48話 ナナ・イングリッド
「ようこそ、イングリッド家へ」
迎えてくれたのはイングリッドさん。
それと、その両親。
ついでに言うと、たくさんとメイドさんも。
「君達が娘の恩人だね? 娘を助けてくれてありがとう」
「あなた達がいなかったら、どうなっていたことか……本当に感謝しています」
両親に揃って頭を下げられてしまう。
二人共、貴族のはずなのに……
平民の俺達に頭を下げるなんて、そんなことをして大丈夫なのだろうか?
こちらはもう慌てるしかない。
「い、いえ! 俺達は、そんなに大したことはしていませんから」
「恩人とまで言われるほどのことは……」
「なに、謙遜することはない。誰よりも最初に動いてくれたのは君達だそうじゃないか。それは、なかなかできることではない」
「とても勇気のあるのですね」
「えっと……」
過剰に褒められてしまい、照れてしまう。
ただ……
言い換えると、それだけ両親は感謝しているのだろう。
そして、イングリッドさんを深く愛しているのだろう。
それ故の感謝。
それ故の歓待。
なら、ここは素直に受け止めておこう。
「えっと……その、どういたしまして」
「今日は、最高の料理と酒を用意した。ぜひ、楽しんでいってほしい」
「お部屋も用意していますから、後のことは気にせず楽しんでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
両親は笑顔で言うと、席を立ってしまう。
……そういえば、両親の分の料理や酒は用意されていなかった。
俺の怪訝そうな視線に気づいた二人は、苦笑しつつ言う。
「ああ、すまないね。実は、最近、色々と立て込んでいてね。これからも仕事なのだよ」
「私も夫のサポートをしていまして」
「そうだったんですか……おつかれさまです」
「クロード君とシオン嬢は、気にせずに楽しんでほしい。ナナ、後は任せたよ」
「はい。お父様、お母様もがんばってください」
イングリッドさんは笑顔で両親を見送る。
やや寂しそうにしているものの……
仕方ないことと割り切っている様子で、不満などを表に出すことはしていない。
両親を見送った後、再び席につく。
「では、まずは乾杯を。クロードさんとシオンさんはお酒で大丈夫ですか?」
「えっと……たぶん?」
「私もたぶん……という返事になってしまいます」
俺は仕事ばかりしてきたから、まだ酒を飲んだことはない。
シオンは奴隷になっていたこともあり、酒を飲んだことはないのだろう。
どれくらい飲めるのだろう?
疑問に思い。
それと、ちょっとだけ楽しみでもあった。
「せっかくだから、いただこうかな」
「私もよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです!」
メイドさんに、グラスに酒を注いでもらう。
綺麗な琥珀色で香りもいい。
「では……私の恩人である二人に最大限の感謝を。そして、この出会いに……乾杯!」
「「乾杯!」」
グラスを合わせた。
俺達は酒。
ナナはまだ未成年なので、ジュースだ。
それぞれ飲む。
「……おぉ」
ついつい、そんな短い感嘆の声がこぼれてしまう。
喉を焼くような強い感覚。
でも不快ということはなくて、この刺激が心地よくもあった。
後から遅れてやってくるフルーツの甘みと香り。
それがあるからかスッキリしてて、さらっと飲むことができた。
「これが酒……」
「ど、どうでしょうか……?」
「うん。とても美味しいよ」
「よかったです! あのあの、シオンさんはどうでしょう……?」
「はい。とても素晴らしいものかと」
「やった!」
イングリッドさんは、笑顔の花を咲かせた。
こそっと、メイドさんが耳打ちしてくれる。
それによると、今夜の歓待の料理や酒はイングリッドさんが選んだらしい。
俺達に喜んでほしい。
そのために色々とがんばったのだとか。
歓待される側だけど、俺達の方がありがとう、と言いたい。
「あのあのっ、お二人は冒険者なのでしょうか?」
「冒険者といえば、冒険者かな? ただ、今は、色々とあって北を目指して旅をしているんだ」
「旅!」
イングリッドさんは目をキラキラと輝かせた。
「あの……よかったら、お二人の冒険譚を聞かせていただくことはできませんか?」
「え? 冒険譚といっても、そんな大したことはしていないんだけど……」
「ご主人様。先日のことをすでに忘れましたか?」
「ファーグランデのこと? でも、大したことは……」
「初見でダンジョンを攻略して、リヴァイアサンを二頭、討伐した……これは、とてつもなく『大したこと』なのですよ? ご主人様は謙遜が過ぎます」
「ご、ごめん……」
なんか、シオンに尻にしかれているような気がした。
一応、立場的には俺の方が上のはずなのに……むぅ、おかしいぞ?
「そ、その話をぜひ! あと、私のことは、ナナと気軽におよびください」
「いいの?」
「はい、ぜひ!」
「……わかったよ、ナナ」
「よろしくお願いいたします、ナナ様」
「はい、よろしくです!」
ナナは嬉しそうに笑い。
たぶん、俺も笑みを浮かべていて。
楽しい夜が続いていく。




