64話 力づくで強引に
「どうぞ、そちらへ」
「はい」
再び誘いを受けて、ナナはエルネストのところへ。
ただし、今度は会食ではない。
付き人もいない。
エルネストの私室。
そこで二人きり……だ。
ナナが招きに応じたことがよほど嬉しいらしく、エルネストはニヤニヤと笑みを浮かべている。
今すぐにどうこう、という気配はないものの、その視線は無遠慮にナナに叩きつけられていた。
まるで全身を舐め回すかのよう。
ナナは鳥肌が立つような嫌悪感に襲われるものの、どうにかこうにか笑みを浮かべて、耐えていた。
「突然のお誘い、申しわけありませんな。もうしばらく、ナナ嬢と一緒の時間を過ごしたいと思いましてな」
「いえ、問題ありません。私も、色々なお話をしたいと思っていましたから」
「おおっ、そうですか。ありがたい」
エルネストの笑みがさらに深くなる。
同時に悪意も増した。
それと、情欲。
それはもはや毒のよう。
そこにいるだけで心が擦り減らされて、どうにかなってしまいそう。
ナナは、軽い目眩すら覚えたが……
(がんばらないと!)
クロードとシオンがいる。
そして、がんばれ、と励ましてくれた。
頼り切りではいられない。
いざという時は任せてしまうことになるだろうけど……
それでも、自分にできることはきちんとこなしたい。
がんばろう。
自分に喝を入れて、ナナはどうにか持ち直した。
「さて……では、のんびりとお茶会をいたしましょう。ああ、お茶なら私が淹れましょう」
「そうなんですか?」
「最近、お茶に少々楽しんでいましてな。我が家のメイド達からも評判が良く、なかなかの腕と自負しておりまして」
エルネストが紅茶を淹れるのを見たナナは、来た、と思った。
クロードとシオンの話を思い返す。
『事前に得た情報と……そして、直接相対した印象から判断すると、エルネストは卑劣な手を使ってくると思う』
『私も、ご主人様に同意します。あのように欲望に忠実で、それをまったく隠そうとしない男はなかなか珍しいと思います』
『たぶん……こんなことを言うのもなんだけど、えっと……ナナに手を出してくると思う。口説くとか親しくなるとか、そういう手順を一気に飛ばして……こう、悪いことを』
『ご主人様、言葉を伏せたくなるのはわかりますが、そこはハッキリと言った方がよろしいかと』
『そ、そうなんだけどね……ナナにこんなことを聞かせてもいいのかな、っていうのと。あと、なんか俺も悪いことをしているような気持ちになって』
『ふふ、ご主人様らしいですね』
『と、とにかく……たぶん、エルネストはナナに手を出してくると思う。今までまともに相手をされなかったけど、いきなり相手をされるようになって、前に前にごちそうが転がりこんできたんだ。ああいうタイプの男は我慢できないはず』
『私の予想では、おそらくは薬を使われると思います。眠り、抵抗できなくなるもの……そうして絶対的な安全と優位を確保した上で、ナナさまに手を出そうとするかと』
『そこを捕まえる……完全にナナをエサにしているから心苦しいんだけど、でも、確実な方法だよ。もちろん、ナナに手を出させるなんて許さない』
『とても不安だと思いますが、どうか、私達を信じていただけないでしょうか?』
信じる?
信じない?
そんなことは考えるまでもない。
クロードとシオンはとても優しくしてくれた。
たくさんの笑顔をくれた。
それだけで十分。
信じる根拠はたくさん。
だから……
「いただきますね」
ナナは、エルネストが淹れた紅茶を迷うことなく口に含み、飲み込んだ。
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