表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠転生  作者: たまりん
第1章 砂漠脱出編
42/74

第42話 砂の切れ目


 第42話です。


 砂が粘土を帯び、枯れ草が生え始める。

 終わりを感じさせる変化に、彼は静かに足を進める。

 長かった砂漠の旅も、あと少し。



 巨大な砂丘を下る。


 ザザザ……。


 足を取られる。踏み出すたびに砂が崩れる。

 体重をかけると、そのまま流される。


 それでも止まらない。


 前へ出る。足を出す。体を預ける。バランスを取る。崩れる。立て直す。それを繰り返す。


 下りは速い。登りとは違う。


 徐々に勾配が緩む。

 やがて地面が水平になる。


 止まる。


 しゃがむ。


 砂を掴む。指の間から落とす。

 さらさら。


 だが完全には流れない。指先に残る。

 わずかな重み。


「完全な砂じゃないな」


 砂はわずかに粘土を含んで湿っている。だが土ではない。


 立ち上がる。

 歩き出す。


 ザッ。


 ザッ。


 足音が変わる。

 沈まない。踏みしめられる。進みやすい。


 黙々と進んでいく。進む根拠がある。


 風が変わる。乾ききっていない。

 ほんのわずかに湿りを感じる。


 やがて草が見える。枯れている。黄金色。

 ぽつりぽつりと生えている。


 木がある。影が見える。


 近づく。足を踏み入れる。

 温度が変わる。涼しい。


 木の影で休息を取る。


 見上げる。

 太い幹。


 近くで見ると、巨大だ。

 幹の太さは十メートルはある。


「この世界はなんでもデカイな」


 背を預ける。硬い。

 風を防いでくれる。


 進むごとに植物の密度が上がっていく。植生が変わる。草が増え、木が増え、間隔が狭くなる。生き物も増えていく。小さな影が地面を横切る。素早い。消える。



 六日目。


 一際大きな木にたどり着く。


 幹も枝も巨大だ。

 影が深い。


「ここで一日休むか」


 バックパックから干し肉を取り出す。

 残りを確認する。まだある。


 砂狼は干し肉にはしていない。

 理由は実家の犬に似ていた。

 それだけだ。


 砂に埋めて弔った。


 焚き火を起こす。手慣れたものだ。

 枯れた枝がそこらに落ちている。燃料には困らない。


 火が上がる。

 パチパチと音がする。

 影が揺れる。


 空を見上げる。


 満天の星空。

 見慣れている。

 だが綺麗だ。


 星の位置を確認する。

 進む方角を確認する。

 毎日の日課だ。


「間違えてないな」


 絶対に間違えてはいけないことがある。営業も同じだ。方角を間違えれば全てが無駄になる。


 焚き火に木を足す。


「そういえば合コンの約束してたな」


 声に出してみる。


「集合場所は砂漠で、なんつってな……」


 独り言。

 いつもの事。


 独身でよかった。

 家族がいたら、戻る方法を優先していたはずだ。

 サラディンとの約束どころではない。


 それに。


 今となっては戻りたいと思っていない。


 人は刺激を求める。生きるか死ぬかの生活。

 過酷だが、悪くない。


 砂を触る。わずかに湿っている。


「もう少しだ」


 焚き火に木を焚べる。

 四、五時間は持ちそうだ。


 魔獣の気配はない。

 だが警戒は怠らない。


 目を閉じる。

 浅く眠る。



 朝方。


 起きる。

 何事もなかった。


 焚き火は燃え尽き、煙だけを上げている。


「よし、行くか」


 荷物を確認する。忘れ物はない。

 大丈夫だ。


 出発する。


 西へ。


 西へと歩く。


 歩く。


 歩き続ける。


 一日目。草が増える。木々の間隔が狭くなる。足音が変わる。砂の音ではない。土の音に近い。


 二日目。砂の色が変わる。粘土を帯びた色だ。湿り気を含んでいる。朝には露が草に付いていた。


 三日目。緑を帯びた雑草がぽつぽつと見え始める。枯れているだけではない。生きている。


 休息を取りながら、歩き続ける。


 徐々に、草木が増えていくのが見て取れる。

 砂が粘土を帯びた色に変わる。


「抜けた……。のか……」


 遠く。

 まだ遠いが木が生えている。


 既視感。

 日本で見たことのある木。


 ペースを上げる。

 走りはしない。


 ただ、一歩一歩を確かめるように、前に、前に出す。


 振り返らないと決めている。


 背後には、あの果てしない砂の海がある。

 歩き続けた日々が、そこにはある。


 サンドワームを生で喰らった日々、ワイバーンに怯えた日々、白砂地帯を歩いた日々、砂狼と対峙した夜も。全部、あの後ろにある。


 でも、見ない。


 境界線は曖昧だった。ここからが砂漠で、ここからが違う。そんな線はどこにもなかった。気がつけば、草が生えていた。気がつけば、木が立っていた。気がつけば、足元の砂が、土の色に変わっていた。


 それだけだ。


 それでも確かに、抜けた。


 たった一人で、何もない砂の海を歩き続けた。終わりがあるのかも分からなかった。いつ死んでもおかしくなかった。それでも、歩いた。


 歩き続けた。


 その先に。


 土がある。草がある。木がある。風に湿りがある。朝には露が葉に宿る。生き物がいる。命が息づいている。


 そして、この先に――街がある。


 人がいる。話し相手がいる。水が飲める。風をしのげる場所がある。ビールがある。


 希望だけを頼りに、歩き続けた約一年。その希望が、今、形になろうとしている。


 背後には広大な砂漠。振り返ることはない。あそこはもう、自分のいる場所ではない。過ぎ去った場所だ。通り過ぎた道だ。


 前だけを見る。


 木立の向こう。まだ見えない。でも、ある。


 確かにある。


 旅はまだ終わってはいない。終わりはサラディンとの約束を果たした時、それから――それからは、また考える。


 今は、ただ。


 歩く。


 この一歩が、次の一歩が、確実に街へと続いている。それで十分だ。


 まだ、歩き続ける。


(経過日数:362日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第42話「砂の切れ目」でした。


 砂から土へ。

 枯れ草から生きる草へ。

 長かった砂漠の旅が、静かに、終えていく。


 これにて第1章「砂漠脱出編」は完結です。

 彼の旅はまだ終わらない。


 次回より第2章「古代樹林脱出編」が始まります。


 新たな地で、彼は何を見るのか。

 どうぞ、引き続きお付き合いください。

 

 次回、第43話「古代樹林」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシェルとガウル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ