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砂漠転生  作者: たまりん
第1章 砂漠脱出編
40/74

第40話 砂狼


 第40話です。


 火の残る工房の夜は、どこか落ち着いていた。

 静寂の中、確かに終わりの気配が近づいている。

 だが砂漠は、それを許さない。



 工房を拠点にして七日。


 夜。


 炉に火がともされている。


 排気の煙突は崩れていたが、詰まっていた石をどかし、使えるようにした。


 赤い火が揺れる。

 石壁に影が這う。


 床は乾いている。

 砂も少ない。


 静かだ。


 ここは使える。


 職人がいれば、そのまま仕事ができそうなほどには片付いていた。


 火かき棒を手に取る。

 先に干し肉を刺す。

 炉にくべる。


 パチパチ。


 脂が落ちる。

 火が跳ねる。


 肉の焼けた香ばしい匂いが鼻をかすめる。


 引き抜く。

 かぶりつく。


「うまい、が、塩気がほしいところだな」


 噛む。

 飲み込む。


 ふと。


「……人間って塩摂らなくても生きていけるのか?」


 疑問だ。だが生きている。

 異常はない。


「まあいい。体調は悪くないしな」


 火を見る。揺れる。

 揺れ続ける。


「長居し過ぎたな。明日には出発するか」


 決める。


 立ち上がる。


「工房最後の夜だ。サボテン焼きも食っとくか」


 スロープへ向かう。

 足音が石に響く。


 外に出る。

 暗い。


 夜目が効く。

 砂漠の生活で夜目は欠かせない。

 慣れている。


 その時――ガサッ。


 止まる。


 工房のまわりの瓦礫。

 聞き慣れない物音。


 何かいる。


 気配。

 視線を向ける。


「肉の匂いにつられて来たか」


 暗闇の中。

 目が光る。


 ひとつ。


 ふたつ。


 ……増える。


 その時――背後。


――ザッ。


 反応。

 防御の構え。


「硬化!」


――ガキィッ!


 噛みつき。

 右腕。


 そのまま。

 左突き。


「シッ!」


 最短。


――ゴッ!!


 眉間。

 鈍い衝撃。


 ドサッ。


 砂に落ちる。

 ビクビクと痙攣。


 視線を落とす。


「ダイヤウルフ?」


 違う。


 一回り小さい。

 軽い。


 すぐに顔を上げる。


 周囲。暗闇に光る目。

 増えている。


「五?いや十はいるな、囲まれたか」


 じり、と距離が詰まる。


 左右。背後。

 逃げ場を塞ぐ。


 一瞬。

 思考。


(工房に入るか、いや、悪手だ)


 この砂漠。食い物はほぼない。

 見つけた餌を見逃すはずがない。


「やるしかない」


 息を吐く。

 構える。


 初めての一対多数。


――ザッ。


 来る。

 先頭の2頭。


 低い。


 速い。


 同時。左足を踏み出す。

 右足が弧を描く。しなる。


 当たる瞬間。


「硬化!」


――パンッ!!


 炸裂。右方の狼の頭がはじけ飛ぶ。

 血と砂が散る。


 もう一頭。

 大口を開けて飛び込む。


 左腕。防御。


「硬化!」


――ガキィッ!


 噛ませる。


 同時。右突き。


「フッ!」


――ドコッ!!


 腹部に命中。


 腰は入っていない。だがこの硬さ。

 ただでは済まない。


 ドサッ。


 沈む。


 サラトニア古式戦技。

 軍用拳闘術。


 戦闘を最適化。

 無意識。


 次の動作へ移る前に――止まる。


 周囲。光る目。


 距離が開く。


 さらに。遠ざかる。

 闇へ。


「逃げたか」


 息を吐く。

 肩の力を抜く。


(……サラディン……)


 意識を沈める。


 外観をイメージし、照会――


『魔獣の名はフォレストウルフなり』


「いや、だからここ砂漠」


 返す。

 だが続く。


『西方の森林地帯に棲息する魔獣である。中型の四足獣で、高い持久力と集団行動を主な特徴とする。群れの規模は五頭から十五頭程度。包囲戦術と個体間の連携によって狩りを遂行する。嗅覚及び聴覚が発達しており、特に血の匂いに対して強く反応する。活動は夜間に限られる。危険度は単独遭遇時には低いが、群れと遭遇した場合は中程度と判定される』


 沈黙。


 倒れた個体を見る。

 痩せている。

 砂に汚れている。


「八百年経ってもいるってことは、砂漠に適応したってことか」


 答えはない。


「……」


 視線を上げる。


「砂オオカミに改名な」


 呟く。


 踵を返す。


「まだいるかもしれないし、サボテンはあきらめるか」


 工房に戻る。

 スロープを下る。


 炉の火はまだ生きている。

 パチパチと鳴る。


 その前に座る。


 静かだ。


 戦いの余韻が、体の奥に残っている。


 拳を見る。指を開く。

 閉じる。


 骨の軋みはない。


 腕を見る。

 無傷。


 ゆっくりと息を吐く。

 肺に残っていた熱が抜けていく。


 鼓動が落ち着いていく。


 視線を火へ戻す。


 赤い。揺れる。

 一定のリズムで、燃え続けている。


 小さく息を吐く。

 肩の力を抜く。


 背を壁に預ける。

 瞼を半分だけ閉じる。


 音は火だけ。外は闇。

 砂は静かだ。


 夜の帳が、ゆっくりと下りていく。


(経過日数:347日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第40話「砂狼」でした。


 群れは去ったが、脅威は消えたわけではない。

 砂に適応した命が、静かに牙を研ぐ。

 歩みは止まらない。


 次回、第41話「砂の見晴し台」


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リシェルとガウル
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