第28話 岩陰の夜
第28話です。
死砂の大平原。
変わらない砂の海の中で、久しぶりに影を見つける。
タクミは岩陰で一夜を過ごす。
遠くに影が見えた。
白い砂の中に、黒い塊。
タクミは目を細める。
「……岩か」
歩く速度が少し上がる。
ザッ。
ザッ。
軍靴が砂を踏む。
近づくにつれて形がはっきりしてきた。
巨大な岩だった。
人の背丈の何倍もある。
砂の海に、ぽつんと立っている。
タクミは岩の影に入った。
直射日光が消える。
「……助かるぜ」
バックパックを下ろす。
サンドワーム皮のバックパックが砂に沈む。
タクミは岩にもたれた。
影は大きい。
久しぶりのまともな日陰だった。
「ここで一日休むか」
誰もいない砂漠に呟く。
タクミはバックパックを開いた。
干し肉を取り出す。
サンドバラクーダの干し肉。
歯で噛み切る。
少し硬い。
だが。
「……ん」
ゆっくり噛む。
味が出る。
魚の旨味。
「カツオっぽいな」
思わず笑った。
「意外と食える」
もう一口齧る。
魚臭が口に広がる。
「やっぱ日本人は魚だよな」
ぽつりと呟く。
白い砂の地平線を見る。
今日も何もいなかった。
魔物も。
動く影も。
ただ静かな砂漠。
タクミは干し肉を飲み込む。
「……そういえば」
自分の体を見る。
腕。
足。
動きに問題はない。
腹も減る。
だが。
「干し肉しか食ってないのに」
体調は悪くない。
むしろ普通だった。
「……これさ」
首を傾げる。
「この世界チートあるんじゃね?」
思わず笑う。
「レベルとか」
砂を見ながら続ける。
「サンドワームとロドス、結構倒したしな」
手を前に出す。
空へ向ける。
「もしかして高レベルとか?」
少し期待を込めて言った。
「ステータス!」
沈黙。
風もない。
何も出ない。
「……」
タクミは腕を下ろした。
「だよな」
苦笑する。
岩にもたれ、空を見上げる。
思い出す。
サラディンの言葉。
召喚の時。
神の因子。
飢えも乾きも遅くなる。
「……あれか」
小さく呟く。
「神の因子に触れたとかいうやつ」
膝に肘を乗せる。
砂を見つめる。
「けどなぁ」
少し眉をひそめる。
「あいつ、引きこもりだからな」
苦笑する。
「本当なんだろうか」
タクミは横を見る。
腕にはガントレット。
水色の宝石。
砂の光を反射している。
そして。
隣には瓢箪型の水筒。
タクミはそれを手に取る。
水を一口飲む。
ぬるい水が喉を通る。
「……サラディン」
ぽつりと呟いた。
夜になっていた。
空には星。
数えきれない光。
タクミはガントレットを見る。
水筒を見る。
「……あんたのおかげで」
静かな声。
「まだ生きてるよ」
星空を見上げる。
遠い光。
静かな世界。
東京を思い出す。
ビル。
電車。
コンビニの光。
会社。
会議室。
上司の顔。
タクミは小さく笑った。
「……まあ」
肩をすくめる。
「会社よりは静かだ」
岩陰の夜。
風はない。
砂の音もない。
ただ星が瞬いている。
タクミは岩にもたれたまま目を閉じた。
孤独。
だが。
少しだけ慣れてきていた。
(経過日数:238日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第27話「岩陰の夜」でした。
死砂の大平原の静かな夜。
タクミは少しずつ、この世界に馴染み始めています。
孤独な旅はまだ続きます。
次回、第29話「砂の地平」




