68話 わかりやすくいこう
「クリフっ! クリフぅうううううっ!!!」
エルネストが屋敷中に響き渡るような大声で言う。
扉がけたたましく開けられて。
そこから複数の兵士と、彼らを従えているであろう巨漢の男が現れた。
全身を筋肉の鎧で包んでいるかのよう。
身長は三メートルはありそうで、まるで巨人だ。
「どうしたんだい、旦那? こんな大きな声を出したら喉を痛めるぜ?」
「バカ者が! この状況を見て軽口を叩いている場合か!!!」
「ま……そうだよな」
大男は肩をすくめてみせた。
それから、ゆっくりとこちらを見て……
ニヤリと獣のように笑う。
「へぇ……いいね。あんた、強いだろう?」
「どう……かな?」
「おいおい、とぼけなくてもいいだろ? それだけの圧を発していて弱いってことないだろ?」
「そう言われても……」
圧っていうのは、たぶん、エルネストに怒っているからで。
強者のオーラ、とかそういうものはぜんぜんないと思うんだけど。
隣でシオンが苦笑する。
「ご主人様は、そういうところはまったく変わらないのですね」
「えっと……?」
「いえ。ご主人様は、そのままのご主人様でいてください」
シオンは微笑み。
それから、スイッチを切り替えるかのように、スッと表情を鋭くした。
弓を持つ。
ただし、室内でかつ至近距離なので矢は使わないらしい。
弓を鈍器のように使うらしく、端の方を掴んで構えていた。
俺も小手などを装備して、構える。
クリフと呼ばれた大男……それと、三人の兵士達は待ってくれていた。
騎士道、なんてものじゃないはず。
単純にクリフは戦いを楽しみたいのだろう。
「旦那」
「な、なんだ……?」
「そこのちっちゃい嬢ちゃんには手を出さないでくれよ」
「そ、それは……」
そのつもりだったらしく、エルネストの視線が泳ぐ。
「俺は、楽しい戦いをしたいんでな。人質をとって一方的に、なんてのはつまらねえ。そんな冷めたことをするくらいなら……わかってるな?」
「あ、ああ……わかった、わかっている! お前の言う通りにしよう!」
エルネストは顔を青くしつつ、手を上げて、なにもしないというポーズを見せた。
ひとまずは安心かな?
クリフが敵であることは間違いないけど、卑怯な手に出ることはなさそうだ。
「で、代わりと言っちゃなんだが、一対一でやりたいだが……どうだ?」
「……まとめてかかってこい、とか言われると思っていた」
「俺はそこまでバカじゃねえよ。兄ちゃんだけでもかなりのものなのに、エルフの嬢ちゃんまで加わったらやばいだろ」
戦いを楽しみにしている様子だけど、でも、きっちりと現実を見て計算をするらしい。
……厄介だな。
たぶん、戦闘経験も豊富。
技術で比べたら、俺は足元にも及ばないと思う。
シオンや今までに出会った人達が言ってくれたおかげで、俺は、少しは俺に自信を持つことができたのだけど……
それもどこまで通用するか。
「ご主人様……」
シオンが心配そうにこちらを見た。
二人で戦うべきなのかもしれないけど……
「シオン、ここは俺に任せてくれないかな?」
「ですが……!」
「言う通りにすればナナの安全は増すから。もちろん、全てを信じることはできないから、シオンはナナのことを守ってほしいんだ」
「それは……」
ナナを盾にするのはちょっと卑怯な言い方だったかもしれない。
ただ、クリフは約束を守っても、他の連中は守らないかもしれない。
その懸念があるから、シオンに守ってほしい、という言葉に嘘はない。
それともう一つ。
「大丈夫」
「え……」
「俺は負けないし、シオンを一人にするつもりもないよ」
「……ご主人様……」
シオンを置いてどこかに行くつもりはない。
放っておくつもりなんてない。
無茶をするわけじゃなくて……
ここは信じてほしいと、そう伝えた。
「……はい、かしこまりました」
シオンは、小さく微笑み、ゆっくりとだけど頷いてくれた。
その瞳からは、俺に対する心配と。
でも、それだけじゃなくて、確かな信頼があった。




