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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
36/39

第36話 手甲の諸元


 第36話です。


 死の淵から戻ったタクミ。

 だがその代償は、確かに身体に刻まれていた。

 静かな拠点での休息。

 そして、力の正体がわずかに牙を見せる。


 

 あれから二日。


 タクミは詰所で休んでいた。

 完全に体調が戻るまでは、もう少しかかりそうだ。


 壁にもたれ、ゆっくりと息を吐く。

 指を動かす。問題なく動く。

 だが、まだ全快ではない。


「……危なかった」

 小さく呟く。

 水筒に手を伸ばす。


(……水筒がなかったら確実に死んでいた)


 思い出す。

 身体中の水分が抜け出る感覚。

 止まらない嘔吐と下痢。

 意識が削られていく感覚。


(……拠点で良かった)


 視線を落とす。

 乾いた石床。

 石壁。

 ここだから、生きている。


(……外だったら魔獣の餌になってたかもな)


 ぞっとする。


 干し肉を手に取る。

 噛む。

 ゆっくりと。

 顎に力を込める。

 ――噛める。


(……戻ってきたな)


 少しだけ、口の端が上がる。


 砂漠だというのに。

 外套のおかげで適温だ。

 熱すぎず、寒すぎない。


 静かだ。

 ゆったりとした時間が流れる。


 その中で、ふと気になっていたことを思い出す。


(……あの時)


 サンドバラクーダと戦った時。

 フォレストダイヤウルフと戦った時。

 殴ろうとした瞬間、身体が勝手に動いた。


(……いや、違うな)


 眉をひそめる。


(……拳術の達人の動きに変換された、か)


 正確に狙い、無駄のない動き。

 明らかに自分のものではない。

 だが、確かに自分が動いている。


(……身体能力が強化されているのはわかる)


 神の因子。

 それは理解している。


 だが。


(……あの動きの説明にはならない)


 思考が止まる。


 学生時代、柔道。

 黒帯。

 組み技はできる。


 だが。


(……打撃なんて素人だ)


 拳の使い方など知らない。


(……やっぱりチートあるのか?この世界)


 一瞬、考える。


(……んなわけないか)


 この世界は、そんなに甘くない。


 だとすれば――


 視線が落ちる。

 ガントレット。


「……これか」

 軽く握る。

 開く。

 違和感はない。

 むしろ、馴染んでいる。


「……サラディン……」


 呟く。

 意識を沈める。

 探る。

 触れる。

 ――来た。


『製作者はゼクトル』

 感覚が流れ込む。

 言葉ではない。

 だが理解できる。


『そのガントレットは私が800年をかけて改修したもの』


「……長ぇな」

 思わず声が漏れる。

 だが、情報は止まらない。


『内側に施した魔法陣の内容を教えよう』

 視界の奥に、図形が浮かぶ。

 重なり合う円。

 絡み合う線。

 複雑な構造。


『硬化の魔法が7重で発動できる』


 拳を見る。


(……7重)


 納得する。

 あの硬さの理由。


『温度調整』


 確かに。

 熱も冷たさも感じにくい。


『劣化防止』


(……壊れないわけだ)


 砂漠を歩き続けても問題なかった理由。

 理解する。


 だが、まだ続く。


 少しの間、沈黙。

 ――来る。


『さらにサラトニア古式戦技の理合いを封じた』


 止まる。


「……は?」

 間の抜けた声。

 理解が追いつかない。


『馴染むごとに君の助けになるだろう』


 思考が回る。


(……理合い)


 つまり、技術。

 動き。

 型。


「……あの動きか」

 拳を見る。

 ゆっくりと構える。

 踏み込む。

 打つ。

 ――出る。

 迷いのない一撃。

 無駄がない。


(……そういうことか)


 息を吐く。


「……どおりで達人みたいなパンチになるわけだ」

 納得する。


 だが。


『私は古式戦技はやった事がないので教本の内容だがな』


 止まる。


「……やった事ないんかい!」

 思わず声が出る。

 詰所に響く。

 返ってくるのは静寂だけ。


「……なんじゃそりゃ」

 頭を押さえる。


 だが、少し笑う。


「……まあいいか」

 実際に使えている。

 問題はない。

 むしろ。


(……助かってる)


 拳を軽く振る。

 空気を切る。


(……サラトニア古式戦技)

 言葉を転がす。

 軍用の拳闘術。

 殺人術。

 対魔獣戦闘術。


「……物騒だな」

 呟く。


 だが。


(……この世界じゃ普通か)


 現実を見る。

 生きるか死ぬか。

 それだけだ。


 ふと、考える。


「……ん?」

 自分を見る。

 拳を見る。


「……これ、俺のジョブってなんだ?」

 剣はない。

 派手な魔法もない。

 あるのは拳。


「……モンク?武闘家?」

 口に出す。

 間。


「……地味すぎね?」

 苦笑する。


 だが拳を握る。

 硬い。

 強い。


(……悪くない)


 むしろ。


(……生き延びるにはちょうどいいか)


 納得する。


 その時。


『ゼクトルに会ったら一度点検をしてもうといい』

 再び流れ込む。

『魔法陣以外の箇所なら直せるはずだ』


 目を細める。


「……ゼクトル」

 名前を繰り返す。


(……雷のゼクトル)


 知識を探る。

 触れる。

 ――黒。

 塗り潰される。


「……教えないってことか」

 小さく呟く。


 だが。


(……敵じゃなさそうだな)


 なんとなく、そう思う。

 根拠はない。

 ただの感覚。


「……まあ、そのうちか」

 会うかもしれない。

 会わないかもしれない。

 どちらでもいい。


 今は、ここで生きるだけだ。


 壁にもたれ直す。

 目を閉じる。


 風の音。

 砂の音。

 遠くの気配。

 だが、近づいてはこない。


 静かな時間。


(……悪くない)


 呼吸が整う。

 身体が馴染む。

 ガントレットが、腕に馴染む。


(……使えるな)


 確信する。


 ゆっくりと目を開ける。


「……もう少し休むか」

 呟く。

 焦る必要はない。

 進める時に進めばいい。


 タクミはそのまま、再び目を閉じた。


(経過日数:326日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第36話「手甲の諸元」でした。

 

 静寂の中、力は形を持つ。

 そして、歩みは止まらない。

 

 次回、第37話「再出発」


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