66話 悪人の往生際の悪さはだいたい同じ
「き、貴様……この私を脅すつもりか!?」
エルネストは怒りをあらわに声をぶつけてきた。
ただ……うん。
裸なので、まったく威厳がない。
欠片も怖くないし、迫力がゼロだ。
「脅す? そんなことはしないよ」
絵と一緒に、魔導具をシオンに返した。
シオンは、絶対に守ってみせる、という感じで両手で抱く。
「国に提出するだけ」
「貴様ぁっ……!!!」
「あなたを破滅させる……それだけが目的だよ。そのために……ナナに、こんなに危ない橋を渡ってもらったんだから」
たとえば……
どうにかして、ナナに対するエルネストの求婚を退けたとする。
でも、それはたぶん、一時しのぎにすぎないだろう。
エルネストは別の手でナナを自分のものにしようとするはず。
今度は正規のルートじゃなくて、裏のルートを突き進んでくるかもしれない。
卑劣な手段を使うことに迷わないかもしれない。
こういう相手と話をして、納得してもらう。
理解してもらう。
改心してもらう。
……それらは無理だ。
まともに話をして成立するのなら、そもそも問題が起きることはない。
悩まされることもない。
引き下がらないのなら。
諦めてくれないのなら。
……徹底的にやるしかない。
最初、この案をシオンに話した時、すごく驚かれた。
どうやら俺が、ここまで強く出るとは考えていなかったらしい。
でも。
エルネルトを見ているうちに、ふと、思ったんだ。
俺にとって、シオンはとても大事な女の子だ。
なにが起きても、どんなことをしても守りたい、って思う。
でも、そのシオンに危機が迫っているとしたら?
ナナと同じような状況になったとしたら?
そう想定した時……
徹底的にやるしかない、って思ったんだ。
大事な人を守るために心を刃のようにする……それが必要だって、そう気づいたんだ。
「だから……今回、俺は徹底的にやらせてもらうよ」
「な、なにをわけのわからないことを……! この私に、この私の邪魔をするとは……」
「女の子には優しくするもので、女の子が嫌がることをする人は許しちゃいけない、ってじいちゃんやおばさんが言っていたからね。俺も、強くそう思うよ」
鉱山のみんなを思い出した。
みんな、元気にやっているかな?
こんな時だけど、そんなことをついつい考えてしまう。
「なにを……む?」
ふと、エルネストがなにかに気づいた様子で目を細くした。
こちらを見て……
いや。
シオンを見ている。
より正確に言うと、シオンの首につけられている奴隷の首輪。
「はっ、ははは……! なにを偉そうなことを! よくよく見てみれば、その女は奴隷ではないか!」
「それは……」
「距離感を考えると、貴様の奴隷なのだろう? 貴様のものなのだろう?」
「違う! シオンはそういうことは……」
「なにが違う? なぜ言い切れる? その女が奴隷という事実は変わらないだろうに」
「……っ……」
痛いところを突かれてしまう。
俺はシオンのことを大事に想っている。
シオンも同じ気持ちでいてくれるはず。
ただ……
『主』と『奴隷』という関係は変わらない。
シオンが理解をしているとはいえ、その関係が変わっていないことは確か。
そんな俺がエルネストを否定する?
否定……できるのだろうか?
「儂に偉そうに説教をしていたが、所詮、貴様も同類ではないか!」
「そんな、ことは……」
「女を金で買う。儂となにが違う? 儂は、女を力で手に入れるだけ……なにも変わらん、変わらぬさ! はははははっ!」
エルネストの笑い声が響いて。
ナナが心配そうにして。
俺は、迷いを抱いてしまって……
ただ。
そんな中、シオンだけは違った。
「そのようなことはありません」




