65話 罠
「……くっ、ふふ……」
エルネストの小さな笑いが部屋に響いた。
ベッドに運んだナナは、すやすやと寝息を立てている。
深い眠りについている様子で、時折、小さな寝言をこぼして、寝返りも打つ。
演技などではなくて本当に寝ている様子。
それを見て、エルネストはニヤリと笑う。
「あぁ……ようやく、ようやくだ。愛しいナナ嬢がこの私のものになる日が……今日はなんて素晴らしい日なのだろう。この日を記念日にして、毎年、祝うのもありかもしれないな。そう……私とナナ嬢が結ばれる日なのだから!」
夢の瞬間が目の前に迫り、興奮して、ついつい大きな声をあげてしまう。
それでもナナが起きる気配はない。
使われた睡眠薬はとても強力なものだ。
服用してから十分ほどで眠りに入り、三十分も経てば完全に夢の中。
声をかけられたくらいでは目が覚めることはないし、触られても起きることはない。
……多少、強引に触れたとしても、それは変わらない。
「ダメだ、もっとこの瞬間を味わいたいと思っていたが、もう我慢できないっ!!!」
エルネストはブタのように鼻息を荒くして。
興奮した様子で服を脱いで、上半身裸になる。
ベッドに上がり……
それから、ズボンと下着も脱いで裸になった。
脂のついた大きな体。
それを押し付けるかのように、ナナに迫る。
「はぁ、はぁ……もうすぐ、もうすぐ……もう少しで、私はナナ嬢を……!」
それはとても醜い光景だ。
まだ発情期の家畜の方がマシかもしれない。
そう思うほどに……あまりにも酷い。
ただ、薬を盛られたナナは抵抗することができない。
今、なにが起きているか認識することすらできない。
なにもできず。
なにも理解されず。
エルネストの毒牙にかかるしかなくて……
カシャッ!
「なっ!?」
瞬間、閃光が瞬いた。
エルネストは驚いて、慌てて振り返り……
そこには、ナナの従者二人がいた。
――――――――――
「なっ!?」
光と音に反応して、エルネストが慌てて振り返る。
俺とシオンを見て、「な、なにが……」と唖然とした様子。
そんなエルネストに嫌悪の視線を送りつつ、シオンは手元の魔導具を使用。
再び光が広がった。
「な、なんだ……貴様ら、いったいなにをしている!?」
「……これは」
声を荒げるエルネストとは反対に、俺はあくまでも冷静に務めた。
シオンから魔導具を受け取り、操作。
そこから手の平サイズの紙を取り出した。
……サイズは小さいものの、裸のエルネストがナナに襲いかかろうとしているところが『絵』として鮮明に描かれていた。
「これは、その場の光景を瞬時に描くことができる魔導具だ。まだ開発段階みたいで一般には流通していないけど……でも、ナナは貴族だから、入手することができた」
「そして、こちらを使いあなたの蛮行を記録した」
「なっ……あ……」
エルネストの顔が青くなる。
自分が今、裸で。
まだ婚約すらしていない相手を……寝ている相手を襲おうとしたところをバッチリと記録された。
公になれば破滅は免れない。
エルネストも貴族であり、大きな権力を持つ。
その力を使い、今まで好き勝手をしてきただろう。
ただ。
大きな力を持つからこそ、それに対する抑止力もしっかりと存在する。
国にそういう機関が存在するらしい……ということを、以前、鉱山にいるじいちゃんに聞いたことがある。
じいちゃんは医療技術を持っているから、そういう情報も詳しいのだ。
つまり……
国に、この絵を提出すればエルネストは終わり、ということだ。
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