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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
23/34

第23話 蛙の軍靴


 第23話です。


 城塞遺跡探索も十日目。

 何も見つからない日が続く中、タクミは倉庫区の瓦礫を片付け始める。

 そこで見つけたのは、八百年の時を越えて残っていた一つの軍の記念品だった。



 城塞遺跡探索、十日目。


 外套を見つけてから、目ぼしい物は何一つ出ていない。


 井戸横の拠点で、タクミはバックパックを開いた。


 取り出したのは、大樹司祭の法衣。


 布地は砂でざらつき、ところどころ黒ずんでいる。


 鼻を近づけた。


「……うわ」


 顔をしかめる。


 汗、砂、血、肉汁。


 全部染み込んだ匂いがした。


「まあ……世話になったしな」


 法衣を丁寧に畳む。


 捨てる気にはならない。


 バックパックにしまった。


「街に着いたら洗うか」


 小さく呟き、立ち上がる。


 今日は倉庫区だ。


 城塞遺跡の奥。


 そこは瓦礫の山だった。


 崩れた壁、折れた梁、砕けた木箱。


 丘のように積み上がっている。


「ここ、後回しにしてたんだよな」


 足元の木片を拾う。


 軽く押す。


 ボロッ。


 崩れた。


「……やっぱダメか」


 木箱の残骸がそこら中に散っている。


 だが原型を保っているものはない。


 良い木材なら数百年持つらしい。


 だが、ここの箱はほとんど崩れていた。


「食料庫だったのかもな」


 タクミは瓦礫の山を見上げる。


「……よし」


 距離を取る。


 助走。


 瓦礫へ蹴りを放つ。


 足が当たる直前――


 硬化。


 ドゴッ!!


 瓦礫の山が崩れた。


 石が転がり、木片が飛び散る。


 すぐに硬化を解除する。


「やってみたかったんだよな。硬化キック」


 硬化すると動けない。


 だから当たる瞬間だけ使う。


 完全にタイミング勝負の荒技だった。


「行軍中は絶対やらないけどな」


 足を硬化したまま歩いたら転ぶ。


 それはさすがに笑えない。


 だが瓦礫処理には最高だった。


「なんか新鮮だな」


 再び助走。


 蹴る。


 硬化。


 ドゴッ!!


 瓦礫が崩れる。


 倉庫の奥へ、少しずつ道ができていく。


 砂煙が舞う。


 埃が喉に入る。


「ゲホッ……」


 咳き込みながら作業を続けた。


 しばらくして。


 倉庫の中程まで瓦礫をどかした頃だった。


 瓦礫の中に異質なものを見つける。


「……ん?」


 瓦礫をどける。


 石を蹴る。


 崩れた木材を払う。


 現れたのは――


 木箱。


 タクミはしゃがみ込んだ。


 周囲の箱はすべて腐っている。


 だが、この箱だけ違った。


 木目が滑らかだ。


 傷もほとんどない。


 新品のようだった。


 表面を撫でる。


 刻まれている魔法陣。


(劣化防止か)


 なるほど。


 箱の側面に刻印があった。


「ん?」


 文字。


 それと紋章。


 タクミは目を細めた。


 頭の奥。


 サラディンの知識を引き出す。


 記憶がめくれる。


 紋章。


 貴族。


 軍制。


(……辺境伯家?)


 刻印された家紋。


 旧サラトニア王国の辺境伯家の紋章だった。


 文字も読める。


「入隊記念品……」


 タクミは笑った。


「軍の記念品か」


 蓋を開ける。


 ギィ……。


 中に入っていたのは――


 ブーツ。


「おお」


 思わず声が漏れた。


 灰色の軍靴。


 滑らかな革。


 質感はかなり良い。


 ただ――


「少し小さくないか?」


 タクミは自分の足元を見る。


 ボロボロのローファー。


 底は擦り減り、布は裂けている。


「まあ」


 ローファーを脱いだ。


 砂がぱらぱら落ちる。


「ダメ元で一応履いてみるか」


 ブーツに足を入れる。


 その瞬間。


 ヌポンッ!


「!?」


 足が滑り込んだ。


 革が柔らかく伸びる。


 足に沿う。


 締め付けはない。


 なのに――


 ぴたりと密着していた。


「なんだこれ」


 立ち上がる。


 一歩。


 二歩。


 軽い。


 驚くほど軽い。


「こんな素材……」


 日本では見たことも聞いたこともない。


 頭の奥に知識が流れる。


 サラトニア湖。


 今は枯れて存在しない湖。


 そこに棲んでいた魔獣。


 サラトニアフロッグ。


 その素材で作られた靴。


 高耐久。

 高反発。

 高通気性。


 当時でも高級品。


 貴族しか履いていなかった。


「なるほどな」


 タクミは箱を見る。


「辺境伯家の坊っちゃんに贈られた品か何かか」


 もう一歩踏み出す。


 地面を蹴る。


 軽く跳ねる。


「……履き心地は確かにいい」


 だがそれだけだ。


 歩きやすい。


 それだけの靴。


 タクミはローファーを見た。


 ボロボロだ。


「ありがとう、営業靴」


 完全に履き替えた。


 ローファーはその場に置く。


 タクミは木箱を持ち上げた。


「これ、井戸の水汲みに使えないかな」


 その時だった。


 ギャア。


 ギャア。


 ロドスの鳴き声。


 タクミは顔を上げた。


「……なんだ?」


 崩れた司令塔の上空。


 黒い影が旋回していた。


 巨大な影。


 ロドスが逃げ回る。


 だが――


 一匹が空へ引き上げられた。


 バキッ。


 肉が裂ける音。


「……なんだあれ」


 タクミは目を細める。


 この距離からでも分かる。


 翼。

 尾。

 巨大な爪。


 体長は――


 二十メートルを超えている。


 飛竜。


 頭の中にサラディンの知識が流れる。


 もしワイバーンに出会ったなら――


 色を確認しろ。


 黄と赤。

 比較的温厚。


 青と緑。

 砂漠にはいない。


 総じて子育ての時期は近寄るな。


 黒と白銀。

 出会うことはない。


 だが――


 もし出会ってしまったなら。


 絶対に逃げろ。


 戦闘力は。


 亜神にも匹敵する。


 タクミは目を凝らした。


 旋回する巨体。


 鱗。

 翼。


 色は――


「……黒」


 背筋が凍る。


「出会って……しまった……」


 黒いワイバーンが、ゆっくりと旋回していた。


「……ヤバい」


(経過日数:113日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます


 第23話「蛙の軍靴」でした。


 ついにタクミの靴が更新されました。

 そして空には黒いワイバーン。


 次回、第24話「空の王者」


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