67話 絆がある
「そのようなことはありません」
凛とした声が響いた。
それはシオンのものだ。
まっすぐに前を向いて。
強く言い切る。
「あなたのような人とご主人様を一緒にしないでください、失礼です」
「なっ……あ……?」
ここまで強く否定されるとは思っていなかったのだろう。
エルネストが動揺して……
その間に、さらにシオンが言葉をぶつけていく。
「確かに、私は奴隷です。ご主人様と契約を結んでおり、逆らうことは許されていません」
「そ、そうだ……そうだろう、それならば……」
「しかし、それは私が自ら求めたことです」
「な……」
今度はエルネストが絶句する番だった。
「これは、私とご主人様の結びつきであり……絆です」
シオンは誇らしげに言う。
俺を気遣っているとか、なにかの建前とか、そんな感じは一切しない。
心の底からそう想っている様子で言う。
「私とご主人様の間には『想い』があります。それは確かなもので、誰にも否定させません」
「ば、ばかな。奴隷は主の所有物で、そのような感情は……」
「あなたと一緒にしないでください」
シオンはエルネストを睨みつけた。
よほど怒っているらしい。
今までに見せたことのない鋭い視線を叩きつけている。
「お金で女性を買い。あるいは、無理矢理言うことを聞かせて……それしか知らないあなたが、私とご主人様を語らないでください……不愉快です」
「……うん、そうだな」
シオンの言葉を聞いていて、俺は落ち着きを取り戻した。
というか、目が覚めた。
エルネストの言葉に動揺するなんてバカみたいだ。
無理矢理人を従わせることしかできない。
そんなやつの言葉なんて意味はない。
まったく力がない。
「俺は、シオンを大事に想っている」
今度は俺が前に出た。
「あんたみたいに、もの扱いするような人と一緒にするな」
「うっ、ぐぅううう……!」
続いて、シオンが言う。
「……可哀想な人ですね」
「な、なにぃ……!?」
「お金や力を使うことでしか女性に振り向いてもらえない……それしか方法がない。それを自覚していながらも、そうすることしかできない。他の方法を選ぶことができない……それが唯一の方法と自覚しているから」
「ぐっ、ぎぃ……!?」
「あなたの語る愛は、愛ではありません」
「ただの欲望だ」
「……っっっ……」
シオンと二人で、これ以上ないくらいに言葉の刃をぶつけてやり。
そして、それはこれ以上ないくらいの正論で。
だからこそ、エルネストは怒りに顔を赤くして。
体を震わせつつ、悔しそうに歯を噛む。
「わぁ……」
一方で、ナナはキラキラと目を輝かせていた。
当然、というべきか、その視線は俺達に向けられている。
……ちょっと恥ずかしいかもしれない。
とはいえ、間違ったことを言っているつもりはないし。
エルネストの歪んだ考えを否定するためなら、何度でも言うつもりだ。
「ふ……」
エルネストが体を震わせた。
「ふざけるなぁあああああぁーーーーーっ!!!!!」
激昂する。
頭の血管が切れるのではないかと心配するほどに怒っていた。
いや、まあ。
そうなったのは俺達が原因ではあるんだけど……
まあ、特に後悔はしていない。
エルネストの行いに同情するところなんて欠片もないし。
むしろ、ここまで怒るほど感情を揺さぶることができたことに、ちょっとスッキリしていた。
俺も、ナナに対するこの男の行いに憤っていたからな。




