63話 背負いすぎないで
「ふぅ……」
会食が終わり。
客間に戻ったところで、ナナはとても疲れた様子でため息をこぼした。
シオンが用意した椅子に座る。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……いえ、その、嘘です……あまり大丈夫じゃないかもです」
病気になったかのようにぐったりと。
うん、気持ちはわかるよ。
あの会食は本当に酷い。
最初、エルネストが自慢話をしていたのが楽しいと思えるほど。
あれからエルネストは暴走を始めて……
ナナがすでに婚約者であるかのような振る舞いを始めて。
スリーサイズを聞くなどのセクハラもして。
私達の子供ならきっと優秀な子に育つでしょう、という身勝手でちょっと気持ち悪い未来想像図を勝手に語る始末。
いや、もう……
本当に酷い。
シオンは表情を変えていなかったけど、でも、間違いなく怒っていた。
それだけじゃなくて、相手の執事やメイドも呆れていた様子。
そんなエルネストと二時間弱、会食を続けたナナは本当に偉い。
ただ、ごっそりと体力と精神力が削れてしまったらしい。
「ナナさん、なにか飲みますか?」
「……すみません、お願いします」
「謝らないで大丈夫ですよ。はい、どうぞ」
すでに作っていたらしく、シオンは笑顔でドリンクの入ったグラスを差し出した。
ナナはグラスを受け取り、そっと口元に運ぶ。
こくりと小動物っぽく飲んで……
「っ!?」
ぱあっと、笑顔が輝いた。
そのまま勢いよくごくごくと飲む。
「はふぅ……」
ほぼほぼ一気飲み。
ぷはー、と貴族令嬢らしかぬ声も。
「あ……失礼しました」
「いえ、お気になさらず。それよりも気に入ってもらえたみたいで嬉しいです」
「すごくすごく美味しかったです! これ、なんですか!?」
「オレンジジュースですよ」
「これが……? でも、普段飲むものとぜんぜん違います」
「ふふ。ちょっとコツがありまして」
「どのような!?」
「収穫したオレンジを低温で保存しておいて、その搾りたてを保管しておいたものです。少し時間は経っていますが、それでも搾りたてはとても美味しくなるんですよ」
「おぉ……すごいです! 調理法でこんなにも変わるんですね」
女の子達は笑顔で話に花を咲かせていた。
よかった。
ナナ、元気になったみたいだ。
まだ問題は解決していないし、色々と大変なことが待ち受けている。
それでも、今は笑顔を浮かべていてほしいな、と思った。
――――――――――――
シオンのおかげで、ナナの緊張はだいぶほぐれた。
落ち着いて、ある程度の余裕ができて。
そして、この先の『作戦』に取りかかる心の準備ができた。
怖いだろう。
恐ろしいだろう。
でも、忘れないでほしい。
俺達がいる。
俺とシオンが、絶対にキミを助けてみせる。
だから……




