異世界温泉郷にて、エルフの女王に弄ばれる愚か者
ママがいちばんすごくておっきい
何でこんな事になってしまったのかと、大山サトシは身を縮こまらせていた。
自衛軍の友好都市であり、エルフの温泉郷にて体を癒してもらい、明日には再び、新たな任務で旅立つ予定だった。
しかし、サトシは左腕を癒してくれたサーシャの母親だという、この郷の女王から出頭要請を受け、その私室に招かれてお茶を振る舞われていた。
左隣には今まで見たこともない無表情でサーシャが座っており、右隣では同僚で師匠の宇部ジュリアが美味しそうにお菓子を頬張っている。
そして、目の前にはどう見てもサーシャの姉にしか見えない、背の高い美しい女性がにこやかに微笑んでいた。
「ようこそいらっしゃいました。大山サトシ様、宇部ジュリア様。お招きに応えてくださり、心より感謝いたします。この郷を統べております、マリエールと申します」
サーシャそっくりの顔だが、とてつもなく艶かしい仕草と雰囲気の女性だ。潤んだような大きな右目の下にある、小さな2つの泣き黒子がすごく蠱惑的だった。
思わず見惚れていると、にっこりと優しく微笑んで見つめてくるものだから、だらしなく頬が緩む。なにせすごく大きいし。
「旦那様、わたくし、少しだけ不愉快です」
いつも可憐な笑顔のサーシャが、まるで人形のように表情を消して見つめてくる。その迫力に体の一部がヒュンとなる。
「サトシ、ダメだよ。ボクも師匠として厳しく躾けたくなってきているよ。そう師匠としてね」
いつもは星が煌めくような瞳を、ドス黒く濁らせたジュリアに、ダラシなく緩んでいた表情を引き締めた。
「あらあら、ふたりともそのように殿方を威嚇してはいけませんよ。殿方は優しくあやしてさしあげるものですからね。ね?サトシ様」
マリエールママの言う通りだと、思わず頷きそうになるが、両隣から殺気が迸り、何とか堪えた。
そんなサトシの様子に、楽しげに笑うマリエール。笑い方まで蠱惑的である。なにせ笑うだけで大きいのがゆっさゆっさしているし。
両隣からのプレッシャーがさらに強烈になり、まるで戦場にいるかのようだった。
本当にどうしてこんな事になったのかと、サトシはため息を吐きそうになったが、何とか堪える事ができた。
お昼ご飯までは楽しかったのになと、今朝からの事を思い出し、現実逃避を試みた。
前日の朝、ジュリアとサーシャのメイドのミリア、牛人族の介護士のマリーに手酷く可愛がりをされてしまい、気絶したサトシだが、翌日にはすっかり元気になっていた。
今朝はマリーが稽古をつけてくれるというので、少し怖いなと思いながら、戦闘用補助服に着替えてから、宿舎であるコテージの中庭に向かった。
「大丈夫やで!もうちょいいける!がんばれ!がんばれ!サトシさん!もうちょいつよぉ突いて!」
マリーの優しくも明るい声を聞きながら、サトシは全身の力を振り絞って突き続ける。
手四つに組んで必死に突き押しているのだが、マリーはびくともしない。ものすごい力である。
すでに、組んでから1時間以上、押したり突いたりしているが、ニコニコ笑いもうちょいもうちょいと、力を振り絞るように促してくる。
「最後や!サトシさん!最後まで出し切るんよ!1滴残らず全部出し切るんや!がんばれ!がんばれ!」
それから20分近く力を振り絞り、全身の痛みと疲れで意識が朦朧としてきた頃に、マリーはようやく終わりを告げてくれた。
「よう頑張ったなぁ。昨日より激しなったし、すごい良かったで!サトシさんは頑張り屋さんやなぁええ子ええ子」
汗まみれでへたり込むサトシの頭を、優しく撫でて、小さな子供に対するように汗を拭いて褒めてくれる。
大の大人がそんな事をされて嬉しいのかと問われれば、すごく嬉しいという他ない。なにせこんな綺麗な人に優しくされるのは嬉しいに決まっている。
「ほな、ウチも軽く体動かすから、ちょう待っててなぁ」
ゆっくりと水を飲むサトシに、汗ひとつかいていないマリーは、巨大な戦斧を両手に1丁ずつ持ちあげながらそう言った。
見た目は細い牛人族の介護士は、2丁の巨大な戦斧を凄まじいスピードで振り回し始める。流麗な足捌きで移動しながら、何か巨大な生き物を想定しているかのように、戦斧を叩き混んでいるのが分かった。
だんだんとスピードがあがり、少し離れた場所にいるサトシにも風切り音と風圧が届く。
斧の残像が見えるほどになり、さらに凄まじい風圧が体に届く。少し怖くなったきた時に、ピタリと止めて、マリーはにこやかに笑う。
「今日はこれくらいしとこ。軽く汗もかいたしなぁ」
マリーのミルクを溶かしたような肌が蒸気して、ピンク色に染まり、汗が薄く滲んでいる。
「朝から汗かくんは気持ちええなぁスッキリするわ」
そう笑うマリーに、この人は戦いの場に身を置く人なんだなと理解できた。
「ほなシャワー行こか?体洗ったげようか?」
はちみつ色の髪をまとめながら、艶然と笑うマリーに顔が真っ赤になる。
「だ、だいじょうぶですほんとだいじょうぶ先にシャワーを使ってください」
たまにものすごく、何というかものすごくドキドキする表情をするマリーに、体の一部がホットになってしまいそうになる。
「サトシさんは胸だけやのうて、腋も好きなんやなぁ。そないにジッと見られたら恥ずかしいんよ」
斧を壁に立てかけ、タオルで汗を拭き終わったマリーが、すぐ近くまで来て耳元で囁く。
「上手におねだりできたら、いつでも見せたるで?」
そう言い残して、ゆっくりとコテージの中に入って行った。筋肉が浮いた背中と、括れた腰から突き出た、丸く大きなお尻に見惚れる。
体の一部がおはようございますしてしまい、サトシは治るまでしばらく動けなかった。
シャワーを浴びて着替えていたら、飯だぞーというユウキの声が聞こえてきた。
朝と昼の食事当番はサキとサトシだが、休暇中は作らなくていいと、仲間たちが言ってくれ、今朝はユウキが作ってくれることになっていた。
キッチンと繋がっているリビングに向かうと、テーブルの上に様々な料理が並んでいる。
真ん中に巨大なスパニッシュオムレツが鎮座し、山盛りのフライドポテトが添えられている。
大鍋のトマトソースで煮込まれた鶏肉からは、食欲をそそる香りが暴力的に漂う。
ベーコンと葉野菜、玉ねぎを使ったサラダやポタージュスープまであり、湯気を上げるソーセージは見るからに美味しそうだ。
「ユウキ、すごいね。まるでお店みたいな料理だよ」
ユウキの作ってくれた朝食は、取り分けやすくかつ美しく盛り付けされており、色味も食欲をそそるものだった。
素人が趣味で作れるレベルではない。
「よせやい!いいじゃねえか、冷めないうちに食おうぜ!」
褒めると照れるのが面白い。
食卓には仲間の6人と、マリーに加えてエルフの双子がついている。
サーシャとメイド2人は、慰問ライブツアーの為の打ち合わせが忙しいそうで来ていない。
「すご〜い、ユウキの作るお料理プロの味だよ〜」
舌の肥えたセイラが嬉しそうに、目を細めてスパニッシュオムレツを味わっている。
「うむ、美味い美味い、これはたまらん」
サキはハムスターみたく、パンパンに口に詰め込んで、一生懸命咀嚼してから飲み込んでいく。
「これすき!ボクこれすき!」
あまりの美味しさに、語彙力が乏しくなったジュリアが爆食している。
「こんなにお料理が上手なんて、すごいですわねユウキさん。立花ミユキ様はお幸せな方ですわ」
エリナは上品にスープを飲み、にこやかにユウキに話しかけている。
「やめてやめて、ミユキちゃんの事は、しばらく忘れておきたいからやめておくれよ」
あの職安にいた立花ミユキさんは、いつの間にかユウキの婚約者になっていたらしい。
あんな美女に短い時間で結婚まで決意させるなんて、ユウキはすごいなと、親友を誇らしく思う。
「へぇユウキさんお料理上手なんやねぇ。見直したわ」
ユウキに手厳しいマリーも、認めざる得ない美味しさみたいである。
「なかなかやるな、よしユウキを酒のアテ係に任命する」
「うん、流石はミア、お酒マスター。ユウキの作るアテだとお酒が進みそう」
エルフの戦士団からきた双子のシアとミアは、感心したようにモリモリと食べている。
「おう!双子ども!しっかり食え!マリーお姉さまに喜んでいただけて光栄です」
ユウキはマリーに何かをして、何かされたみたいで、相変わらず舎弟ムーブをしている。
本当に何をされたんだろうと思うが、知らない方がいいとサトシの本能が囁くような気がするので、知らないフリをしておく。
朝食後にまったりとお茶やコーヒーを楽しんでいたら、エリナが本日の予定を告げてくる。
「皆さん、休暇も本日までです。明日からはサーシャ様の慰問ツアーに、護衛団の一員として、我々江崎隊は参加する事になりました。期間は約70日となります。搭乗員が増えますので、ドーリーも改装しております。今から、ドーリーに荷物を運び込み、チェックしに行きましょう」
本来、民間志願警備員用のドーリーは6人運用だが、改装することにより15人分まで居住区を増やせるようにできているらしい。
サトシ達6人に加えて、サーシャ、メイドのミリアとナージャ、戦士団からシアとミア、介護士のマリーの6人が増える。
「おお?ポチ!しばらく見ねぇうちに立派になりやがって!デカくしてもらったな!」
宿舎から少しだけ歩いた場所にある、広大なドーリー待機場で、ユウキが嬉しそうに声を弾ませた。
何故ポチなのか分からないが、ユウキの拘りの名付けらしい。
「なんでポチなのさ!タマのが可愛いよ!タマにしようよ!」
ジュリアがそう主張するが、このふたりネーミングセンス少しお粗末だなと、サトシは思う。
ミッターマイヤーとかヴォルフガングとかすえぞうとか、カッコいい名前は沢山あるのに。
「かぁ〜分かってねえなジュリア!こいつはポチだ!俺にはわかんだよ!な?ポチ!」
うっとりとドーリーを見つめて、怪しい手つきで装甲を撫でるユウキは、友達だけれども、少し気持ち悪いなとも思う。
ドーリーは外見から激変していた。
高さは変わらず3層だが、全体の装甲が分厚くなり全長もかなり大きくなっている。
左右にある副砲が6門から8門に増えていて、前方と後方にも2門ずつ大口径機関砲が追加されていた。
まず、ドーリー内の自室に私物を運び込む事になったが、サトシは部屋に入り困惑していた。
部屋自体が広くなっていたのはともかく、ベッドが大きい。
以前のベッドは縦幅2メートルくらいだったが、新しいものは3メートル近くあり、横幅も2メートルを超えていて、かなり広くキングサイズを超えていた。
「なんでこんなおっきいの、、、」
「うむ、ハーレムキング仕様だな。よく分かっておる」
ひょっこりと覗き込んできた、サキの言葉にビクッとなる。
「へ〜おっきいね〜わたしとサキのお部屋のベッドよりおっきい〜」
サキの後ろからひょっこりしてきた、セイラがおかしな事を言い出した。自室は全て1人部屋のはずだ。
「どうされましたの?おふたりとも荷物の運び込みは終わりましたの?」
エリナが覗き込んで来たので聞いてみる。
「エリナさん、2人が同じ部屋だって言ってるんだけど、、、その、大丈夫なの?」
「そうですわね、、、良いとは言えませんが駄目と規定があるわけでもありませんし、、、整備部へ申請した結果、こういう仕様になったわけですから。部隊員増員に伴い、居住空間の有効利用の為となっています。シアさんとミアさんのおふたりも、同じお部屋ですしね」
そういう理由をつけてゴリ押したらしい。流石はエリナである。
「じゃあ、僕のベッドが大きいのはどうしてなの?」
そう聞くと、エリナは顔を真っ赤にしてしまう。
「し、知りませんわ!わたしは知りません!」
知らないなら仕方ないなと思う。どう見ても、知っているようにしか見えないけれど。
トコトコとジュリアが部屋に入ってきた。ふむふむと見回し、ブーツを脱いでから、ベッドに上がりゴロゴロと転がり始める。
「ジュリアさん、どうしたの?何をしているの?」
枕に抱きついて、ぐりぐりと顔と頭を擦り付けている。なんだか猫っぽい。
「寝心地を確かめてる!どうせサーシャが来るから!ボクが守りに来てあげるね!なにせ師匠だし!」
ニパッと星が煌めくような瞳を輝かせながら、ドヤ顔になるジュリアは可愛い。可愛いけれど。
「駄目だよジュリアさん。夜はちゃんと鍵をかけるから大丈夫だよ。鍵を、、、あれ?鍵ないよ?ロックどこにあるの?あれ?」
付いてあるはずはずのロックが何処にもない。
エリナを見ると、首筋まで真っ赤にしている。
「知りません!わたしは何も知りませんわ!」
知っているらしいが、追求したら駄目なんだろうなと思う。まあ、これだけ広ければ、ジュリアとサーシャが来ても、端に寝られるでしょうと無理矢理納得する。なにせ2人とも小柄だし。
病院のベッドで眠るときに、毎日のように2人に抱きつかれていたから、緊張しないで眠れるようになっていた。慣れってすごいと思う。
起きると体の一部がすごい事になってしまって、2人を起こさないように、お手洗いに行く技術も磨かれて、今や達人レベルである。
そういえば、ユウキはどうしたんだろうと思ったら、操縦室で何かを話していた。機神様と会話しているらしいので、そっとしておいた。なにせ神さまだし、邪魔をしたら申し訳ない。
操縦室からは窓が無くなり、分厚い装甲が追加されている。外はモニター越しに見れるようになっていて、これなら以前より安全だなと、少しだけ安心する。
ドーリー内のサトシのポジションである、主砲室に移動したら、マリーが先に来ていた。
「サトシさん、ジュリアちゃん。ウチはここにおる事になったらしいから、よろしゅうなぁ」
ふんわりと笑いながら、巨大な戦斧を壁際の収納に立てかけていた。ジュリアは嬉しそうにマリーに抱きついて、雄大なる神秘に顔を埋めてぐりぐりしている。なんて羨ましい。
アークデーモン戦で使い果たし、補充された砲弾を確認する。以前より3倍もの数が補充されていた。
これで近寄らせないように、決着をつけられるといいんだけどと思う。
ドーリー内を細かく見て、変更されたり追加された場所を点検してから、昼食を食べに出かけた。
この都市の名所だという、巨大な木の中にある、展望レストランに全員で訪れた。
何処までも続く深い森を見下ろしながら、名物らしい鳥の唐揚げを食べる。何故かエルフは唐揚げが好きらしく、何処の都市でも鳥の唐揚げが名物らしい。
実際、恐ろしく美味しかったからいいけど、何か納得いかない気もする。エルフ=菜食主義者というイメージが何故かあるからだ。
「草なんか付け合わせだよ」
「そうエルフは、鳥の唐揚げがあれば生きていける」
双子エルフは、モリモリと唐揚げを食べながら断言する。
食事と景色を楽しみ、食後のお茶とデザートでまったりしていると、エリナのデバイスが鳴った。
内容を確かめていた部隊長の顔が強張る。
「サトシさん、ジュリアさん。おふたりに出頭要請が出たそうです。サーシャ様のお母様である、この都市の女王様からとの事です。要請となっていますが、これは断れません。速やかに王宮まで行ってくださいまし」
そして、王宮の入り口で待っていたサーシャのメイド長のミリアに案内され、女王様の私室という部屋までやってきて、人形のように無表情なサーシャとお菓子をわんぱくするジュリアに、激しく無言で威圧されていた。
「それで、サトシ様の左腕の件なのですが。触媒に使われた世界樹の枝についてです。はっきりと申し上げますが、我々の郷の国宝ともいうべき存在だったのです。それをサーシャが無断で使用した事を、家臣達の中には納得しない者がおります」
女王マリエールは頬に手を当て、困りましたわと、悩ましげに息を吐く。すごく煽情的でドキドキする。
「お母様、わたくしは、この郷の世界樹の枝を使っておりません。何度も申し上げたはずです」
人形のように無表情のサーシャが、言葉だけ苛立たしげに言った。
「サーシャ、、、サトシ様の左腕は、どう見ても世界樹の力とあなたの濃密な魔力が込められています。そのような、幼児のような言い訳など通じませんよ。サトシ様、貴方に弁償をしろなどとは申しません。国宝ではありますが、サーシャ個人に譲られたものですから。しかしながら、他種族の者に見返りなく使用された事に、納得出来ない者がいる事もご理解いただきたいのです」
マリエールの言葉に、サトシもそれはそうだろうなと思う。
「そこでご提案なのです。サトシ様は素晴らしいギフテッドをお持ちと聞いております。その力を少しだけ、この郷にお恵み頂けませんでしょうか?この郷は少しずつ人が戻っておりますが、エルフの人口は最盛期の1割程度しかおりません。お好みの者を用意致します。なんならわたくしでも構いませんよ?殿方はお好きでしょう?親子同時でも」
ガンッ!とテーブルの上に、何かが叩きつけられる音が響く。サーシャが木の枝のような物を、テーブルの上に叩きつけた音だった。
潤んだような煽情的な目だった、マリエール視線が鋭くなる。
「、、、世界樹の枝?しかもそれは、、、わたくしがサーシャの守り杖として渡した物に間違いない。どういう事です?サトシ様の左腕に使用したはずでは?」
無表情のままだが、憤怒しているのが分かるサーシャが冷えた声を放った。
「旦那様は脅威度8のアークデーモンが召喚した餓鬼玉を消し飛ばし、受肉した肉体も消し飛ばしました。それはお母様も確認されているはずです。お母様とわたくしの魔力程度が込められた世界樹の枝では、再生は叶いませんでした。ですから、わたくしがエレクトラ様から、実験のお手伝いをした際、ご褒美に頂いた世界樹の枝を使ったのです」
その言葉にマリエールは目を見開き、静かに控えていたメイド達が驚愕の悲鳴をあげる。
「サーシャ、あなたは、、、あなたは自分が何をしたか理解しているのか?エレクトラ様が、エルフのいえ人類の守護神とされていた、あの方から下賜された世界樹の枝を、、、人類の至宝ともいうべき物を使ったというのか?」
マリエールは先程までとは違う、覇気と威厳に満ちた言葉で娘を問い詰める。
「エレクトラ様は、ご褒美を下さった際に、こうおっしゃいました。いいかサーシャ。それは単なる木の枝だ。少しばかり力があり、わたしの魔力が込められている単なる道具だ。おまえが使いたいときに、好きに使えばいい。至宝だの国宝だの抜かして騒ぐ奴はいるだろが、そいつにはこう言ってやれ」
そこで言葉を切り、懐かしむように言った。
「こいつは、大魔道士エレクトラ様が背中を掻くために使っていただけの、単なる孫の手だ!子供のように得意げな顔で、そう仰っていました。わたくしは、旦那様の腕を再生させるのに使った事を、一切後悔しておりませんし、誇りに思っております。エレクトラ様がお聞きになったら、ご機嫌に笑い褒めてくださるでしょう。サーシャ、人形だったおまえが、その選択を出来たなら上出来だと。ですから」
人形のように無表情だったサーシャが、凄絶な笑みを浮かべ、母を睨みつける。
「旦那様のお気持ちを無視されて、行動を強要するようなことは、たとえお母様といえど、わたくしが許しません。たとえ郷の全てを敵に回したとしても、エレクトラ様から頂戴した、この白銀の2つ名にかけて旦那様をお守り致します」
その言葉に、メイド達と護衛が戦闘体制に入るのを、マリエールが制した。
「おまえが命を賭け守ってきた、この郷を捨てる覚悟がある。そういう事か?」
「はい、旦那様は人類の未来を創られる方です。わたくし個人の、大切な物だけに固執するつもりはありません」
親子の間で凄まじい緊張感が凝縮し、破裂する寸前にマリエールが折れた。
「サトシ様、ジュリア様。わたくしの愚かな勘違いで、お招きしたおふたりを、不快な気分にさせて申し訳ありません」
深々と頭を下げるマリエールに、陛下!とメイドと護衛が悲鳴を上げる。
「ボクは気にしてないよ!マリエールがサーシャの事を大切に思っていて、すごく心配しているのが分かるから!」
お菓子を美味しそうに食べ、お茶を楽しんでいたジュリアが星が煌めくような瞳を、優しく細めてそう言った。
「僕も気にしていません。左腕を再生させて下さった事を、心から感謝しています。本当にありがとうサーシャさん」
感謝を込めてサーシャを見つめると、背けた顔を真っ赤にして、耳をくたりと垂れさせた後、ぴこぴこと弾ませていた可愛い。
その姿を見たマリエールは呆気にとられ、楽しげに笑い出した。
「わたくしの杞憂だったようです。サトシ様、ジュリア様。そして、おふたりのお仲間の武運と無事を、心からお祈りしております。サーシャの事をよろしくお願い致します」
女王がゆっくりと立ち上がり、気品ある優雅な礼をして立ち去って行くのを、サトシは立ち上がり見送る。
そして、近くを通る寸前に、腕にサーシャを超える巨大な神秘が押し付けられた。
「わたくしの寝室に、いつでも通れるように命じておきます。お好きなときに訪れてくださいね。小娘では味わえない時間を提供できますから。今夜にでも、、、ね?」
その余りにも煽情的な声に、体の一部がこんにちはしてしまう。
それを見たマリエールは、にんまりと蕩けそうな笑顔になる。
お母様!と怒声を上げ追いかけるサーシャを、楽しげにあやしながら、女王は部屋から消えていった。
ジュリアからの突き刺すような視線が怖い。しばらくすると、サーシャが戻ってきた。
「旦那様!いけませんからね!お母様だけは許しませんからね!」
プンスカと怒り狂っているサーシャの表情は、先程の人形のような無表情より可愛いと思う。
「きちんと聞いていますか!?旦那様!わたくし、寛大な方ですが、お母様とだけは許しませんからね!」
エレクトラがどういう人なのか、サトシには分からない。分からないがあんな風に、愛おしそうに懐かしむような顔をするくらい、大切な人からもらった、サーシャの宝物を使ってくれた事を、改めて思い知った。
「サーシャさん、僕はマリエールさんよりサーシャさんが可愛いと思うし、大切な人です。だから安心してください」
そう言ったら、サーシャは絶句した後、耳をピーン!と立てて顔を真っ赤にし、涙目になりながら、困りますわ!と叫び、走り去って行った。
どうしたんだろと思っていたら、ため息が聞こえた。
「ダンナ様よぉ、、、郷のもっとも高貴な女の名前出して、その人より大切だって言うのは、ウチらエルフの間じゃプロポーズになんだぞ、、、そのツラじゃあ知らなかったんだろうけど、ちゃんと責任取れや。こんだけのメイドが聞いてたんだ。逃げらんねえぞダンナ様」
金髪のメイド長とメイド達が睨みつけてくる。
うちの姫さまに酷いことをしたら、絶対に許さないと睨みつけてくる。
隣にいたジュリアが無表情になっている。
「サトシ、いや弟子よ。デリカシーないのはイケナイって何度も言ったよね?師匠として何度も言ったよね?ちょっとお稽古しようか?少し厳しく安心して少しだけほんの少しだけだから」
物凄い力で引きずられながら、どうしてこうなったんだろうと、サトシは異世界のエルフの王宮で、深く深くため息をついた。
「お母様!お戯れがすぎます!」
「でもぉママもちょっとキュンキュンしちゃったし、、、なんだか甘やかしてあげたくなる魂だったし、、、」
「いけませんからね!許しませんからね!」
「うふふ、、、あんなに大きくして、可愛かったなぁ」
「お母様!」




