第41話 砂の見晴し台
第41話です。
工房を離れ、再び砂の旅へ。
止まっていた足が、静かに動き出す。
その先に、わずかな変化が見え始めていた。
工房を出る時。
タクミは足を止めた。
振り返る。
崩れた煙突。半ば砂に埋もれた工房。
それでも確かに、風と夜をしのいだ場所。
しばし見つめる。
ゆっくりと手を合わせる。
目を閉じる。
感謝。
そして、供養。
(ありがとうゴント、助かった)
短く、それだけ。
手を下ろす。
背を向ける。
歩き出す。
ザッ。
ザッ。
あれから六日。
やる事は変わらない。
歩く。
ただひたすらに、終わりの見えない砂の上を。
だが。
以前とは違う。
岩陰がある。影がある。
休める。
白砂地帯のような、命を削る行軍ではない。
足を止められる。水もある。干し肉もある。
現在位置も把握している。
余裕がある。
ザッ。
ザッ。
風が変わる。
砂の流れが緩い。
前方に。斜面。
なだらかな勾配。
だが長い。どこまでも続く砂の坂。
「キツイな……」
足を止めない。
呼吸を一定に保つ。
登る。
ひたすらに。
砂に足を取られる。
一歩ごとに沈む。
進んでいるのか、わからなくなる。
それでも。
登る。
半日。
ようやく頂が近づく。
最後の数歩。踏みしめる。
視界が開ける。
風が抜ける。
止まる。
「……」
見下ろす。
砂の海。
その中に――
「木?」
ぽつり、ぽつりと点在している。
太い幹。ずんぐりとした逆三角。
幹のてっぺんから枝が垂れ、根のように地面へ伸びる。葉は少ないが確かに付いている。
水を抱えているような重さを感じる形。逆さまの木。
そんな印象が残る。
さらにその先。視線を伸ばす。
地平線。
その上に――
「雲だ」
白。
浮かんでいる。
今まで見なかったもの。
ただ晴れ渡るだけだった空に、初めての変化。
形。厚み。風に流れている。
「オルデはあの向こうだ」
確信。間違いない。
腰を下ろす。水を飲む。
風が頬を撫でる。
砂が流れる音。
静かだ。
だが。
何かが変わっている。
その時。視界の隅。
動く。
トカゲ。
体長五十センチほど。
止まる。目が合う。
一瞬。
弾けるように走る。
速い。
砂を蹴る。消える。
「増えてきたな」
ここまで来て、明らかに違う。
生き物。気配。木。影。
風の匂い。
乾ききっていない。
わずかに湿りを感じる。
(近いな)
立ち上がる。拳を握る。
力が入る。
「絶対にオルデでビールを飲むぞ!」
固く。
決意。
ザッ。
ザッ。
足取りは軽い。
確実に、終わりへ向かっている。
砂漠の終わりへ。
(経過日数:353日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第41話「砂の見晴し台」でした。
砂の向こうに現れた木と雲。
それは終わりではなく、次への兆し。
旅は、確実に前へ進んでいる。
次回、第42話「砂の切れ目」





