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砂漠転生  作者: たまりん
第2章 古代樹林脱出編
45/74

第45話 深緑の柩中層


 第45話です。


 小さな命は、数で襲う。

 大きな命は、存在だけで圧す。

 森は段階的に牙を剥く。

 ここは、まだ入口にすぎない。



 枯れた巨大樹の内部。その夜。


 タクミは浅い眠りから目を覚ました。


 やはり、眠れない。


 砂漠での生活に身体が慣れすぎたのか。わずかな物音で意識が浮上する。

 一時間か二時間おきに目を開け、呼吸を整え、耳を澄ます。


 枝葉が擦れる音。

 遠くで何かが地を踏む振動。


 森は静かだ。だが沈黙ではない。


 確認する。


 身を起こす。見るのは夜空。星の位置。


 巨木の空洞。天井の裂け目を見上げる。

 細く切り取られた黒い空。


 探すのは「双つの剣」。


 二本の剣が交差する星座。


 その交点を結んだ延長線上。

 唯一、動かない星。


 止まり星。


 呼吸を止める。


(あった)


 交点の先。止まり星は正面。


(合ってる)


 正面が北。背が南。右が東。左が西。

 進行方向に狂いはない。


「大丈夫だ」


 緊張がほどける。


 そのまま、壁にもたれた姿勢で眠りに落ちた。


 目を覚ます。


 裂け目から陽光が差している。


「朝か」


 異常なし。それで十分だ。


 水を飲む。干し肉を噛む。

 味はどうでもいい。


「方角は合ってる」


 荷を背負い、外へ。


 深緑の柩。

 光は弱いが、確かに朝だ。


 その日も印を刻みながら進む。


 ガリッ。


 幹に傷が入る。


 その時。


 左後方。枝が折れる音。


 止まる。呼吸を止める。


 十秒。


 二十秒。


(気のせいか)


 三歩目。


 今度は前方。葉擦れ。


 視線を上げる。


 二十メートル先。巨木の根元。

 影。


 低い背。長い四肢。発達した指。


 目が合う。琥珀色。


 粗末な棍棒。


 緑褐色の皮膚。


「ごっごご、ごごうご、ゴブリン!?」


「ゲギャッ!」


 低い声。それを合図に、周囲の陰から次々と影が現れる。


 一匹、二匹、三匹、四匹。


 五匹。


 数えた瞬間には、彼らは跳ねるように散開していた。

 左右。前方。後方。完璧な包囲ではない。

 だが、逃げ道は確実に狭められている。


 ザッ。


 腐葉土を蹴る音。

 獲物を確かめるように、琥珀色の瞳がタクミの全身をなぞる。

 

 腕のガントレット。背負った荷物。


 敵意は明確。


(来るなら)


 先手。


 右前方。滑るように移動。


「シッ!」


 足を横から振り抜く。足刀。

 硬化した足の外側が空気を裂き、頭部に直撃する。


――バガァッ!


 一匹目。


「フッ!」


 右足が地につく。腰を切る。左へ。

 突き。硬化した拳が胴体中央を捉える。


――ドコッ!


 二匹目が後方の巨木に叩きつけられる。幹に背中を打ち付け、そのままずるずると地面に崩れた。


 包囲が崩れる。

 右足を軸に左足が弧を描くように回転。

 包囲の外に出る。


「ゲギャッギャギャ!」


 怒号。同時に飛びかかる。

 左から棍棒。正面から石斧。

 右からは飛びかかるように爪。三方向。同時。


「フンッ!」


 左足を踏み込む。唇が噛まさる。力み。

 腰の回転で振り抜く。上段回し蹴り。


――ヒュッ!


 硬化した足が空を裂く。円を描く一閃。


 三匹の体が蹴りの軌道上に重なる。足刀が三匹の胴体を一度に薙ぎ払った。


――バゴォ!


 三匹が同時に、蹴りが当たった箇所から切り裂かれ、バラバラにはじけ飛んだ。


 サラトニア古式戦技。

 対魔獣戦闘術。


「強すぎね、俺?」


(……サラディン……)


 意識を沈める。


 魔獣の詳細。


『フォレストゴブリン。危険度、単体にあっては小〜中。集団時は中〜大。体長約一メートル。外観は緑褐色の皮膚、痩躯。石器または粗末な武器を使用す。特徴として、罠・奇襲・待ち伏せを好む。知能は低きも狡猾なり。生息域は中層部。個体数、多し』


「こう言うのは序盤の敵だろ。てかまだ中層か……」


 深層の個体は違う。


 サンダーレイブン。


 ロア。


 デヴァウア。


 格が違う。


「ここから先だ」


 ゴブリンを一瞥。


 弱い。

 だが数は脅威。


 ここが単独侵入の限界線。


 その先が、深層。


 歩く。


 印を刻みながら。


 木々は太くなる。

 根は絡み合い、光は減る。


 湿った空気。腐葉土の匂い。


 遠くで鳴き声。


 低い。


 腹に響く。


 森が揺れる。


 止まる。


(違う……)


 ゴブリンではない。


 森そのものを変える存在。


 黒いワイバーンを思い出す。


 あの圧。


 この奥にも、いる。


「進む」


 一歩。


 また一歩。


 背後の印は見えない。


 前は闇。


 それでも。


 タクミは歩く。


(経過日数:372日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第45話「深緑の柩中層」でした。


 小鬼は前座にすぎない。

 森はまだ本気を見せていない。

 光は細く、空気は重い。

 それでも彼は、深層へ向かう。


 次回、第46話「中層の支配者」


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リシェルとガウル
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