第2話 神言語魔法
第2話です。
タクミを召喚した「神言語魔法」とは何なのか。
そして亜神サラディンが背負う罪が、少しずつ語られます。
夜の砂漠は静かだった。
崩れた研究棟の外では、風が砂をさらさらと流している。
天井の抜けた空間から、無数の星が見えた。
タクミはその場に腰を下ろしていた。
正直、頭が追いつかない。
(……異世界召喚ってやつか)
漫画やゲームでは何度も見た設定だ。
だが実際に自分が巻き込まれると、まったく現実感がない。
向かいには、水の亜神サラディン。
半透明の身体をした男が、静かに立っていた。
「……なあ」
タクミが口を開く。
「さっき言ってた神言語魔法って何なんだ?」
サラディンはわずかに目を細めた。
「神が使う言葉の魔法だ」
「そのまんまだな」
「人の言葉とは違う」
サラディンは天井の星を見上げた。
「この世界の根源に触れる言葉だ」
静かな声だった。
「火よ、と言えば火が生まれる。水よ、と言えば海が生まれる」
「……いやいや」
タクミは苦笑した。
「それもう魔法ってレベルじゃないだろ」
「その通りだ」
サラディンはうなずいた。
「だからこそ禁術だった」
崩れた石壁に、夜風が当たる。
砂が床を滑っていった。
「800年前」
サラディンが語り始めた。
「サラトニア王国の図書館で、一冊の書物が見つかった」
「禁術書だ」
「書いたのは――」
少し間を置く。
「サラトニア初代国王、マグナル」
タクミは眉を上げた。
「王様がそんなヤバい本書いたのか」
「彼は人間ではなかった」
サラディンの声が低くなる。
「史上初めて亜神になった男だ」
千年王。
不死の王。
多くの伝説が残る人物。
「その禁術書を……私たちは研究してしまった」
サラディンの瞳に影が落ちた。
「サラトニア魔法学院の研究生七人」
タクミは数を数える。
「七人?」
「水のサラディン」
自分の胸に手を当てた。
「氷のサリア」
「砂のエルナンド」
「炎のヴァルディア」
「雷のゼクトル」
「風のリュシエル」
「岩のドゥラガン」
研究棟の中に沈黙が落ちた。
その七人が、世界を変えた。
「私たちは……若かった」
サラディンの声は、どこか遠かった。
「世界の真理を知りたいと思った」
「神の領域に届きたいと思った」
タクミは黙って聞いていた。
そういう人間は、前の会社にもいた。
結果だけを見れば無謀。
だが、当人たちは本気だった。
「そして」
サラディンは拳を握った。
「超越の儀を行った」
「……」
「人間を超える儀式だ」
タクミは砂漠を見た。
地平線まで続く砂。
「その結果がこれか」
サラディンは頷いた。
「砂のエルナンドが魔法陣を組んだ」
「代償はこの土地で払う、と」
タクミは苦い顔をした。
「嫌な予感しかしないな」
「……その通りになった」
サラディンの声が震えた。
「王都サラトニア」
「七百万人」
「人も、動物も」
「すべてが砂になった」
夜風が吹いた。
遠くで砂が崩れる音がした。
タクミは何も言えなかった。
この砂漠は――
墓場だ。
都市一つ分の。
「爆風は世界中に広がった」
サラディンの声が続く。
「それが後に」
「厄災と呼ばれる出来事だ」
長い沈黙。
タクミは息を吐いた。
「……なるほどな」
「それで罪悪感に耐えられなくなったわけか」
「そうだ」
サラディンは迷わず答えた。
「亜神など、この世界にいてはならない」
蒼い身体が揺れる。
「だから君を呼んだ」
タクミは首をかしげた。
「でもさ」
「俺、戦えないぞ?」
「安心しろ」
サラディンは静かに言った。
「武器はある」
指先が光った。
空中に、水のような波紋が広がる。
その中から――
二つの籠手が現れた。
重厚な金属のガントレット。
一つは水色の宝石。
一つは桃色の宝石。
淡く光っている。
「旧魔法文明の兵装だ」
サラディンは言った。
「君に託す」
タクミはそれを見つめた。
(……やっとチートっぽいの来たな)
少しだけ、やる気が戻った。
だが同時に思う。
(これで本当にやれるのか?)
相手は亜神。
世界を滅ぼした連中だ。
営業マンがどうにかできる相手ではない。
タクミは頭をかいた。
「まあ……」
小さく笑う。
「なるようになるか」
その言葉を聞いたサラディンは――
わずかに微笑んだ。
それは八百年ぶりの、穏やかな表情だった。
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第2話「神言語魔法」でした。
物語はまだ始まったばかりですが、
この世界の大きな罪と秘密が少しずつ見えてきました。
タクミが異世界で初めて自分の状況を受け入れ、
生き延びるための準備を始めます。
次回、第3話「召喚された男」




