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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
24/34

第24話 空の王者


 第24話です。


 城塞遺跡の空には王がいた。

 黒き翼の魔獣ワイバーン。

 タクミはただ息を潜めていた。

 嵐が過ぎ去るのを待ちながら。



 ワイバーンがこの辺りを狩場にしてから二週間が経過していた。


 昼過ぎ。

 いつもの時間になるとロドスが騒ぎ始める。


 ギャア。

 ギャア。


 空を見上げる。


 黒いワイバーン。


 巨大な影が砂原を滑るように横切る。


 ヴァサッ!

 ヴァサッ!


 重い羽音が空気を震わせる。


 ワイバーンの狩りの時間なのだろう。


 あの巨体。

 サラディンの知識がなくても勝てないことはわかっている。


 悠久の時を生きた個体。


 黒いワイバーン。


 旧サラトニア王国でも目撃報告はある。

 だが討伐報告は一切ない。


 白銀のワイバーンも同様だ。


 空の王者。


 それがこの魔獣だった。


 タクミは瓦礫の陰に身を潜める。

 息を殺す。


 羽音が頭上を通り過ぎる。


 砂が舞い上がる。


 やがて音は遠ざかる。


 静寂が戻る。


 そんな日々が続いていた。


 ひっそりと拠点で怯えながら暮らす日々。


 焚き火は夜だけ。

 干し肉の在庫はまだある。


(大丈夫だ)


 サラディンの知識が頭に浮かぶ。


(ロドスが現れるようになったら近くに水場がある可能性が高い)


 タクミは井戸を見る。


 崩れた石に囲まれた井戸。


 だが首を振る。


(水場は魔獣のたまり場)


 生き物は水に集まる。


 魔獣も同じだ。


(わざわざ危険を冒して探すことはしないほうがいい)


 今のままで生きていける。


 それで十分だった。


 城塞遺跡に来てから三十八日目。


 その日の昼過ぎ。


 タクミは違和感に気づいた。


 静かだった。


 ロドスたちが騒がしくない。


 いつもの時間だ。


 だが鳴き声が聞こえない。


 タクミはゆっくり空を見上げた。


 青い空。


 何もいない。


(……来ない)


 羽音もない。


(ワイバーンが狩場を変えた可能性が高い)


 胸の奥の緊張が少しだけ緩む。


 その日の夜。


 タクミは決意した。


 これ以上の探索は危険だ。


(欲を出すな)

(遺跡ならまだこの先にも絶対ある)


 干し肉もそこまでは減っていない。


(出発するなら今しかない)


 荷物をまとめる。


 干し肉。

 水筒。

 ナイフ。


 バックパックを背負う。


 砂漠の夜に西へと旅立つ用意をする。


 瓢箪水筒を手に取る。


 少し水を出す。


 髭を湿らせる。


 ナイフを当てる。


 硬い髭が削れて落ちる。


 次に髪を掴む。


 伸びた髪も適当にナイフで切った。


 髪が砂の上に落ちる。


「よし、行くか」


 井戸を見る。


 生きている井戸がすぐ横にある。


 澄んだ水。


 だが諦めるしかない。


 水浴びより命を取るのは当たり前だ。


「水浴び……したかったな……」


 小さく呟く。


 タクミは城塞遺跡の門をくぐる。


 砂漠の夜。


 冷たい風が吹く。


 星が空いっぱいに広がっていた。


 タクミは西を向く。


 砂を踏む。


 城塞遺跡が背後に遠ざかる。


 振り返らない。


 タクミは砂漠の夜へ歩き出した。


(経過日数:151日)


 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第24話「空の王者」でした。


 城塞遺跡での潜伏生活はここで一区切りです。

 空の王者ワイバーンの脅威が去った夜。

 タクミは再び西へ歩き始めます。


 次回、第25話「死砂の大平原」


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