47話 ……の娘
「おいっ、そこ! なにをしている!?」
鋭い声を発して乱入してきたのは、海水浴場の警備員だ。
海難救助のため、きちんとした海水浴場には専用の警備員がいるらしい。
トラブルの解決だけではなくて、事故の際、救助に当たるとか。
もちろん、強引なナンパも取り締まりの対象だ。
「ちっ……行こうぜ」
「僕達の邪魔をしたあなたの顔、覚えておきますよ?」
男二人は不機嫌そうになりながらも、素直に退いて……
俺達も、軽く話を聞かれた後、「気をつけてくださいね」という言葉と共に解放された。
「あ、あのっ……ありがとうございました!」
三人が残り。
ナンパをされていた女の子がぺこりと頭を下げた。
歳は……俺達よりも少し下かな?
たぶん、15くらい。
子供のあどけなさが残りつつも、大人らしさも少しあった。
全体的に小柄で、背も低い。
来ている水着もフリルがついた可愛らしいもので、子供っぽさがある。
……そういうところを考えると、もう少し歳は下なのかな?
「お二人がいなかったら、私……」
「いえ。私はなにもしていません。ご主人様のおかげです」
「俺も、ほとんどなにもしていないけどね。運良く、見回りの人がいてくれて助かったよ」
「い、いえいえっ、そんなことは! お二人がいなかったら、私、なにもできずに流されていたと思います。そうなったら、どうなっていたか……重ねてありがとうございます!」
「えっと……うん。どういたしまして」
ここでお礼を拒否するのもどうかと思い、そう言っておいた。
「俺は、クロード。彼女は……」
「シオンと申します」
「は、はい! よろしくお願いします。私は、ナナ・イングリッドといいます!」
少し緊張した様子で、女の子……イングリッドさんは、そう自己紹介をしてくれた。
人見知りする子なのかな?
「あの……お二人は、今夜、なにか予定はありますか?」
「特にないけど……」
「でしたら、ぜひぜひ、お礼をさせていただけませんか? 我が家に招待させてください。ささやかではありますが、食事を用意させていただければ、と」
「え、そこまでしなくても」
「……ご主人様」
気にしなくていいのに、と思っていたら、シオンが小声で言う。
「受けておきましょう」
「でも……」
「このような時、なにも謝礼をできないというのは、わりと気にしてしまうものです」
「……それもそうか」
俺は、親方やじいちゃん。
みんなに何度も何度も助けられてきた。
夜、酒などを奢っていた。
ただ、子供の時は、そんなことは気にするな、と言われていたけど……
あれ、けっこう気になるんだよね。
子供だからとか、そういうところは関係なくて。
助けてもらったのに、しっかりとお礼をすることができない。
ありがとう、を伝えることができない。
……なかなか心苦しいものだ。
「わかったよ。それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「は、はいっ、ありがとうございます!」
「そこでお礼を言わなくても」
「そ、そうですね。えっと……お二人は、夜はどちらに?」
「宿かな?」
宿の名前を伝えた。
「でしたら、夜になったらそちらを訪ねますね」
「了解」
「ではでは、また!」
女の子は何度も頭を下げつつ、この場を後にした。
とても真面目な子だ。
ああいう子を助けることができて、本当によかった。
「……」
「シオン?」
「なんでもありません」
シオンが微妙な表情をしていたような気がするんだけど……気のせいだったかな?
――――――――――
夜。
イングリッドさんの使いという人がやってきて、俺達は、オーシャンテイルを馬車で移動した。
……思えば、ここで気づくべきだった。
本人ではなくて、使いの人がやってきて。
移動に馬車を使うことができて。
そんな人は、当然、それなりの財力を持つわけで……
「おまたせいたしました。こちらへどうぞ」
「おぉ……」
広大な敷地を持つ屋敷に到着した。
屋敷を囲む塀と門は、とても頑丈そうなだけではなくて、綺麗な装飾が施されていた。
その奥に広がる庭は、多種多様の植物が育っている。
緑が広がる光景は、見ているだけで心が癒やされていく。
そして、三階建ての屋敷。
これは……城?
ついついそんな感想を抱いてしまうほどに大きく、そして、きらびやかだ。
屋敷が輝いているかのようで、ついつい見惚れてしまう。
「これは……すごいね」
「イングリッド様は、貴族の方だったのですね……」
ついついぽかーんとしてしまう俺達。
妙なところで貴族と知り合い、その歓待を受けることになったのだけど……
これから先、どうなるのだろう?




