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異世界エルフ温泉郷を守護せし愚か者

エルフの包囲網からは逃げられない

 ドーリーの自室のベッドの上で、この状態には絶対に慣れないと思っていたけれど、不思議なもので毎日同じように過ごしていると、人は慣れてくるのものなんだなと、大山サトシは感心していた。


 異世界での民間志願警備員という、いかにも怪しげな職業に生活苦から飛びつき、必死に訓練をこなしてやってきた地で左腕を失い、エルフの温泉郷にて再生させてもらった。


 そして、親しげに接してくれるこの温泉郷の王女であるサーシャが、サトシの左腕を抱えるように抱きついて眠っている。

 薄い寝巻きを押し上げる、張り詰めた柔らかな神秘が、寝息に合わせて動くのを左腕に感じる。

 優しい甘い香りと温かい体温に不思議と興奮することなく、何故か落ち着く。

 とても暖かな春風のような魔力が、左腕から染み込んでくる感覚があり、とても心地よかった。


 そして、右腕には年下の同僚であり、自称師匠の宇部ジュリアが抱きついて眠っている。

 小さな体なのに、深く長い呼吸は大型の肉食獣を思い起こさせる。

 こちらからはサトシのヘソの下あたりを通じて、氣というものが流れ込んできて、全身を巡ってから、またジュリアに戻っていく感覚があり、蕩けそうに心地良かった。

 昼間、ジュリアから訓練と称する可愛がりをされた体の痛みが消えていくようだった。

 少し前までと違い石鹸ではなく、蠱惑的な花のような香りが鼻腔をくすぐり少しドキドキする。


 明日の朝にはこの温泉郷から、新たな任務であるサーシャの慰問ライブツアーの護衛として旅立つ。

 左腕も元に戻ったし、体調はすこぶるいい。

 友達が出来たし、ご飯は美味しかったし、温泉も気持ちよかった。

 またここに戻ってきたいなと、そう思いながらゆっくりと意識が溶けて深い眠りに入っていく。






「エリナ、わたしたちは何処に配置されるんだ?」

「とても気になる」


 改装されたドーリー内で夕食をとり、お茶を飲んでいたら、新しく搭乗員となる双子エルフのシアとミアが、部隊長の絵崎エリナに問いかけた。

 エルフの戦士団に属する2人はサーシャの護衛役でもある。


「おふたりには、ドーリー後部に新たに設置された魔導機関砲を担当して頂く事になっています。わたしと一緒のポジションですわね、よろしくお願いいたします」


 長身の2人に挟まれて、美味しそうに銘菓エルフ饅頭を味わっていたエリナが、にこやかに答える。


「エリナと一緒か!それは楽しみだ」

「うん、エリナには色々とお話があるそう色々と」


 意味深に笑う双子に、エリナの顔がひきつる。


「お、お手柔らかにお願いしますね」


 双子はそっくりのドヤ顔で宣言する。


「安心しろエリナ、私たちは強い」

「皆んな最後は、お姉さまと呼ぶようになる任せろ」


 何だか百合の花咲くキマシタワーが建設されているような気がするが、じっくり見つめるとデリカシーがないとジュリアに叱られので、雰囲気を味わう。


 サトシは百合の花が大好物だ。そういう物語は100年近く昔のものまで、徹底的に読み漁っていたくらいである。


「旦那様、わたくしは移動中、セイラ様のいらっしゃる狙撃室にて探知と索敵を行います。寂しいでしょうが我慢してくださいね?お仕事の後は、ずっとずっと一緒ですからね?」


 サトシの左隣に座って、ほうじ茶を飲んでいるサーシャが、上目遣いで見つめてくる可愛い。

 その上、体が近すぎるから雄大なるブツが触れるか触れないかの、ぎりぎりである。


「だいじょうぶすごくだいじょうぶです」


 近い近すぎる位置にあるブツが、すごくすごい気になりすぎて上手く言葉が出ないすごい。


 いつもなら、サーシャに食ってかかるジュリアは余裕のドヤ顔である。


「ボクはサトシと一緒だもんね!師匠と弟子はずっと一緒だからね!お仕事中も終わった後も、ずっとずっと一緒だからね!」


 星が煌めくような瞳を細めて、ムフーと勝ち誇っている。

 何故、師匠と弟子が一緒なのかは、サトシには理解出来ないが、ジュリアが近くにいると安心感があって嬉しい。


「あらあらまあまあ『お小さい』ジュリア様で、大きいのがお好きな旦那様は満足出来るのでしょうか?ね?旦那様?」


(このエルフめっちゃ煽るやん!お小さいをめっちゃ強調するやん!ジュリアさんにだけめっちゃ煽るやん!)


 いつもなら、即座に噛み付くジュリアだが今回は違った。


「ふふん!サーシャ!あざといエロフの時代は終わりなんだよ!明日からは、主砲室にマリーが入るからね!お胸大きい枠は満員御礼だよ!ざまぁ!」


 そう、明日からは、牛人族の介護士マリーが、主砲室に配置されることになっている。

 小柄ながら、巨大な2丁の戦斧を操る女性である。その上、サーシャには僅かに及ばないが、見事なブツの持ち主である。


「そうやなぁ明日からよろしゅうな、ジュリアちゃんサトシさん」


 ジュリアはマリーにものすごく懐いている。今もマリーに抱きついて、キャッキャと笑いながら、雄大な胸元に顔を埋めてぐりぐりしている羨ましい。


 見惚れていたら、左腕の袖をぎゅっと掴まれたので振り返ると、頬を膨らませたサーシャが耳をピコピコさせていた。

 膨れた顔まで可愛いって、すごいと思う可愛い。


「致し方ありません。これだけは使いたくなかったのですが、、、2人を相手にしては不利は否めないですからね、、、ミリア!やっておしまいなさい!但し!自分が公爵家に嫁いだ人妻だと忘れないように!」


 サーシャの後ろに控えていた、長身のメイド長が深々と頭を下げる。


「ご安心ください姫さま、夫とは契約結婚です。家の結びつきだけの関係ですので。夫には別に妻がおりますからご心配なく」


 貴族ってそうなんだとドキドキしていたら、サーシャもびっくりした顔をしていた。


「え?だって、ミリアには娘がいるではないですか?え?あのこは?」


「ああ、あの子は夫の幼馴染が産んだのです。お互いに周囲がうるさかったので、形だけの結婚です。夫の家はあの子が継ぐ事になるでしょう」


「えっと、、、あのではミリアは?」


「適当なのを捕まえて、仕込ませます。実家にも2.3人は必要ですからね。ちょうどいいですお任せください」


「は?ちょうどいい?え?どういう事ですか?」


「好みではありませんが、姫さまの命令とあれば致し方ありません。ダンナ様、よろしくお願い申し上げます」


 近くまで寄ってきて、深々と頭を下げるミリア。

 体を起こす時に、サトシが扱う滑空砲の砲弾の如く突き出したブツが揺れる。

 思わずツバを飲み込むと、フッと鼻で笑いサトシを見下し、豪奢な金髪をかきあげるメイド長。ものすごくいい香りがした。

 この人は、背が高くて美人で髪が綺麗で、引き締まった体をしていてスタイルがよく、とある部分だけが大きくて、仕事の出来るメイドというだけで調子に乗っているのだと思う。

 サトシはこの人にだけは、絶対に屈しないと誓いを立てる。


「やだ〜サトシが遂に人妻にまで〜怖いよ〜サキ〜」


「うむ、ハーレムキングの種族特性であろう。だが恐れる必要はない。セイラは必ずわたしが守る!」


「やだ〜サキ素敵すぎるんですけど〜」


 同じ部隊の伊知地セイラと青山サキが、サトシを利用してまーたイチャイチャしていた。

 種族特性ってなんだよと思う。ところ構わずイチャイチャしているし、この2人は本当に酷い。

 サトシは百合の花咲く2人の間に挟まるなどという、不粋で許されざる事はしない。

 密かに愛でている事は秘密ではあるけれども。


「サトシ、俺の心の友よ、、、随分と高いステージに昇り詰めちまったな、、、友として見守ってやんよ!」


 サムズアップしながら、小気味よくウインクしてくる親友の柏原ユウキこそ、婚約者がいるじゃないかと思う。

 出会って数分で女性に婚約を決意させるとか、ユウキの方こそレベルが高すぎると思う。


「いけません!あ、赤ちゃんはまだ早いです!いけませんからねミリア!手を繋ぐまでは許します!」


 フリーズしていたサーシャが叫ぶが、メイド長はやれやれとため息をつく。


「きちんとしますから大丈夫ですよ。ナージャもいますから安心してください姫さま」


 もう1人のメイドである銀髪のナージャが、任せて欲しいと、優しくサーシャの手を握る。


「ナージャ!あなたは殿方に興味はないと言っていたではないですか!」


 その言葉に、サトシの百合センサーは、ほう?と敏感に反応する。


「姫さま、陛下のご命令なのです。わたしは姫さまに忠誠を誓ってはおりますが、指揮権は陛下にございます。きちんと致しますので、ご安心ください」


 いや、百合の間に挟まるのは禁忌である。

 そのような愚かな行為を、サトシは絶対にしない。

 愛でてこそ花なのだ。

 触れるような事はしてはならない。

 ならぬものはならぬのだ。


「そろそろ、就寝の準備に入りましょう。明日は9時に出発となります。長い休暇明けですので、気を引き締めて参りましょう。あら?どうされましたのミアさん、シアさん?何故、手を引くのです?」


 まあまあとりあえずと、双子エルフに両手を繋がれて、部隊長がドナドナされていく。

 サトシの趣味ではないが、3人で咲き誇る花も良いとそう思う。


「それじゃあ、僕も休ませてもらいます。おやすみなさい」


 サトシは飲んでいたカフェオレのカップを洗い終え、皆んなに挨拶をして、返ってくるおやすみという言葉を心地よく思い、すぐ近くの自室に向かう。

 明日の朝は久しぶりに朝食作りだから、少し早起きしようと、軽くストレッチをした後、大きすぎるベッドに入った。


 しばらくすると、枕を抱えたタンクトップとショートパンツ姿のジュリアが入ってきた。


「サトシ、師匠が守りに来てあげたからね!心配しないで、ゆっくり眠るんだよ!」


 するりとベッドに潜り込んできて、右腕に抱きついて、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。

 何だか猫っぽい仕草が可愛い。病院でもほぼ毎日一緒だったから、追い出そうとしても無駄なのは、よく分かっていた。


「おやすみなさい、ジュリアさん。明日のお昼はジュリアさんの好きなカツサンドを作るからね。楽しみにしていて」


 そういうと、ジュリアは星が煌めくような瞳をキラキラさせて、満面の笑みを浮かべる。


「嬉しい!ボク、サトシが作るカツサンド大好き!」


 そう言って、また頭をぐりぐり擦り付けてくる。

 くすぐったいけど可愛い。


 また少しして、今度はYES!とプリントされた枕を抱えたサーシャが部屋に入って来た。こういう文化は、誰が伝えたんだろうと思う。

 それにしても、相変わらず薄い寝巻き姿のサーシャは大変な事になっていて、視線を向けられない。


「旦那様、ミリアとナージャを叱っていたので遅れてしまい、申し訳ありません。旦那様にはわたくしがいますからね」


 ベッドに潜り込んできて左腕に抱きついてくる。

 すごいここに理想郷はあったんだと、確信したぐらいすごいけど、何故か興奮はしない。

 すごく落ちついた気持ちになる。


「サーシャさん、明日からよろしくお願いします。絶対に守りますからね」


 そう言うと、顔を真っ赤にして、長い耳をくたりと垂れさせるサーシャは本当に可愛い。


「旦那様、他の方にそのような事を言ってはいけませんからね、、、わたくしとの約束ですよ?」


 サーシャ以外、護衛対象はいないのだから、言うはずもないのだけど、まあいいかと思う。


 しばらくすると、2人の体温でベッドが温まり、その心地よさと甘い香りに、酔いしれそうになる。

 サーシャの魔力とジュリアの氣が混じり合い、ヘソの下でぐるぐると回転しているのが分かる。

 魅力的な2人が抱きついているのに、何故か興奮したりせずに深い安心感に包まれ落ちつく。



 柔らかな夢を見ていた。

 みんな笑顔で、楽しそうに食卓を囲む夢だった。


 その夢が突然暗くなる。

 何か嫌な感覚が近づいてくるような気がして、サトシの意識は急速に覚醒した。


 それと同時に、ジュリアが肉食獣のような素早さで体を起こし、ベッドから抜け出し、部屋から飛び出ていく。


 サーシャはベッドに体を起こし、目を閉じて何かに集中しているように見える。

 目を開くと、真剣な表情になっていた。


「旦那様、ここは戦場となります。羽虫の大群が確認されました。久しぶりの大規模防衛戦となります。このドーリー待機場はシェルターになっておりますので、皆様と避難していてください。わたくしは先頭で戦う義務があります。ミリアとミアとシアは連れて参りますが、ナージャは置いていきます。お困り事があれば連絡をお願い致します」


 何故かサトシの私室の収納から、装備を取り出し身につけ始めるサーシャ。

 足首まで隠れるローブに、白銀の胸当てに籠手と脚絆を素早く着込み、鉢金を巻き、髪をまとめ出て行こうとする。


「サーシャさん、僕も戦います。朱雀型はドーリーから取り外し出来ますから、防壁に設置させてください」


 サトシの提案に、悩ましげな表情となるサーシャ。


「旦那様、羽虫どもは高速で襲いかかってきます。魔力で満たした盾がなければ、火球は防げません。お気持ちは嬉しいのですが」


 その時、ドーリーに警報が響き、エリナの落ち着いた声が流れた。


「皆さん、エンジェル種の大量発生との連絡が入りました。警備責任者からは、このまま待機しているように勧告がありましたが、ミリア様に伺ったところ、サーシャ様は先頭に立つ義務があるとの事です。我々の任務はサーシャ様の護衛です。故に、これより江崎隊は防衛戦の為、北側都市防壁上に移動致します。各員戦闘準備。ユウキさん、出してくださいな」


 おうよ!という、ユウキの声がしたと同時に、滑らかな挙動でドーリーが動き始める。


「エリナ様、、、旦那様、激戦となります。決してドーリー内から出ない事を、わたくしとお約束ください。ドーリーには新しい結界発生装置が組み込まれております。無理はなさらないでください。旦那様方に、郷の防衛の義務などないのですから」


 そんな事はないとサトシは思う。


「サーシャさんの故郷なら、僕の故郷と同じです。良くして貰った人達や友達もいます。守るお手伝いをさせてください」


 サーシャは泣きそうな顔になった後、すぐにいつもの可憐な笑顔を見せてくれた。


「旦那様、よろしくお願い致します」


 腰を落とす優美な礼をして、部屋の前で待っていたミリアと一緒に、狙撃室へ足早に向かって行った。


 サトシも戦闘用補助服の上から、戦闘用装甲を身につけて、ブーツに足を入れてしっかりと固定する。

 念のため、友人になったアルスから、餞別だと貰ったブレスレット型の魔道具を身につける。

 何度か魔力を使った攻撃を防げる、よくある品だと言っていたが、精緻な細工が施されていて、とても高価そうに見える。

 大事にしまっておいたが、エンジェル種は魔力攻撃をしてくるらしいので、装備しておく。




 主砲室に入ると、すでにジュリアとマリーがいた。


「ごめん、遅くなりました」


 ジュリアはいつもの、袖のない戦闘用補助服だけである。


「サトシ、今回は沢山の敵からの防衛戦だから、ボクは吶喊しないからね!主役はエリナと双子とサトシだよ!」


 マリーは真っ白な胸当てを付けて、2丁の巨大な戦斧を肩に担いでいる。


「そやで、サトシさん。エンジェル種は空を飛ぶし速いからなぁ。弾幕張って叩き落としてから、トドメを刺すんやで。ウチとジュリアちゃんがいてるさかいに、安心してぶっ放したらええ」


 胸当て以外、防具を身につけていないマリーは大丈夫なのだろうかと思う。

 サトシの疑問を察したのか、にこりと獰猛に笑うマリー。


「大丈夫やで。ウチの攻撃範囲に入ったら、それで終わりやさかいになぁ。まぁ見とって、久しぶりの実戦やさかいにがんばるで」


 しばらくするとドーリーが停車し、上昇する感覚があった。

 そして、デバイスを外部カメラの映像に切り替えると、ドーリーは60メートルもの高さがある都市防壁の上に到達していた。


 都市防壁上は戦闘が出来るように、様々な工夫がなされており、サトシたちが乗るドーリーが配置された場所は、砲台が集中して設置されている。


「皆さん、江崎隊はこの場所にて射程に入るエンジェル種に対し、弾幕を張ります。ドーリー側面を正面として、間断なく放ち続けます。自動制御の機関砲による牽制は、サキさんにお任せ致します。わたしとミアさんとシアさんが、白虎型機関砲と魔道機関砲にて落とします。下に落ちたのは、ジュリアさん、マリーさんにお任せ致します。サトシさんは、大型個体に備えておいてください。サーシャ様とメイドのおふたりは、ドーリーの屋根にて戦われます。指揮個体はセイラさんにお任せいたします。被害を出さないように全力を尽くしましょう」


 エリナの明瞭な声に、興奮しつつあった気持ちが落ち着いてくる。

 サトシは朱雀型滑空砲に砲弾を装填し、照準を何度も確かめる。

 開いた前方ハッチから、ライトに照らされた濃い森の風景が見える。

 防壁前には女王マリエールが操るという、巨大な石のゴーレムが並んでいた。


「サトシ、行ってくるね!ボクは下にいるからね!」


「ほな、ウチも行ってくるさかい。無茶したらあかんよ」


 ジュリアと戦斧を担いだマリーが主砲室から飛び出ていき、軽やかに防壁上に降り立つ。



 少しの間があり、空を飛ぶ人型の白い群れが恐ろしい速さで近づいてきた。


「間も無く射程に侵入してきます。カウント3、2、1、撃てぇ!」


 エリナのカウントに合わせて、ドーリーに搭載された自動制御の機関砲が唸りを上げ弾丸をばら撒く。

 当たっても落ちはしないものの、エンジェル種の動きが遅くなり、そこにエリナが操る白虎型機関砲の弾丸が命中し爆発する。

 凄まじい悲鳴を上げ、次々と墜落していく羽の生えた3メートル近くある化け物。


 さらに、ミアとシアが魔道機関砲で、爆発する炎の弾丸を毎分400発というスピードで放ち続けている。

 こちらも羽を焼かれてどんどん落ちていく。


 防壁上や地面に落ち、暴れる化け物をゴーレムやエルフたちが次々と仕留めていく。


 圧巻なのはジュリアとマリーだ。

 ジュリアが拳や掌底で空を撃ち抜くだけで、化け物が吹き飛び魔石だけを残して消えていく。

 マリーが残像が見えるスピードで巨大な戦斧を振るうと、凄まじい風切り音と共に、数体がまとめて爆散している。


 エンジェルも凄まじい数の火球を放ってくるが、無数の白銀の盾が高速で飛び回り、全て弾くか防いでいる。

 サーシャが操る盾は、まさに鉄壁だった。


 5メートル近いエンジェル種3体が、弾幕を弾いて接近して来たので、サトシは狙いを付けて撃ち落とそうとした瞬間、バラバラに切り裂かれて堕ちていく。


 サーシャの隣にいたメイド服のままのナージャが、両手に持った長剣を振るうだけで、大きな化け物が次々と切り裂かれて魔石だけが落ちる様は圧巻だった。




 戦闘は2時間近く続き、接近してくるエンジェルも少なくなってきた頃、レーダーに特大の敵性反応が表示された。


「推定脅威度7のアーク級指揮個体!アレは危険です!わたくしとミリアが参ります!」


「サーシャちゃん大丈夫だよ〜わたしに任せて〜」


 緊迫したサーシャの声に、のんびりしたセイラが応えた。


「セイラ様、あのクラスの指揮個体の攻撃射程は3000にもなります。タカシ様の使徒でいらっしゃる、セイラ様の技を疑うわけではありませんが、厳しくはないでしょうか?」


「大丈夫だよ〜4000に来たら撃ち抜くから〜」


 何でもない事のように、セイラは言う。


「分かりました、セイラ様にお任せ致します。3500まで近づいてきた場合、わたくしにお任せください」


「りょ〜かい〜1発撃つ時間だけでいいよ〜」


 そして、ゆっくり近づいてくる巨大な人型にサトシは鳥肌が立つ。

 巨大な砲門が全身から突き出している異形に、恐怖を感じて朱雀型滑空砲を構える。


 そして、その巨大な化け物が4000メートルまで近づいて来た時、ドーリーから1発の轟音が響いた。

 次の瞬間、巨大な人型は悍ましい断末魔をあげて堕ちていく。

 砲門から凄まじい数の熱線と砲弾が放たれるが、射程が離れすぎているせいで、熱線は防壁の遥か手前の森を焼くだけに止まり、砲弾もゴーレム部隊が防いでしまう。

 空中で受肉した体が崩れていき、巨大な魔石が落ちるのが見えた。


「よゆ〜だったね〜信じてくれてありがとう〜サーシャちゃん」


「お見事でしたセイラ様。タカシ様を思い出す、素晴らしい技でした。疑ったことを深くお詫びいたします」


「いいよ〜サーシャちゃんが訓練場所を提供してくれたからだからさ〜ありがとね〜魔石いらないからね〜都市に寄付する〜」


 セイラの狙撃技術にサトシは驚嘆した。あんな距離を撃ち抜けるなんて、本当に信じられないくらいの技だった。


 巨大なエンジェルの指揮個体はセイラが落としたが、周囲にいた5メートルを超える固そうな個体の群れが近づいて来たので、朱雀型滑空砲を連発で叩き込むと大爆発が起こる。

 エリナの白虎型機関砲とは、比較にならない馬鹿げた威力に、次々と消し飛んでいく。


「ヒャッハー!汚ねぇ花火だぜ!」


 ユウキが歓声を上げる中、ジュリアとマリーはドーリーの死角から飛んでくる個体を瞬殺していた。


 そうして、逃げ出して行く個体を狙撃部隊が撃ち落とし、防衛戦は終わりを告げた。

 女王マリエールの緊急事態の終結宣言が都市に出され、異世界温泉郷に大歓声が上がる。


 サトシは朱雀型滑空砲から砲弾を抜き、安全装置をしっかりとかけて、仲間に怪我人が出なかった事に安堵した。

 ただ、他の部隊にかなりの負傷者が出たようで、サーシャとミリアは救護室に向かった。

 やはり、この世界は死の危険と隣り合わせなんだと、改めて思い知る。


 ジュリアとマリーが飛び上がって、前方ハッチから戻ってくる。2人とも信じられない跳躍力だ。


「今回は完勝だったね!マリーのおかげで、後ろを気にしないで戦えたよ!ありがとう!」


「ジュリアちゃんはほんまに強いなぁ。ウチも安心して背中を任せられたで」


 汗でぐっしょりの2人が、楽しそうに抱き合ってキャッキャしている姿に、百合の新たな可能性を見出し、サトシは良いものを見たと深く頷く。


「ジュリアさん、マリーさん、お疲れ様でした。素晴らしい戦いでした。かっこよかったですよ」


 サトシの賞賛に、ドヤ顔になりふんぞりかえるジュリア。


「師匠の強さを思い知った?サトシはエロフ主従じゃなくて、ボクを頼りにするんだよ!」


 マリーは汗を拭い、斧を収納に立てかけてながら、艶然と笑う。


「そやで、サーシャ様もミリア様も高貴なお家の方やからなぁ。身分差はしんどいさかいになぁ。一緒にシャワー浴びへん?体、洗ったげるで?」


 マリーの濃く甘い汗の香りに、蕩然となりながらも、朝食の準備があるからと、なんとか誘いを断って逃げ出す。

 胸当てを外したマリーは、汗で濡れた服が透けていてけしからん事になっていた。

 2人が楽しげに笑う声が可愛いと思う。




 キッチンに向かうと、すでにサキが来ていて野菜を刻んでいた。


「サキさん、お待たせ。操縦室は何ともなかった?」


「うむ、被害すらなかった。今回は危なげなく戦闘を終えられたな。セイラの狙撃凄かっただろ?わたしの恋人だからな!サトシには渡さん!」


 ズビシっ!と菜箸を突きつけられて、そう宣言されるが、とても心外である。

 サトシは咲き誇る花に挟まるような、不粋な趣味はないのだ。


「誰1人手なんか出してないでしょう」


 そう言うが、サキは呆れた顔になる。


「サトシ、いい加減に諦めろ。もう無理だぞ。この郷全部から、完全にロックオンされている。己れの定めを受け入れよ。ハーレムキングとしての運命をな」


 その言葉が正しい事は、サトシにも何となく理解出来ていた。

 それでも、もう少しだけもうちょっとだけ、色々と覚悟を決める時間が欲しかった。


「ハーレムキングではないけど、サーシャさんとジュリアさんの事は、きちんと考えるよ。2人とも大切な人だからね」


 そう言うと、サキは深く頷く。


「うむ、まずはそこからだな。後は、むっつりエリナとメイド2人と双子と女王様なんだろ?がんばれサトシ。お前ならイケる!しっかりフラグ管理はしろよ」

 

 無茶を言うなと思う。そんな甲斐性など、サトシにはないというのに。

 まぁとりあえずは朝ご飯とお昼ご飯の支度である。


 サキが謎のハーレムキングの歌を歌う中、冷蔵庫から材料を取り出して、ジュリアと約束したカツサンドの準備を始める。


 今日からいよいよ新しい任務だ。

 平穏であればいいと思うが、また騒がしい毎日になるような気がする。

 だけど、何だかワクワクもしていた。そう思えるようになって、何だか幸せだとも感じる。


 何とか頑張ろうと、熱した油に衣をつけた肉を投入しながら、サトシはそう決意した。

『剣聖』ナージャ

 エルフ族の歴史上、最強とまで言われている剣士。戦い自体が好きではないが、彼女が剣を振るえば空に浮かぶ月ですら切り裂くとまで言われている。


 サーシャの事が大好きすぎて、たまらない系メイド。 実はサーシャのFCを作ったのもナージャである。もちろん会員番号1番で、2番はメイド長のミリア。

 なお、ママがいちばんサーシャちゃんの事好きなのに!という、マリエールのわがままにより、会員番号エースが作られた。

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