60話 思っていたよりも……
「おぉ、よくぞ来てくれた!」
特に問題なくエルネストの屋敷に到着して……
中に入ってすぐ、エルネストが満面の笑みでナナを迎えた。
「「……」」
俺とシオン、なんとか無言。
でも、内心でドン引き。
歳は……詳細はわからないけど、ナナのニ倍。
いや、三倍はありそうな気がする。
体は横に広く、奥にも広く、縦は短い。
大人の貫禄を出そうとしているのか髭を伸ばしているものの、そのセンスが酷い。
貫禄が出るどころか嫌味な感じが出てしまっている。
なによりも問題なのは、その視線だ。
会食に応じただけなのに、ナナにいやらしい視線を向けている。
舐め回すような、ねっとりとした視線だ。
女の子は男の視線に敏感というから、これは嫌だろう。
それに、シオンにも似た視線を向けていた。
この男はナナが好きなのでは?
それなのに、シオンにもそういう目を向けてしまうのか?
……色々な意味で酷い。
想像以上だ。
「……本日はお招きいただき、ありがとうございます」
ナナはちょっと顔が引きつっていたものの、なんとかそう言えた。
「うむ、うむ。今日はとても良き日になるだろう。私達二人の新しい道が開けていく」
「そ、そうですね……」
「さっそく部屋に案内しよう。そこで、二人で楽しい時間を過ごそうではないか」
いきなり部屋に!?
いやいやいや。
こういう時は、旅の疲れを癒やしてもらうのが先では?
貴族社会に疎い俺でも、それくらいはわかる。
というか、今日はただの会食のはず。
それで部屋に誘うとかありえない。
エルネストの悪事を暴く絶好のチャンスではあるけど……
ただ、あまりにエルネストの悪意があからさますぎて、さすがにナナが心配だ。
どうしよう?
俺達は従者という立場で、でしゃばることになるけど、止めるべきか……?
それとも……
「旦那様」
迷っていると、エルネストの執事が口を開いた。
「本日は会食ということでしたので、もうすぐ食事の準備が整います」
「む? そういえばそうだったな」
「まずは、イングリッド嬢との会食を楽しんではいかがでしょうか?」
「ふむ……まあ、それもそうだな」
エルネストは考え直したらしく、素直に執事の言葉を受け入れた。
そんな執事は軽く俺達を見て微笑む。
……もしかして今、サポートしてくれた?
それとも、ただの偶然?
ちょっと迷うところだけど……
もしかしたら、執事は味方になってくれるかもしれない。
慎重に判断する必要があるけど、少しは期待しておこう。
「食事の準備は、あとどれくらいだ?」
「30分ほどになります」
「そうか……ならば、ナナ嬢を部屋に案内しろ」
「はい」
「すまないな、ナナ嬢。本来なら二人の時間を楽しみたいところだが、屋敷の者が用意してくれた食事を無駄にするのも、な。すぐに用意させる故、まずは部屋でゆっくりしてほしい」
「はい、ありがとうございます」
ナナはにっこりと笑い、お辞儀をした。
笑顔は完璧。
所作も完璧。
本当はエルネストに色々と思うところがあるはずなのに、それを完璧に隠していた。
こういうところを見ると、ナナは貴族で。
そして、実はしっかりとした子なんだな、って思う。




