青山サキは異世界にて、遥かなる頂点を識りステージに立つ
2月27日は大好きな人のお誕生日だから、世界一可愛い記念日
改装された巨大な装甲車両ドーリーの操縦室にある自身の座席に体を沈め、青山サキは出発前の最終チェックを済ませた。
改装前、前面にあった窓はなくなり分厚い装甲に包まれ、代わりに設置された4面あるモニターには、広いドーリー待機場が映し出されている。
ドーリーの左右には、白銀に輝く魔道装甲車が1台ずつ待機していた。異世界のスーパーアイドルでもある王女サーシャの慰問ライブツアーのセットや舞台装置、衣装が積み込まれ、40名程のライブスタッフと護衛団が搭乗していると聞いている。
サキは美しい装甲車を眺めながら、つい数時間前に経験したステージを、軽い高揚感と共に思い出し笑みを浮かべた。
この異世界のエルフ温泉郷に、サキが所属する部隊が辿り着いてから約2週間が過ぎていた。
負傷した仲間である大山サトシの治療とリハビリの為の特別休暇で、サキは恋人のセイラと一緒に温泉と食事と観光を楽しんだ。
そんな中、サキが温泉を楽しみながら戯れに作って歌っていた曲が、温泉郷の子どもたちの間で大人気になった事は驚きだった。
小さな頃から歌うのは好きだった。特に無料で観ることが出来た、昔のアニメの一挙放送は、裕福ではない家庭では最高の娯楽だ。
数々の名作のオープニングやエンディング、挿入歌には心揺さぶられ、双子の妹たちと一緒に口ずさんでいた。
住んでいた壁の薄い市営集合住宅では大きな声で歌えないが、年に3度開催されていた町内のお祭りのカラオケ大会では、ステージに立ち思う存分に歌った。
その頃から、近所のおじさんやおばさん達から、声が綺麗だ歌が上手ねと褒められてはいたが、まさか異世界に来て歌配信デビューをする事になるなんて、想像した事すらなかった。
「青山サキ様、ステージ上で輝いてみたくはないですか?あなたにはその才能があります」
そう怪しげに誘って来たのはサングラスをかけた銀髪のメイドだ。
温泉を堪能して、習慣である牛乳を飲み干した後の不意をつかれたサキは困惑する。
「ナージャさん、なんだそのサングラスは。全く似合ってないからやめた方が良い」
サーシャのメイド隊に所属するナージャは、しなやかな体をした背の高いエルフだ。腰まである真っ直ぐな銀髪は光り輝き、透き通るような真っ白な肌と、小さな整った顔立ちは高貴さを醸し出している。
しかし、下町のチンピラが好きそうな安っぽいサングラスをかけているのが残念すぎる。
「私のことはプロデューサーと、そうお呼びください。まず、温泉郷レコードのスタジオにて楽曲の収録を行い即日配信。値段は子どもたちでも購入しやすいよう大銅貨1枚とします。さらに、チャリティイベントのステージでミニライブを開催し、そのまま電撃引退。歌て映像のみが語り継がれ、謎の超新星アイドルは温泉郷の伝説となるのです」
サングラスが似合わないと言われたことに、少し落ちんだように見えたナージャだが、強引に話を進め出した。
若干、早口で話す内容は、売り出し方を知らない夢見る世間知らずの地下アイドルを騙して、楽に儲けたいチンピラが考えそうなものだった。
だが、気になる部分が無いわけではない。
「ふむ、そのチャリティイベントというのは?」
サキはチャリティという言葉に敏感だ。
住んでいた町の中枢である財閥が主催するチャリティイベントでは、売り上げの大半を町の子供たちの為に使うように取り計らってくれていた。
学校の制服や文房具に書籍。ファストファッションに使えるクーポンとして配布してくれていたのだ。
サキや妹達が新しい制服や、毎シーズン普段着を揃える事ができたのもそのお陰だった。
「この温泉郷は戦地です。エネミー群の襲撃により、負傷者や死者が出る事もあります。傷が癒える間の生活の補償はありますし、亡くなった戦士のご家族には王家から年金が支給されます。ただ、それだけでは足りない状況も多々あります」
その言葉にサキは頷く。突然のアクシデントでお金を稼ぐ手段が無くなる事は、人生において珍しい事ではない。サキも母が倒れてしまい、家計を担う者が少なくなり、この危険な異世界に来る事になった。
「そこで、闘技場での闘技大会や宝くじ、コンサートやお祭りを開いて、住民の皆さんに楽しんで貰いながら寄付金を募っているのです。宣伝と利益還元の為、スポンサーとなってくださる企業も増えて来ました。サキ様のあの素晴らしい楽曲が配信されるなら、それに協力したいという企業から、すでに声がかかっております」
それは心が揺れる言葉だった。
恋人のセイラは、夜な夜な狙撃訓練を繰り返している。
部隊のリーダーのエリナは、毎日のように忙しく交渉や打ち合わせの為に奔走している。
サトシは女性にデレデレしながらだが、懸命にリハビリをしている。
ジュリアは元気一杯にご飯を食べ、ユウキは街を彷徨いている。
最後の2人はともかく、頑張っている部隊の皆と違い、サキは遊んでいるだけのような気がして後ろめたく感じていた。
サトシとついでにユウキの治療をしてくれた、サーシャの故郷の為になるのなら、大したことは出来ないが力を貸したいとは思う。
「しかし、あのような歌で大丈夫なのだろうか?それにステージに立つのは少し恥ずかしい」
サキは働きに出た事もあり、ここしばらくはカラオケ大会にも出ていない。人前で歌うのは何だか面映く感じてしまう。
「万事、このナージャPにお任せください。サーシャ姫さまをトップアイドルにまでプロデュースしたのもこのわたし。サキ様をレジェンドアイドルに導いて見せましょう」
そして、サキは異世界にてアイドルとしてデビューする事になった。
ナージャに王宮まで連れてこられ、サーシャのライブ衣装が保管されているという部屋に案内される。
「サキ様、こちらです」
「うむ、お邪魔する」
こんな場所に入って良いものかと思ったが、20畳ほどもある部屋には煌びやかな衣装が並んでおり、その可愛さにサキは見惚れてしまう。
今から衣装を新しく仕立てる時間はないから、サーシャがデビュー当時に用意して使われなかったものを、サキの体に合わせて仕立て直してくれるという。
「むぅ、これはすごいな。すごくすごい」
透き通るような蒼のミニドレスはサキの体にぴったりと合い、動きを全く阻害せず、何も着ていないかのように軽い。
しかも肌触りが素晴らしく、その着心地の良さに語彙力がなくなる。
「サキ様は骨格が美しく、身長と比して手足が長く姿勢も良いので、デコルテは少し広く露出した方がよいかと。よくお似合いですよ」
髪を整えてメイクまでしてくれた、ミシャという名前のメイドはサーシャのスタイリストだという。彼女は満足そうに頷き鏡を見せてくる。
少し胸元が出過ぎではないかと思ったが、サキは鏡に映る自分の姿に呆気にとられる。誰だこれはと思考が少し停止する。
いつも睨んでいるように思われる鋭い視線は、メイクにより柔らかくなっていた。
「このナージャPの眼に狂いなし。この孤高を想わせる瞳とあの情熱的な歌声。サキ様は天下を取れる逸材。サーシャ様とライバル関係にまで育て上げる方向性もある」
「こら!ナージャ!サキ様は他にお仕事があるんだから、無理を言っては駄目ですよ!」
「しかしこの逸材を見逃していいのですか?ミシャもかなり力が入っているようですが?」
「確かに磨き育て上げたい方ですね。サキ様は年齢を重ねるごとにさらに美しくなるタイプかと。異世界の民間志願警備員制度というものの任期は5年と聞いたことがあります。それからでも遅くはないでしょう」
「ほう?確かに配信と初期のミニライブだけを世に放ち、話題を拡散させながら楽曲のストックを作り、ダンスや歌を磨き上げる。そして、数年後にあの温泉郷の伝説がメジャーデビューと大々的に煽る。デビューの場はやはりサーシャ様のライブが良いでしょう。前座として登場させ、サーシャ様のアンコールにてライバル宣言。これは来ますよ」
「メイクと衣装は任せてくださいね!」
サキが口を挟む間も無く、2人の話がどんどん進んで行く。
「あなた達、サキ様がお困りでしょう。きちんとご本人の希望を聞かないといけません」
そう言って助け船を出してくれたのは、タンクトップとスパッツだけの姿で部屋に入って来たサーシャだ。
白銀の髪を輝かせ、怖いくらい整った小さな顔に可憐な笑みを浮かべており、近くで見ると妖精のようだと改めて思う。
サキより少しだけ背が高い。引き締まったしなやかな体なのに、胸と腰回りは見惚れるほどに大きく張り詰めている。
肋が浮くほどに細いが、長い両手足やお腹周りや背中には、みっしりと細く美しい筋肉が浮かんでいて、鍛え抜かれているのが分かる。
「サキ様、申し訳ありません。チャリティイベントにご協力頂けるとの事でしたのに、わたくしの教育が至らずご迷惑をおかけして。この2人はきちんと叱っておきま……あら?あらあらまぁまぁサキ様。以前から思っておりましたが、やはり磨けば磨くほどに輝く方ですね。ミシャ、わたくしの装飾品を。過剰なものは不用です。サキ様の鋭さと孤高を際立たせるのを選ぶのです」
サキにはセイラという顔面天才の恋人がいる。美しい顔は見慣れているし、顔面キラキラのエルフ達を見ても綺麗だとは思うがそれだけだ。
だが、間近に迫り見つめてくるサーシャの姿に、胸が高鳴るのを抑えきれなくなる。
サトシのヤツはこんな人に迫られて、どうやって理性を保っているのだろうかと疑問に思う。
サキが10年働いても頭金すら出せないであろう、数々の装飾品を身につけさせて貰い、その繊細な細工と美しい輝きに感嘆のため息が漏れる。
しかし、それよりも美しい存在が目の前にいる。仮衣装を身につけて、メイクをほどこしたサーシャは神々しいまでに光り輝いていた。
そんな美しい生き物が、柔らかくサキに微笑みかけてくる。まるで夢を見ているかのようだ。
サキに美しく長い指が差し出される。長年の家事で荒れて皮が厚くなった自分の指が恥ずかしい。
ドキドキしながら手を重ねると柔らかく握りエスコートしてくれる。
「あら?サキ様の指は働き者の指ですね。わたくしの大好きな指です。スタジオに参りましょう。サキ様の歌声を聞きたいです。わたくしもリハーサルがありますので、ご一緒しましょう」
サーシャの可憐な笑みと気遣いに、これは無理だと思う。
サキはこのお姫様の誘惑に堕ちないようにしているサトシが脳裏をよぎり、これはもう駄目だろうなと確信する。遠からず陥落するだろうと。というかなぜまだ堕ちていないのかが分からない。
そして、同じくサトシが気になっている様子のジュリアとむっつりエリナの健闘を祈った。
スタジオは衣装部屋から少し歩いた場所だった。王宮のこの辺りには、サーシャの為の施設が集中しているという。
聞き上手なお姫様により、楽しく話をしながら歩いていて、気がついたら防音処理が施された部屋だった。
サキが温泉に浸かりながら即興で作った歌は、作曲家の手により4分程度の楽曲に仕上げられ、生バンドによる演奏が入る。
歌の収録が始まり、歌い終わった後にチェックをすると、すぐさま配信が開始される。
配信された曲はダウンロード販売され、飲食店や商店で流されるという事だ。
「サキ様、素晴らしい歌声でした。あなたの孤高を想わせる美しい魂の叫び。沢山の人々に愛される歌となるでしょう」
「サキ様、このナージャPと共にブドウカンを目指しましょう。ブドウカンが何なのかは知らんけど」
「ブドウカンは異世界の闘技場と聞いた事があります。闘技場で歌うのでしょうか?異世界の風習はよく分かりませんね」
収録していたブースから出ると、サーシャが少し興奮したように拍手をしてくれた。
この異世界で頂点に君臨しているという、スーパーアイドルに褒められてサキは顔が赤らむ。お世辞とは理解していても嬉しいなと思う。
そして、ナージャは少しポンコツなんじゃないかと思い始めた。首を傾げるミシャは衣装やメイクを用意してくれたが、ナージャは何にもしていない。
自称プロデューサーは、ただ腕を組んでふむふむと頷いているだけである。
たまに忙しく働いているスタッフ達にちょっかいをかけているせいか、何だか雑な扱いを受けている。気にした様子は一切ないけれど。
「わたくしもバンドの皆様とのリハーサルが終わりましたし、チャリティにご協力して頂けるサキ様へ1曲送りましょう。そうですね……お好きだと言っていた曲にしましょうか。わたくしもあのアニメが大好きなんです」
そういえば、サーシャがアイドルだとは聞いていたが、生で歌っているのを見たことはなかった。
温泉郷のお店で歌が流れているのは何度か聞いたし、美しい歌だとは思っていたが、きちんと聞くのは初めてだ。
しかも、先程スタジオに来る時の会話に出た、サキが好きな古のアニメの1期エンディングを歌ってくれるという。
それは70年以上前にテレビ放送され、シリーズ3期と劇場版3作が公開された後、新たなシリーズが制作された魔法少女アニメ。
サキは主人公である、孤独を抱えながら戦う少女に激しく共感し、少女の声優さんが歌うエンディングの歌声と歌詞に魅了された。
声優さんがアニメイベントで歌うバージョンと、自身のライブで歌うバージョンの2種類があり、サキはどちらも大好きで、デバイスにダウンロードしたものをよく聞いている。
サキが用意された椅子に腰掛けていると、バンドメンバーとにこやかに打ち合わせしたサーシャが、こちらを向いて一礼し、体を起こした瞬間、部屋の空気が変わった。
歌い出したサーシャから目が離せなくなる。
もちろん、本家の声優さんとは全く声質が違う。
けれども、美しく明瞭な歌声を体中に浴びて、サキは息を呑む。
歌詞に込められた感情や想いが伝わってきて、アニメを始めて見た時の記憶と共感が一気に甦ってきた。
歌詞がサビに差し掛かると、サーシャは視線をしっかり合わせてきて、手を差し伸べながら歌いかけてくれる。
サキは次元を超えた場所にいる、母と妹たちの笑顔を思い出す。
今は連絡すら取れない家族との何気ない日々が脳裏に浮かび、頬を何かが流れ落ちる感触があった。
笑顔で元気に過ごしていると、大切な家族に伝えられず、心配をかけている申し訳なさが溢れてくる。
歌い終わったサーシャが駆け寄ってくる。
「わたくしの歌で、サキ様に何かお辛い事を思い出させてしまったようですね……申し訳ありません」
気遣しげにハンカチで顔を拭われ、初めて自分が泣いていた事に気づいた。
サキは物心ついた後、涙を流した記憶がない。
感情が揺さぶられ感動する事があっても、常に頭の何処かには、感動した理由を探す冷静な自分がいた。
サーシャの歌はそんな分析する余地すらなく、感情の渦に叩き込まれて涙を流すくらい、心を揺さぶられてしまったのだろう。
「いや、サーシャさんの歌に飲み込まれただけなんだ。わたしは記憶にある限り、初めて涙を流した。それほどにあなたの歌に心を揺さぶられた。本当にありがとう。素晴らしい体験だった」
この歌声を守らなければ世界は壊れると、頭の中で何かが囁く。
サーシャに出会った事にも、きっと何か意味があるのだろうと思う。
けれど、今は心揺さぶられたこの気持ちを大切にしよう。
「サーシャさんには遠く遠く及ばないけれど、わたしも出来る限りの気持ちを込めて、ステージで歌おうと思う」
異世界の頂点に立つスーパーアイドルは、いつものように可憐な笑みではなく、子供みたいな無邪気な満面の笑みになり優しく抱きしめてくれた。
(ぬぅ!?デッッッッッッッッッッカ!!!)
サキは己のコンパクトな体に押しつけられる、圧巻の存在感を誇るブツの、ハリがありつつも柔らかな感触にたまげてしまい、先程までの気持ちが吹き飛んでしまう。
それが何だか愉快になり、声を上げて笑う。それに釣られたサーシャもくすくすと笑い出し、部屋の中は柔らかで暖かな空気に満たされた。
「わりぃ!サキ遅れた!」
操縦室に入ってきたユウキの声で、サキは我に帰る。
「遅れてはいないが、珍しいなユウキ。また浮気か?浮気なのか?立花ミユキ氏に言いつけるぞ」
座席に着いておくべき時間まで、まだ15分近くある。いい加減に見えるユウキだが、ドーリーを動かす時は30分以上前には座席に着いてチェックを済ませている。
「ちげぇよ!俺はもうミユキちゃん一筋だぜ!……チビの貢ぎ物を買ってたらくっそヤベェ女がいてよ……視界に入らないように逃げ回りながら戻ってきたんだ。見かけは可愛いらしいエルフだったが、あれはとんでもなくヤベェ。全身が震えたもんよ」
そう言って戯けてみせるユウキの首筋には、びっしりと鳥肌が立っていた。
「ユウキがそこまで怯えるなんて相当だな。まあ良いではないか、もうすぐ出発なんだから」
こいつがここまで言うのだから、本当に関わらない方がいい存在なのだろうと思う。
「だな!そういやさっきすれ違った双子から聞いたぜサキ!ステージ大成功だったみたいだな!今日の晩飯後に皆んなでアップされた映像見ようぜ!楽しみが増えたな!」
「むぅ、少し恥ずかしいがよかろうよかろう。我がアイドル道のファーストステップを脳裏に刻むがよい」
凄まじい速度でチェックを済ませたユウキは、ニヤけた顔で話を振ってくる。
みんな揃った賑やかで楽しい夕飯を想像して、サキは口角が上がるのを抑えきれなかった。
「サキは歌うめぇからなぁ。数年後には人気アイドルかもしれねぇな!サイン書いてくれよ!ユウキさん江ってちゃんと油性ペンでな!」
「うむ、任せよ。ライブに招待してファンサをくれてやろう」
フンス!と鼻息荒く宣言したサキに、本当に嬉しそうに笑うユウキ。
「皆様、少し早いですが最終チェックは完了しました。サーシャ様の護衛部隊も準備完了との事ですので5分後に出発となります。都市防壁外に出るのは半月ぶりです。気を引き締めて参りましょう」
ドーリー内にエリナの凛とした声が響く。少しだけ弛緩したサキの気持ちが引き締まる。
また、凶悪なエネミー群が闊歩する、死と隣り合わせである都市の外を進む事になるのだ。
この過酷な世界で生き残り、セイラや家族と穏やかに暮らす以外、何の望みもなかったサキにも微かな目標が出来た。
サーシャのように、人の心を揺さぶるくらい歌えるようになれるのだろうか。
今は目的地の想像すら出来ないが、いつかそこに辿りつけるよう、今日も精一杯の時間を過ごそうと思えた事がなんだか嬉しい。
「江崎隊!出撃!」
部隊長の凛とした声が響き渡る温泉郷は、サキの心のように澄み渡る晴天だった。
「はぁ、なんて美しい魂の色でしょう。あんな透き通った輝きは初めて見ました」
「ミシャ、ダメですよ。サキ様は使徒セイラ様の恋人ですからね。遠距離からズドン!ですよズドン!」
「ナージャ、そういうのではありません。わたしの衣装とメイクでサキ様を磨いて差し上げたいのです。それだけで満足なのです」
「使徒セイラ様は3人までなら許すとおっしゃっていたような」
「はい!はい!わたしが立候補します!お2人を磨いて差し上げたい!ついでに可愛がってさしあげたい!」
「冗談です」
「ナージャ!覚えてなさい!姫様のお衣装をクンカクンカしていたのチクッてやりますからね!」
「何のことだかわかりませんねぇ」




