表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠転生  作者: たまりん
第2章 古代樹林脱出編
44/75

第44話 届かぬ光


 第44話です。


 砂漠を抜け、辿り着いたのは深緑の柩。

 光届かぬその場所で、男はただひたすらに歩き続ける。

 方角も曖昧、魔獣に怯えながら。届かぬ光を求めて。



 眠れない。


 ほんのわずかな葉擦れの音で、タクミは目を覚ます。


 あれから四日。

 歩き続けているが、進むごとに森は濃さを増していた。


 巨木が空を覆い、光を遮断する。


 昼か夜かも判然としない。


 湿った空気が肌にまとわりつき、腐葉土の匂いが鼻を刺す。


 巨大な根が幾重にも絡み合い、行く手を遮る。

 そのたびに登り、降り、回り込み、進行速度は確実に落ちていた。


 星が見えない。方角が曖昧になる。


「これはまずいな……。どうしたらいい」


(……サラディン……)


 意識を沈める。


 森で方角がわからなくなった時の進み方――


『樹に印を刻みつつ進み、開けた場所を見つけては星の位置を確認する』


「開けた場所、あるのかここ……?」


 根の上に立ち、前方を見渡す。

 視界の先、遥か奥まで続くのは、直径十メートルを超える巨木の列。幹と幹の隙間すら薄暗い。


 光は、届かない。


「迷うな、進むしかない」


 巨木の表面に、硬化した指を押し当てる。


 ガリッ。


 深い傷が刻まれる。

 これで戻れる。そう自分に言い聞かせる。


「出会ってはいけない魔獣」


 サンダーレイブン。


 ロア。


 デヴァウア。


 出会ったら終わりだ。


 サンダーレイブンは最深部水場に生息する。

 水場に近づかなければ遭遇率は低い。


 問題はロアとデヴァウア。森の頂点捕食者。

 どちらも移動範囲が読めない。


 常に、背後に何かいる感覚が消えない。

 空気が張り詰めている。


 突然、思い当たる。


(そういえば、硬化に魔法は効かないって言ってたな)


 即死級の雷撃。耐えられるのか。


(……サラディン……)


 言葉にならない情報が流れ込む。


『雷魔法の中には、対象を即死させる威力を有するものが存在する。特に第四階梯以上の魔法は、生身の人間には耐性が不可能である。しかしながら、君に譲渡したガントレットは対亜神用に設計されており、硬化は七重構造を有する。理論上は第八階梯までの攻撃にも耐え得る』


階梯(かいてい)ってなんだ?」


『根源より力を搾り出す時に踏むべき段階、すなわち階梯のことである』


「要はランクってことか」


『超越者は根源に対して直接的な干渉を許されており、その結果として最高位である第八階梯までの行使が可能である。一方、人間の身体で扱えるのは第五階梯が上限である。なお、サンダーレイヴンの放つ雷撃は推定出力が第四階梯相当ないしそれ以下であり、これを受けても生還した者が存在する。討伐報告は二件確認されている。従って問題はないと結論づけられる』


「マジかよ、チートだな、この小手」


『油断するな。魔獣の中には、我ら亜神に匹敵するものも存在する』


「黒いワイバーンか」


 あの絶望的な巨体を思い出す。


 油断など、するわけがない。


 

 動きに鈍さが出始める。


「安全な場所を探そう」


 深緑の柩。


 安全という概念が存在するのか。


 それでも、休まなければ判断力が鈍る。


 木に印を刻みながら、黙々と進む。


 足元の根を越えた瞬間。

 視界が、わずかに開けた。


 一本の巨大樹。根元にぽっかりと穴が空いている。


 慎重に近づく。中を覗く。


「空洞か」


 その巨木は寿命を全うし、内部が朽ちていた。直径は十五メートルほど。内部は広く、天井は抜け、わずかに空が見える。乾いた地面。腐葉土も少ない。


「とりあえず、ここで休むか……。眠くて無理だ……」


 荷を下ろす。背を空洞の内壁に預ける。

 ひんやりとした木肌。


 天井の裂け目から、細い光が差している。


「ここから星が見れればいいけどな」


 外からの物音に神経を張る。

 風が枝を揺らす音。遠くで何かが踏みしめる音。

 獣か。風か。判別できない。


 ここは爆心の外。


 だから残った。森も。魔獣も。


 超越の儀の爆発は、この地を削りきれなかった。

 ならば当然。当時の頂点種も、生き延びている。


 この森は、滅び損ねた世界の残骸。


 光は、届かない。


 だが完全な闇でもない。わずかに差す細い光が、空洞の中央を照らす。その光の中を、塵がゆらりと舞う。


「進むしかない」


 戻れない。砂漠を越え、ここまで来た。

 今さら五日も七日も迂回などできない。


 最短で抜ける。それだけだ。


 目を閉じる。


 浅い眠りに落ちる。


 意識の奥で、森がざわめく。


 届かぬ光の下。深緑の柩は、静かに息をしていた。


(経過日数:371日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第44話「届かぬ光」でした。


 四日間歩き続け、ようやく見つけたわずかな休息場所。

 朽ちた巨木の空洞は、かすかな光が届く安息の地。

 だが、この森の静けさはいつまで続くのか。


 次回、第45話「深緑の柩中層」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシェルとガウル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ