第21話 城塞遺跡
第21話です。
副城での生活から二十五日。
タクミは再び西へと歩き始めた。
サラディンの知識が示す「主城」の存在を確かめるために。
砂漠の奥に残る、かつてのサラトニア王国の遺構へ向かって――。
砂丘の向こうに、それは現れた。
遠目でも分かるほど巨大な影だった。
風に削られた砂丘の向こう、地平線に黒い線が横たわっている。最初は岩山かと思った。
だが違う。
近づくにつれ、それが人工物であると分かってくる。
高い城壁。
崩れかけた塔。
半分以上が砂に呑まれながら、それでもなお大地に踏みとどまっている巨大な遺構。
タクミは思わず立ち止まった。
(……デカイな)
ぽつりと呟く。
ここまでの旅でいくつもの遺跡を見てきた。だが、これほど巨大なものは初めてだった。
副城から五日。
ひたすら西へ歩き続けた結果、ようやく辿り着いた場所だ。
タクミは砂丘を降り、城塞へと近づいていく。
城壁は高さ三十メートルはありそうだった。ところどころ崩れ、砂に埋まりながらも、その威圧感は失われていない。
近くまで来ると、さらに規模が理解できた。
城壁の厚さだけでも五メートル以上ある。
「……王国の防衛拠点ってやつか」
タクミは顎をさすった。
脳裏に、サラディンの残した知識が浮かぶ。
旧サラトニア王国西方には、四つの城塞が存在した。
それぞれが軍事拠点であり、都市並みの規模を持つ巨大要塞だったという。
(そのどれか……ってことか)
どこかまでは分からない。
だが、ここに何か残っている可能性は高い。
城門は完全に崩れていた。巨大な石の塊が砂に半ば埋まり、通路のような隙間ができている。
タクミはそこをくぐった。
城塞の内部に足を踏み入れる。
静かだった。
風の音だけが響いている。
砂に埋もれた石畳。
崩れた建物。
折れた柱。
それでも、外壁ほどは崩壊していない。
中央部は比較的原型を保っているようだった。
「……思ったより残ってるな」
タクミは周囲を見回した。
砂漠の遺跡は基本的にボロボロだ。風と砂がすべてを削り取る。
だがこの城塞は違う。
城壁に触れる。
石の表面は滑らかで、魔法の痕跡を感じる。
(耐魔法処理……)
サラディンの知識が答えをくれる。
旧サラトニア王国の軍事施設は、すべて魔導工学による耐久強化が施されていた。
魔法にも、時間にも耐えるよう設計されている。
「そりゃ八百年も残るわけだ」
タクミは苦笑した。
城塞の奥へ進む。
広場のような場所に出た。
巨大な建物の残骸が並び、かつての兵舎や倉庫だったのだろうと想像できる。
空を見上げる。
数羽のロドスが旋回していた。
「……お前らの巣か」
小型ワイバーン。
この城塞のどこかに巣があるのだろう。
タクミは肩をすくめた。
「まあいい。食料になるしな」
ロドスは今のタクミにとっては、完全に狩猟対象だった。
広場を抜け、建物の中へ入る。
屋根は崩れているが、壁はまだ残っている。
歩いていると、視界の端に奇妙なものが映った。
広間の隅。
崩れた瓦礫の向こうに、石の円形構造が見える。
タクミは近づいた。
「……井戸?」
覗き込む。
石造りの古い井戸だった。
縁は半分崩れている。
だが穴は残っていた。
タクミは首をかしげる。
(まさかな)
この砂漠だ。
水なんてあるはずがない。
だが一応、確認してみることにした。
足元の石を拾う。
井戸の中へ投げ込んだ。
カラン……
石が壁に当たる音。
少しの沈黙。
そして――
ポチャン。
水音だった。
タクミは固まった。
「……」
もう一度、石を拾う。
投げる。
数秒後。
ポチャン。
「マジかよ……」
思わず声が漏れた。
水だ。
井戸に水がある。
タクミは縁に両手を置き、井戸の中を覗き込む。
暗くて見えない。
だが確かに水の気配がある。
(なんでだ……)
疑問が浮かぶ。
だがすぐに答えが浮かんだ。
サラディンの知識だ。
サラトニア大砂漠には、数年に一度、巨大な豪雨が降る。
一ヶ月以上続くこともある異常気象。
その時、地下空洞や遺跡の井戸に水が溜まることがある。
(つまり……)
「生きてる井戸ってことか」
タクミは笑った。
信じられない幸運だ。
水はある。
屋根の残った建物もある。
ロドスもいる。
「……ここ、拠点にできるな」
思わず呟く。
この旅で何度も拠点を作ってきた。
だがここは条件がいい。
かなりいい。
タクミは井戸を見下ろした。
「さて……」
腕を組む。
「どうやって汲もうか」
井戸には桶もロープも残っていない。
八百年も経てば当然だ。
タクミは顎をさすった。
脳内で、営業時代の癖が働く。
問題を整理する。
水はある。
だが汲む手段がない。
つまり必要なのは道具だ。
城塞は広い。
どこかに使える物が残っている可能性がある。
タクミは広間を見回した。
「……探索だな」
口元が少し上がる。
遺跡探索。
旧魔法文明時代の遺物。
それは、最近のタクミのささやかな楽しみになっていた。
「これは絶対あるやつ……」
ぽつりと呟く。
そう言って、タクミは城塞の奥へ歩き出した。
巨大な遺跡の中へ。
まだ誰も見つけていない、旧王国の遺物を探すために。
(経過日数:103日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第21話「城塞遺跡」でした。
ついに大きな拠点となる「城塞遺跡」に到着しました。
ここから旧魔法文明時代の遺物探索が本格化していきます。
次回、第22話「往時の外套」




