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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
21/34

第21話 城塞遺跡


 第21話です。


 副城での生活から二十五日。

 タクミは再び西へと歩き始めた。

 サラディンの知識が示す「主城」の存在を確かめるために。

 砂漠の奥に残る、かつてのサラトニア王国の遺構へ向かって――。


 

 砂丘の向こうに、それは現れた。


 遠目でも分かるほど巨大な影だった。


 風に削られた砂丘の向こう、地平線に黒い線が横たわっている。最初は岩山かと思った。


 だが違う。


 近づくにつれ、それが人工物であると分かってくる。


 高い城壁。

 崩れかけた塔。

 半分以上が砂に呑まれながら、それでもなお大地に踏みとどまっている巨大な遺構。


 タクミは思わず立ち止まった。


(……デカイな)


 ぽつりと呟く。


 ここまでの旅でいくつもの遺跡を見てきた。だが、これほど巨大なものは初めてだった。


 副城から五日。


 ひたすら西へ歩き続けた結果、ようやく辿り着いた場所だ。


 タクミは砂丘を降り、城塞へと近づいていく。


 城壁は高さ三十メートルはありそうだった。ところどころ崩れ、砂に埋まりながらも、その威圧感は失われていない。


 近くまで来ると、さらに規模が理解できた。


 城壁の厚さだけでも五メートル以上ある。


「……王国の防衛拠点ってやつか」


 タクミは顎をさすった。


 脳裏に、サラディンの残した知識が浮かぶ。


 旧サラトニア王国西方には、四つの城塞が存在した。


 それぞれが軍事拠点であり、都市並みの規模を持つ巨大要塞だったという。


(そのどれか……ってことか)


 どこかまでは分からない。


 だが、ここに何か残っている可能性は高い。


 城門は完全に崩れていた。巨大な石の塊が砂に半ば埋まり、通路のような隙間ができている。


 タクミはそこをくぐった。


 城塞の内部に足を踏み入れる。


 静かだった。


 風の音だけが響いている。


 砂に埋もれた石畳。

 崩れた建物。

 折れた柱。


 それでも、外壁ほどは崩壊していない。


 中央部は比較的原型を保っているようだった。


「……思ったより残ってるな」


 タクミは周囲を見回した。


 砂漠の遺跡は基本的にボロボロだ。風と砂がすべてを削り取る。


 だがこの城塞は違う。


 城壁に触れる。


 石の表面は滑らかで、魔法の痕跡を感じる。


(耐魔法処理……)


 サラディンの知識が答えをくれる。


 旧サラトニア王国の軍事施設は、すべて魔導工学による耐久強化が施されていた。


 魔法にも、時間にも耐えるよう設計されている。


「そりゃ八百年も残るわけだ」


 タクミは苦笑した。


 城塞の奥へ進む。


 広場のような場所に出た。


 巨大な建物の残骸が並び、かつての兵舎や倉庫だったのだろうと想像できる。


 空を見上げる。


 数羽のロドスが旋回していた。


「……お前らの巣か」


 小型ワイバーン。


 この城塞のどこかに巣があるのだろう。


 タクミは肩をすくめた。


「まあいい。食料になるしな」


 ロドスは今のタクミにとっては、完全に狩猟対象だった。


 広場を抜け、建物の中へ入る。


 屋根は崩れているが、壁はまだ残っている。


 歩いていると、視界の端に奇妙なものが映った。


 広間の隅。


 崩れた瓦礫の向こうに、石の円形構造が見える。


 タクミは近づいた。


「……井戸?」


 覗き込む。


 石造りの古い井戸だった。


 縁は半分崩れている。


 だが穴は残っていた。


 タクミは首をかしげる。


(まさかな)


 この砂漠だ。


 水なんてあるはずがない。


 だが一応、確認してみることにした。


 足元の石を拾う。


 井戸の中へ投げ込んだ。


 カラン……


 石が壁に当たる音。


 少しの沈黙。


 そして――


 ポチャン。


 水音だった。


 タクミは固まった。


「……」


 もう一度、石を拾う。


 投げる。


 数秒後。


 ポチャン。


「マジかよ……」


 思わず声が漏れた。


 水だ。


 井戸に水がある。


 タクミは縁に両手を置き、井戸の中を覗き込む。


 暗くて見えない。


 だが確かに水の気配がある。


(なんでだ……)


 疑問が浮かぶ。


 だがすぐに答えが浮かんだ。


 サラディンの知識だ。


 サラトニア大砂漠には、数年に一度、巨大な豪雨が降る。


 一ヶ月以上続くこともある異常気象。


 その時、地下空洞や遺跡の井戸に水が溜まることがある。


(つまり……)


「生きてる井戸ってことか」


 タクミは笑った。


 信じられない幸運だ。


 水はある。


 屋根の残った建物もある。


 ロドスもいる。


「……ここ、拠点にできるな」


 思わず呟く。


 この旅で何度も拠点を作ってきた。


 だがここは条件がいい。


 かなりいい。


 タクミは井戸を見下ろした。


「さて……」


 腕を組む。


「どうやって汲もうか」


 井戸には桶もロープも残っていない。


 八百年も経てば当然だ。


 タクミは顎をさすった。


 脳内で、営業時代の癖が働く。


 問題を整理する。


 水はある。

 だが汲む手段がない。


 つまり必要なのは道具だ。


 城塞は広い。


 どこかに使える物が残っている可能性がある。


 タクミは広間を見回した。


「……探索だな」


 口元が少し上がる。


 遺跡探索。


 旧魔法文明時代の遺物。


 それは、最近のタクミのささやかな楽しみになっていた。


「これは絶対あるやつ……」


 ぽつりと呟く。


 そう言って、タクミは城塞の奥へ歩き出した。


 巨大な遺跡の中へ。


 まだ誰も見つけていない、旧王国の遺物を探すために。


 (経過日数:103日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第21話「城塞遺跡」でした。


 ついに大きな拠点となる「城塞遺跡」に到着しました。

 ここから旧魔法文明時代の遺物探索が本格化していきます。


 次回、第22話「往時の外套」


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