絵崎エリナは、異世界温泉郷にて感情を持て余す
着々と進むハーレム化計画
なお、愚か者本人は知らない模様
いったいどうしてしまったのかと、絵崎エリナは自分の感情が激しく乱れる事に戸惑っていた。
異世界に来る前の訓練施設では、酷く苛立っていた時期はあったが、仲間たちと濃密な時間を過ごし、異世界に来て要塞の副司令であるエルフ族のリリアに導かれ、自信を取り戻したはずだった。
あのアークデーモンが率いるエネミー群の襲撃にも、部隊長として冷静に対応が出来たと思う。
部隊員の大山サトシが命を賭けて、強大なアークデーモンを倒した代償に左腕を失った時は、衝撃でへたり込みそうになったが、治療環境の整ったエルフの郷に向かうという、サーシャの提案のおかげで冷静に判断を下せたはずだ。
辿り着いた自衛軍の友好都市である、エルフ達の温泉郷の治安部隊から聴取を受け、ドーリーの記録を預けてから、宿舎として巨大なコテージに案内された。
部隊員の伊知地エリナが少し思い詰めているようで気になったが、同じく部隊員の青山サキが任せろと視線を寄越したので任せる事にした。
順番にシャワーを浴びる事となり、エリナがシャンプーを終えたあたりで、デバイスの着信音が聞こえてきて、バスローブを引っ掴んで、慌ててリビングまで飛び出る。
サトシとユウキの治療をお願いした、この温泉郷の王女でもある白銀のサーシャからであった。
ギフテッドを酷使し、ドーリーを飛ばしてくれた部隊員の柏原ユウキは、脳内の血管に深刻なダメージを受けていたという。
そちらはエルフの治癒魔術師達により、後遺症すらなく治してもらえたという事で深く安堵した。
サトシも助かり、原理は分からないがわずか数時間で左腕の再生も叶ったと笑顔で話すサーシャに、エリナは深々と頭を下げた。
それはこの魔法という力のある世界でも、尋常では叶わない奇跡だという事は、容易に理解出来たからだ。
同じく部隊員の宇部ジュリアは、サトシに付いていると言うはずなので、病室の隣にある家族用の部屋に案内するとの事だった。
そのジュリアがサトシの負傷に狼狽して、泣きそうになっていた事には驚いた。
ジュリアはいつも明るく楽しげではあるが、親しく話をした中で、生死に関しては達観しているような考えを持っていたはずだ。
竜胆、陸奥、須藤、そして宇部。
退魔を司る4家の内でも『雷神』宇部の麒麟児とまで称された武人であり、死と隣り合わせの日常であったはずだ。
それなのに、わずか半月の付き合いであるサトシの負傷に、ジュリアはまるで幼児のように狼狽していた。
その感情の揺れ動いている様子は、エリナにとって衝撃だった。
サトシに対して弟子だなんだと言っているが、ジュリアの顔は、大切な人を守れずに傷ついている、恋する乙女そのものだった。
少し前に、サーシャがサトシに構い出してから、ジュリアはとても強くサトシにスキンシップを重ねていたが、それはあくまでもサーシャに対する対抗心だと見ていた。
だから、可愛らしく思い何度かアドバイスもしていた。
けれど、ジュリアが本当にサトシが好きなのだと理解出来てしまい、何故かその事に胸の奥が痛むような気がしてしまい、エリナは困惑する。
柔らかなソファに沈み込み、思考の沼に陥りそうになった時、デバイスの着信音が鳴った。
「はい、絵崎エリナです。サーシャ様、どうされましたか?」
相手は、先程連絡をくれたサーシャだった。
「エリナ様!あのお子様は!あのお子様は!本当に度し難いです!逃げ出すなんて!」
顔を真っ赤にして、悔しそうに叫ぶ姿に唖然とした。
詳しく話を聞くと、サトシの治療後に病室の隣にある部屋に案内しようとしたら、ジュリアは卑屈な顔で逃げ出したというのだ。
サーシャは確かにサトシを気に入っていた。
ギフテッド目的の取り込みだっただろうが、それは最初の方だけだったのは、サトシを優しげに見つめる表情でよく分かった。
そして、サーシャがサトシを間に挟んで、ジュリアとやり合うのが、楽しくて楽しくて仕方ないのも、見ていてよく分かっていた。
サーシャから伝言を預かり、暫く待ってメイドが届けてくれた病院に泊まる為の許可証と、少し甘くした紅茶に、温めるだけの冷凍のおにぎりを準備して、ジュリアを探しにエリナは外に出た。
ジュリアはすぐに見つかった。病院の近くにある屋台が密集している広場の端を、俯きながら真っ青な顔でトボトボと歩いている姿にため息が出る。
そんなジュリアをベンチに座らせて、紅茶を飲ませておにぎりを食べさせた。
ご飯を食べて、少しは顔色が良くなったが、相変わらず沈んでいて、話を聞いてもサーシャがサーシャがと、あのお姫さまがどれだけすごいかを話すだけだった。
確かにサーシャはすごい。美しく可愛く、清楚な所作に可憐な笑顔。エルフ特有のしなやかなで目を惹きつけるスタイル。しかも異世界のスーパーアイドルでお姫さま。その上、凄腕かつ歴戦の魔道士である。
だけど、ジュリアだってすごいのだと、エリナは思う。宇部のお姫さまで、信じがたい程に強く、顔は幼なげだが可愛らしい。小柄で細身ながら、最近は腰回りが大きくなってきていて、艶めかしさも感じる時もある。
優しく話を聞いていると、ジュリアはようやくサトシへの恋心を理解したみたいで、ポロポロと涙をこぼし始めた。
涙を拭い、サーシャからの伝言を伝えると、まるで星のような瞳を輝かせて、病院の方へ走っていく。
何かを思い出したかのように、いたずらっ子のような笑顔で振り向いて叫ぶ。
「エリナ!ボクはエリナと一緒でもいいよ!エリナとふたりなら嫌じゃないからね!」
その言葉に、顔が真っ赤になるのが分かった。
エリナは冷静に返そうとするが、上手く言葉が出てこない。いつもどんな時でも、ペラペラとよく動く舌が上手く動かない。
「なっ!?ち、違いますからね!わ、わたしはそんなそんな、、、もう!早くお行きなさい!本当にちがいますからね!」
笑いながら元気よく走り去る、ジュリアの後ろ姿に地団駄を踏んでしまう。
偉そうに恋心がどうとか、ジュリアに語ってしまったが、恋心なんてエリナにも分からない。
幼い頃から男性と触れる機会は制限されていたから、好きになった人なんていなかった。
よくよく考えたら、家族や友人と思っていた子たちからは、男性を嫌悪するように誘導されていたのだと今なら分かる。
サトシが近くにいると安心するし、笑いかけられると嬉しい。
一緒に食卓を囲むと楽しいし、傷つくと辛いと思ってしまう。
訓練で汗をかいている姿を見ると、何故か胸が高鳴るし、大きな体に触れてみたいと思う。
単なる同僚だと、何度自分に言い聞かせても、姿を目で追ってしまう。
そして、最近ではベッドの中で抱きすくめられるのを想像して、枕に顔を埋めてしまう事もある。
ため息をついた後、深く深呼吸をして、心を落ち着け、エリナはゆっくりと宿舎に戻ってから眠った。
温泉郷でエリナは忙しい毎日を過ごしていた。
1週間の特別休暇が出たが、ユウキとサトシのお見舞いに2度行けただけだ。
部隊長として自衛軍への報告や装備の補充申請。
増員される事になった部隊員との顔合わせや交渉に、慰問ライブツアーを行うサーシャの護衛という新たな任務に伴う、雑多な仕事をこなしていた。
「エリナ様、大山サトシ様のお部屋の仕様についてご相談があります」
エルフ側からは新たに6人がエリナの部隊に加わり、同じドーリーに搭乗する。
護衛対象となるサーシャにメイドが2人に護衛の戦士が2人。サトシについていた牛人族の介護士マリーも加わる。
エリナが打ち合わせをしているのは、メイドの1人であるナージャというエルフだ。
背が高く美しい銀髪を持つ、どこかサーシャに似た白皙の美貌だが、柔らか物腰と人を落ちつかせる声をしていた。
「大きなベッドを導入致したいのです。それと部屋の鍵も付けないで頂きたいのです」
現在、江崎隊のドーリーには、居住区の改装と装備の追加が実施されている。
個人の私室は大きくなり、多少の無理は言える状況にはなっている。
「ナージャ様、ベッドはともかくプライバシーを保つ鍵は必要かと思いますが」
「もちろん、サトシ様のプライバシーを無視したいわけではありません。しかし、夜に訪れた際に、不測の事態が発生した場合の対処や『後処理』が出来るようにはしたいのです」
それがどういう意味なのかはエリナにも分かり、顔が赤らんでしまう。
「正直に申し上げますが、姫さまはご経験がありません。サトシ様もないでしょうし、失礼ながらジュリア様やエリナ様もありませんでしょう。わたしやミリアならばお手伝いは出来ます」
自分は関係ないと言うべきだと思ったが、何故か言えず、エリナはナージャの提案を了承してしまった。
ユウキが病院から叩き出され、サトシも無事に退院となる事が決まり、朝からサキとセイラがお祝いの買い出しに出掛けた。
あれだけ落ち込んでいたジュリアだが、サトシが退院して元気いっぱいに戻っていた。
煌めくよう瞳が眩しく、ますます可愛らしくなってきたように思う。
サーシャ達の慰問団の護衛になる事は、うまく伝わっていなかったようだが、お祝いの焼肉パーティは楽しかった。
サーシャがビールを飲んでひと口で酔っ払い、メイド長のミリア、介護士のマリー、エルフ戦士団のミアとシアはかなり出来上がっていた。
ナージャと2人で介抱しているうちに、仲間たちは部屋に戻っていく。
やっと全員を寝かしつけて、エリナがシャワーを浴びた頃には夜半近くになっていた。
髪を乾かして部屋に戻る途中、サトシの部屋のドアが少し開いているのに気づく。
きちんと閉めようと近寄ったはずなのに、気がついたら部屋に入っていた。
サトシはベッドの上で深く大きな呼吸をしていた。筋肉がしっかりついた体が見えて、少し鼓動が速まる。
ずれていた掛け布団を、肩までかけるときに体に触れてしまった。
指先のその感触に、呼吸が乱れて唾を飲み込む。鼓動はさらに速く大きくなってくる。
もう少しもう少しだけ触れていたいと思ったら、大きな音がしてドアが開き固まる。
ジュリアがむにゃむにゃと、何かを呟きながら入ってきて、サトシの右腕に抱きつくようにベッドに潜り込む。どうやら寝ぼけていたようで、すぐに寝息を立て始めた。
2人の呼吸が全く同じタイミングなのに吹き出しながら、エリナはゆっくりと部屋を出た。
シャワーで流した筈の汗が、全身にうっすらと浮いて火照っているような気分だった。
その夜はベッドに入ってもなかなか寝付けず、何度も何度も枕に顔を強く押し当ててしまった。
翌日、ユウキが作ってくれた美味しい朝食を食べてから改装が終わったドーリーに、私物や荷物を運び込む事になった。
翌朝にはサーシャの護衛団として旅立つ為、この温泉郷ともお別れとなる。
ドーリー点検後に、皆で名所の展望レストランに来た。
素晴らしい眺めを堪能しながら、食事を楽しみ、お茶を飲んでいたら、エリナのデバイスにサーシャからの連絡がきた。
この都市の女王から、サトシとジュリアに出頭要請が出たとの知らせだった。
王宮に向かう2人を見送っていたら、サキとセイラからお風呂に誘われた。そういえば、温泉に入ったのは1度きりだったと思い、マリーや双子と一緒に近くの温泉へ向かった。
ユウキは機神に捧げるお菓子を買い込む為、別行動をすると街に消えていった。
「エリナはサトシが好きなのか?」
「サトシはモテるな」
温泉で体を洗ってから湯を堪能していると、双子エルフに挟まれて、とんでもない事を言われる。
「そんな事ないですわ。サトシさんは頼りになる仲間ですけれど」
完璧に冷静に返せたはずだった。
「エリナさん、そないに意地張らんでもええんよ。エリナさんらの世界とちごぅて、こっちやったら正妻の許可があるんなら当たり前の事なんよ」
いつのまにか、後ろに来ていたマリーにそう囁かれる。
「サトシさんに対して、全くそういった感情はありませんわ。優しくて頼りになる仲間ですけれど」
にっこり笑い、今度も完璧に返せたが、若干早口になってしまった気がする。
「エリナ〜言いにくいけど、あのコテージの部屋同士の壁薄いんだよね〜」
「うむ、エリナは声が大きいタイプなんだから気をつけろ」
セイラとサキの言葉に固まる。
「なにをおっしゃっているかわかりませんわ、、、」
声が震えてしまった。そういえば、2人の部屋はエリナの隣だった。
「まあよいまあよい、そのうち素直になれるであろう。1人の時はあれだけ激しく絶叫していたくらいだからな」
「すごかったね〜昨夜は〜」
ねー!と頷きあう、セイラとサキの言葉に言い訳すら出来なくなった。
私たちにまかせろ!と、鼻息荒くなる双子エルフと、後ろから優しく抱きしめてくるマリー。
よく分からない感情に少し涙目になりながらも、エリナは沸騰しそうな頭で、やっとサトシへの恋心を認めた。
この後、王宮から戻ってきて、双子から話を聞いたというジュリアが、嬉しそうにエリナに抱きついてきた。
何故か、サトシは酷くボロボロになってベッドに寝かされていた。
どうなるか分からないけれど、少しは素直になってみようかと、うなされているサトシの顔を撫ぜながら、江崎隊の温泉郷最後の夜は更けていった。
「せやかてエリナさん、女手は沢山あった方が、赤ん坊できたときに安心なんよ。みんなで育てたら、負担も減るんやから」
「ですが、そんな沢山の方と共有するなんて、、、」
「安心しろエリナ、温泉郷では普通」
「なにせ男が少ないからな」
「で、ですが、、、」
「大丈夫だよエリナ!ボクはエリナが一緒だと嬉しい!一緒にエロフ主従を倒そう!」
「ジュリアさん、倒してはいけませんわ」




