目が覚めた。


 日が落ちている。夜。

 静かな夜。


 あまりにも静かだ。


 天井を見上げる。夜空が見える。

 星が瞬いている。


 止まり星の位置を確認する。


「大丈夫だ、西へ進んでいる」


 方向は間違っていない。


 奥へ進んでいる感覚はある。


 だが。静かだ。


 進むごとに森は静寂さを増していく。


 同時に。

 生き物達の警戒心も上がっている。


 耳鳴りのような沈黙。


「ん?」


 音。静寂の中に音。


 徐々に近づいてくる。


――ン…。


――ン…。


――ドン…。


――ドンッ…。


――ドンッ…。


 地面がわずかに震える。


 足音。


 巨木の隙間から覗く。

 夜目は効いている。


 ほんの十メートルほど先。

 巨大な人型の魔獣が歩いている。


 ひとつ目。


 盛り上がる筋肉。光沢を帯びた黒い肌。

 体長は五メートルはある。


 肩幅は自分の三倍以上。

 腕は丸太のようだ。


――ドンッ…。


――ドンッ…。


 ハシュー……。


 ハシュー……。


 荒い息遣いが、数歩先から流れ込んでくる。


(なんだあいつは……)


(……サラディン……)


 魔獣の詳細――


『ザグラト。危険度、大以上。体長五〜六メートル前後。外観は灰黒色の硬質皮膚、単眼、隆起した筋肉。特徴として、単独行動を採る。硬質皮膚は斬撃を通さず、圧倒的膂力を有す。その他は不明。生息域は深部。個体数、不明。王国保管記録に曰く——緋金級冒険者四名、深緑の柩深部にて接敵。斬撃、外皮を断たず、戦闘は消耗戦へ移行。継戦不能と判断し撤退、うち一名死亡』


(……深部……)


 喉が鳴りそうになる。必死に押し殺す。


 息を殺す。

 鼓動が速い。


 ザグラトの単眼がゆっくりと動く。


 一瞬。


 こちらを向いた気がした。


 視線が通り過ぎる。


――ドン…。


――ドン…。


――ン…。


――ン…。


 通り過ぎていく。

 木々の奥へ消える。


(……ここはすでに……中層ではない……)


 ここは。


 中層より奥。

 深緑の柩深層入口。


 空気が違う。

 重い。


 王国の記録も、この地点から先は急に薄くなる。


 千二百年を誇る旧サラトニア王国史。


 幾度も編まれた遠征録。


 積み上げられた羊皮紙の束。


 名を刻んだ英雄たち。


 だが。


 深層に踏み込んだ報告は、わずか十数件。


 その多くが途中で途切れている。


 文字は震え。


 筆跡は乱れ。


 最後の一行は、滲んで読めない。


 血か。

 泥か。

 それとも、書き手の手の震えか。


 帰還者は少ない。


 名を残した者は、さらに少ない。


 討伐の記録は、ほとんど存在しない。


 残されているのは。


 撤退。

 壊滅。

 消息不明。


 そして、沈黙。


 森は何も語らない。


 ただ、飲み込み。

 ただ、残さない。


 タクミはまだ知らない。


 自分が今、その空白の縁に立っていることを。


(経過日数:385日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第47話 「静寂の深層」(入口)でした。


 深層入口。

 王国の記録が急に薄くなる場所。

 撤退、壊滅、消息不明。

 タクミは、その続きに立っている。


 次回、第48話「極彩鳥」


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リシェルとガウル
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