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砂漠転生  作者: たまりん
第2章 古代樹林脱出編
46/75

第46話 中層の支配者


 第46話です。


 中層は安全圏ではない。

 生き残っているだけで、強者とは限らない。

 森は選別する。

 踏み込んだ者から順に。



 ガリッ、と刃が樹皮を削る。


 巨木の幹に、小さな印を刻む。迷わぬための目印だ。


 この森には空がない。


 枝葉が幾重にも絡み合い、天蓋のように視界を塞いでいる。星も、月も、太陽さえも見えない。


 星を確認できるのは、朽ちた巨木の中に入ったときだけだ。


 だからこそ、進行方向の管理は命綱になる。


 巨大な根を乗り越えながら歩く。

 ときには迂回する。


 湿った土は柔らかく、油断すれば足を取られる。

 蒸し暑さが、じわりと体力を削る。


 稀にある朽ち木の中で休息を取る。

 幹の空洞から見える、わずかな星明かり。


 それを頼りに方角を修正する。


 砂漠でもそうだった。


 パターンさえ出来上がれば、多少の余裕が出る。

 呼吸の仕方、歩幅、休息の間隔。


 同じ動きを繰り返すことで、精神の揺れは小さくなる。



 あれから六日。


 ゴブリンとは一度だけ遭遇した。


 恐れることはない。


 ガントレットさえあれば敵ではない。


 深層の魔獣以外は。


「ふぅ、蒸し暑いな」


 巨木の根元に座り込む。

 汗が背を伝う。


 外套も湿度までは調整できないらしい。


「そういえばこの世界、薬草とかないのかな。万が一怪我した時とかあれば助かるんだが」


(……サラディン……)


 知識へと意識を沈める。


 深緑の柩に自生する薬草――


『ひつぎ根――中層部にて朽ち果てた巨木の内部より採れる、黒褐色の根である。乾燥させた上で煎じれば、解熱及び解毒の効能を発揮する』


『つゆ花――浅層から中層部にかけて自生する、白き小さな花。筒状の葉の内に溜まった露を飲用すれば、水分補給と疲労回復の効あり。またその葉は、ポーションの原材料として用いられる』


『かんめい草――中層部、巨木の根元に群生する真紅の草。草丈は約二十センチ。夜間にはぼんやりと赤く発光する。致命傷を負おうとも、これを施せば一瞬にして塞がり、即座に戦闘を再開することを可能ならしめる。ただし、極めて希少であり、高額で取引される。故に実力不相応の者が中層へ侵入する原因ともなっている——厄介草として知られる所以である』


「なるほど、かんめい草ね」


 視線を落とす。

 真紅の草が、足元一帯に群れている。


「こんなやつか」


 ブチッ、と一本引き抜く。


 根は浅い。


 鮮やかな赤。


「……」


 サラディンの知識と照合する。


「これ、かんめい草だよな?」


 巨木の根元。


 そこら中に生えている。


 理由は単純だった。


 八百年間、誰ひとりとして取りに来る者がいなかった。


 それだけだ。


「これ、オルデで売れるかな」


 近くに生えているかんめい草を、ありったけバックパックに詰め込む。


 はち切れそうだ。


「惜しいな、まだあるぞ」


 そのときだった。


 ザッ、ザッ、と足音。


 何か。来る。


 複数。


 警戒する。

 視線の先。


 フォレストウルフ。


「やるか」


 荷物を降ろす。


 構える。


 だが。素通り。


 タクミを避けるように後方へ駆け抜けていく。


「なんだ?」


 前を向き直す。


 ドッドッドッドッ、と重い振動。


 地面が震える。


 止まった。


 目の前に、巨大な影。


 立ち上がる。


 両腕を上げる。


――ゴァアアア!!


 咆哮。


 轟音。


 熊。


 だが常識の範囲を逸脱している。


 体長七〜八メートルはある。


 岩のような巨体。


 異様に太い前脚。


「……これは、ヤバイ……」


 巨大な腕が振り下ろされる。


 腰を落とす。

 両腕を顔の前に。

 防御姿勢。


「全身硬化!!」


――バキャ!!


 鈍い衝撃。

 森に響く。


 硬化を解除する。


 熊の腕が、不自然に曲がっている。


――ゴガァアアア!!


 のたうつ。


 だが止まらない。


 飛び込んでくる。


 噛みつき。


「全身硬化!!」


――バキバキバキバキ!!


 牙が砕け散る。


 硬化解除。


 熊が後退する。

 腕は折れ、這いずるように逃げようとする。


 近づく。


 眉間へ。


 硬化手刀。


――ザグンッ!!


 動きが止まる。


「……こ、こわかった……」


 腰が抜け、その場に座り込む。


(……サラディン……)


 魔獣の詳細。


『フォレストアンカー。危険度、大。体長六〜九メートル前後。外観は暗褐色の分厚き体毛、岩の如き巨体。前脚、異様に太し。特徴として、圧倒的膂力を誇り、侵入者を徹底的に排除す。生息域は中層および深部。個体数、極めて少なし』


「デカ過ぎだろ!」


 巨大な死骸を見上げる。


「熊って食えるよな?」


 ナイフを取り出す。


 皮膚は厚いが、刃は通る。


 あまりにも大きい。


 腕の一部だけ切り取る。


 火を起こす。枝に刺し、焼く。

 脂が滴り、火が弾ける。


 獣臭。


 肉は硬い。


 だが、脂身はゼラチン質で濃厚だ。


「うまい」


 久しぶりの肉。


 たいらげる。

 腹は満ちた。


 だが、ここには留まれない。


 夜になれば血の匂いに引き寄せられる。

 魔獣が集まる。


 荷物をまとめる。


 バックパックは重い。

 かんめい草で膨れている。


 歩き出す。


 深緑の柩。さらに奥へ。


 中層の空気は重い。


 湿度が高い。


 だが、足取りは迷わない。


 パターンは出来上がった。

 印を刻み、朽ち木で星を見て、進む。


 繰り返し。


 繰り返し。


 その先に、何があるのか。


 巨木の影が揺れる。


 森は静かだ。


 だが奥底で、何かが息をしている。


 タクミは歩く。


 深層へと。


(経過日数:378日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第46話「中層の支配者」


 階層が変われば、生態も変わる。

 中層は“適応できる者”だけが残る場所。

 森の掟がさらに牙を剥く。


 次回、第47話「静寂の深層」(入口)


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リシェルとガウル
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