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砂漠転生  作者: たまりん
第1章 砂漠脱出編
21/74

第21話 城塞遺跡


 第21話です。


 砂丘の向こうに、巨大な遺構が影を落とす。

 風に削られた石壁、崩れた塔――廃墟の静寂が広がる。

 井戸の水、屋根の残る建物、旋回するロドス。

 タクミの新たな拠点が、砂漠の中にひっそりと息づいていた。


 

 砂丘の向こうに、それは現れた。


 遠目でも分かるほど巨大な影だった。


 風に削られた砂丘の向こう、地平線に黒い線が横たわっている。最初は岩山かと思った。


 だが違う。


 近づくにつれ、それが人工物であると分かってくる。


 高い城壁。

 崩れかけた塔。

 半分以上が砂に呑まれながら、それでもなお大地に踏みとどまっている巨大な遺構。


 タクミは思わず立ち止まった。


(デカイな……)


 ぽつりと呟く。


 ここまでの旅でいくつもの遺跡を見てきた。だが、これほど巨大なものは初めてだった。


 副城から五日。


 ひたすら西へ歩き続けた結果、ようやく辿り着いた場所だ。


 タクミは砂丘を降り、城塞へと近づいていく。


 城壁は高さ三十メートルはありそうだった。ところどころ崩れ、砂に埋まりながらも、その威圧感は失われていない。


 近くまで来ると、さらに規模が理解できた。


 城壁の厚さだけでも五メートル以上ある。


「王国の防衛拠点ってやつか」


 タクミは顎をさすった。


 脳裏に、サラディンの残した知識が浮かぶ。


 旧サラトニア王国西方には、四つの城塞が存在した。


 それぞれが軍事拠点であり、都市並みの規模を持つ巨大要塞だったという。


(そのどれか……ってことか……)


 どこかまでは分からない。


 だが、ここに何か残っている可能性は高い。


 城門は完全に崩れていた。巨大な石の塊が砂に半ば埋まり、通路のような隙間ができている。


 タクミはそこをくぐった。


 城塞の内部に足を踏み入れる。


 静かだった。


 風の音だけが響いている。


 砂に埋もれた石畳。

 崩れた建物。

 折れた柱。


 それでも、外壁ほどは崩壊していない。


 中央部は比較的原型を保っているようだった。


「思ったより残ってるな」


 タクミは周囲を見回した。


 砂漠の遺跡は基本的にボロボロだ。風と砂がすべてを削り取る。


 だがこの城塞は違う。


 城壁に触れる。


 サラディンの知識を探る。


『旧サラトニア王国の軍事施設は、基礎石材の段階から魔導工学による耐久強化が施されている。石材内部に刻まれた魔導回路は衝撃を分散し、熱を逃がし、長期的な摩耗を軽減する構造だ。外壁だけでなく、梁、床、支柱、扉枠に至るまで同様の処理がなされている』


 魔法にも、時間にも耐えるよう設計されている。


「そりゃ八百年も残るわけだ」


 タクミは苦笑した。


 城塞の奥へ進む。


 広場のような場所に出た。


 巨大な建物の残骸が並び、かつての兵舎や倉庫だったのだろうと想像できる。


 空を見上げる。

 数羽のロドスが旋回していた。


「お前らの巣か」


 小型ワイバーン。

 この城塞のどこかに巣があるのだろう。


 タクミは肩をすくめた。


「まあいい。食料になるしな」


 ロドスは今のタクミにとっては、完全に狩猟対象だった。


 広場を抜け、建物の中へ入る。

 屋根は崩れているが、壁はまだ残っている。


 歩いていると、視界の端に奇妙なものが映った。


 広間の隅。

 崩れた瓦礫の向こうに、石の円形構造が見える。


 タクミは近づいた。


「井戸?」


 覗き込む。


 石造りの古い井戸だった。

 縁は半分崩れている。

 だが穴は残っていた。


 タクミは首をかしげる。


(まさかな)


 この砂漠だ。

 水なんてあるはずがない。


 だが一応、確認してみることにした。


 足元の石を拾う。

 井戸の中へ投げ込んだ。


 カラン……

 石が壁に当たる音。


 少しの沈黙。


 そして――

 ポチャン。


 水音だった。


 タクミは固まった。


「……」


 もう一度、石を拾う。

 投げる。


 数秒後。

 ポチャン。


「マジかよ……」


 思わず声が漏れた。水だ。

 井戸に水がある。


 タクミは縁に両手を置き、井戸の中を覗き込む。

 暗くて見えない。


 だが確かに水の気配がある。


(なんでだ……)


 再度サラディンの知識を探る。


『サラトニア大砂漠には、数年に一度、季節風の偏移と海上気流の干渉が重なり、巨大な豪雨が発生する記録がある。黒雲が数日かけて集束し、雷鳴と共に雨季が到来する。一ヶ月以上降り続くこともある異常気象。その際、地表を流れた水は砂層を抜け、旧坑道、地下空洞、遺跡の井戸へと流入する。閉鎖された区画や密閉性の高い貯水槽には長期間水が滞留する事もある』


(つまり……)


「生きてる井戸ってことか」


 タクミは笑った。

 信じられない幸運だ。


 水はある。

 屋根の残った建物もある。

 ロドスもいる。


「ここ、拠点にできるな」


 思わず呟く。


 この旅で何度も拠点を作ってきた。

 だがここは条件がいい。

 かなりいい。


 タクミは井戸を見下ろした。


「さて」


 腕を組む。


「どうやって汲もうか……」


 井戸には桶もロープも残っていない。

 八百年も経てば当然だ。


 タクミは顎をさすった。

 脳内で、営業時代の癖が働く。

 問題を整理する。


 水はある。

 だが汲む手段がない。


 つまり必要なのは道具だ。城塞は広い。

 どこかに使える物が残っている可能性がある。


 タクミは広間を見回した。


「探索だな」


 口元が少し上がる。

 遺跡探索。

 旧魔法文明時代の遺物。


 それは、最近のタクミのささやかな楽しみになっていた。


「これは絶対あるやつ」


 ぽつりと呟く。


 そう言って、タクミは城塞の奥へ歩き出した。

 巨大な遺跡の中へ。


 まだ誰も見つけていない、旧王国の遺物を探すために。


 (経過日数:103日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第21話「城塞遺跡」でした。


 井戸の水音が微かに響き、焚き火の光が揺れる夜。

 広大な城塞の奥に、まだ眠る旧王国の遺物たち。

 未知への好奇心を胸に、タクミはゆっくりと歩みを進める。

 孤独な砂漠に、静かな冒険の日々が続いていく。


 次回、第22話「往時の外套」


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リシェルとガウル
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