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青山サキはエルフ温泉郷を巡り、エルフ饅頭を喰らう

書いても書いても終わらない現象の名前を僕たちはまだ知らない

 こいつはなかなかのブツだと、エルフの都市のとある店で青山サキは唸る。


 サキの家は貧しかった。物心がついた時には父はおらず、母は懸命に働いてくれてはいたが、自分を含めて3人の娘を育てるには、かなり厳しい収入しかなかった。

 それでも、政府配給の食糧があったから、忙しい母の代わりに、サキは幼少の頃より家事を担い、台所に立ち続けて、母と妹たちの胃袋を見たし続けた自信はある。

 それが、今現在でも役立っているのがありがたい。


 母の病気と貧困という、やむにやまれぬ事情があり、サキはわずか16歳にして、怪物が跋扈する異世界にて働く事となった。

 訓練期間は厳しかったが、生来、頑強な体であったサキは、息も絶え絶えではあったがなんとかこなした。


 そして、たった2週間の訓練を終えて、同じ部隊の仲間たちと異世界までやってきた訳だが、初日から色々とあり過ぎた。


 まず、同僚の伊知地セイラと共に、エルフ達に拐われ、4人の仲間たちに助けてもらい、なんやかんやでセイラと一緒のベッドで眠る仲になった。


 そして、翌々日からは、物資運搬任務が始まり、同僚の大山サトシと、朝昼のおさんどん係になる。

 配給される極上かつ大量の食糧を使い、幼い頃から培った調理技術を存分に発揮して、腹ペコどもを満足させた。

 

 その物資運搬任務中、強力なデーモン群に襲われて、サトシが左手を失った。


 襲ってきた中でも、一際巨大なアークデーモンと称される個体は、部隊の主力である宇部ジュリアが撃破し、巨大な魔石を抱えて戻ってきた。

 もう1体のアークデーモンはサトシが撃破したが、その代償は大きく、重症のサトシを救うため、同乗していたエルフのサーシャは、自分の出身都市へ向かうべきだと主張した。


 引き返せば、すぐ近くに自衛軍の第6陣があるのだから、そちらにすべきだと思ったが、異世界にきてからたびたび、頭の中に閃く直感が、サーシャに従えと囁いてきた。

 部隊長の絵崎エリナがエルフの都市に向かうと決断し、サキの隣の操縦席にて、ドーリーのハンドルを握る柏原ユウキが、抜きん出た運転技術で皆を運んでくれた。


 ユウキの運転技術は神がかっていた。

 サキが得たような謎能力が、ユウキにも宿っていたらしく本当に神の力を借りていたらしい。

 普通のドーリーは平均時速70キロ前後しか出ないし、整備をきちんとして、的確に操縦しなければ恐ろしく揺れると、座学で習っていた。


 ところが、ユウキが操るドーリーは揺れない。

 小さな窓から見える動いている景色と、計器がなければ静止しているかのように静かだ。

 そして、出るはずのない速度を出して、それを維持しつつ、サキのナビゲート通りに巨大なドーリーを操り、わずか1時間40分で420キロを駆け抜けた。


 ユウキもかなりの負担だったらしく、目は真っ赤に血走り、鼻血を出して、顔色は真っ青だった。

 それでも、軽口を叩いて巨大な木の城壁に囲まれた、このエルフの都市に皆を運び、指定された位置に寸分の狂いもなく、ドーリーを停めてみせた。


 サトシを頼むと言い残し、気を失ったユウキを、サキが開いた、操縦室の非常ハッチから飛び込んできた長身のエルフが、風の魔法らしきもので包み込んだ。


「治癒術師のマリエッタです。サーシャ姫さまより、柏原ユウキ様の治療を申しつかりました、、、この方は何をされたんです!?脳内の血管が破裂寸前になっています!なんてこと」


 ユウキがキシンなる存在に、語りかけて力を得ていたようだと伝えると、治癒術師と名乗ったエルフは驚愕する。


「キシン?まさか、、、機神!?儀式もせずに神降しをしたの!?信じられない、、、特級治癒術師のマリエッタです。集中治療室に運ぶ前に、神気を抜く必要があります!治療を平行して行うので、待機人員はわたしの研究室にきなさい!」


 マリエッタはサキの言葉を聞き、何処かに連絡をすると、ユウキを抱えるようにドーリーから飛び出して行った。

 サトシを抱き抱えたジュリアが、サーシャに導かれて飛び出て行ったのも確認した。

 2人とももう大丈夫と、また頭の中で何かが囁いた。


「サキ!怪我はないか!?」


 いつもはのんびりとしている、恋人のセイラが操縦室に飛び込んできた。サキの体に怪我や痛いところはないか、丁寧に確かめ始める。


「うむ、サトシとユウキが守ってくれた。傷ひとつないぞセイラ。セイラも大丈夫か?」


 サキの言葉に安心したように、強く抱きしめてくる。強い強い力が強い。


「平気だよ〜ごめんね〜あんな化け物を近づけちゃってさ〜近付けさせないのがわたしの仕事なのに〜」


 サキの首筋に顔を埋め、セイラはくんかくんかし出した。


「こらこら、舐めるな嗅ぐな、汗かいているから恥ずかしいだろ。お風呂の後にしろ」


 サキの匂い好きと呟き、セイラの顔が近付いてくる。顔面天才だなと、サキは見惚れて唇を


「サキさん、セイラさん。サトシさんとユウキさんは治療に入ったそうです。私たちは事情聴取がありま、、、おふたりは何をされていますの?」


 ドーリー後部にいるエリナが、デバイス越しにサキとセイラを半目で見ていた。


「あぁん、、、エリナごめんね、目の毒だったね〜」

「うむ、すまぬなエリナ。独り身には辛かろう許せ」


 ため息を吐いた部隊長に一喝され、仕方なくサキは愛しいセイラから体を離した。



 ユウキはわずか2日で退院してきた。

 退院というより、看護師や介護士の女性をナンパして、叩き出されたという方が正しい。

 サキは見直していたユウキの評価を、バカからすごくバカに落とした。


 サキが意識を取り戻したサトシの見舞いに行くと、何故か廊下でジュリアとサーシャが正座をして、看護師に叱られていた。何をやっているんだこいつらはと思う。

 サトシは小柄で可愛らしい牛人族の介護士にお世話をされて、デレデレとしていたので、見直していた評価を、ハーレム野郎からハーレムキングに下げておいた。


 その次の日にはリハビリを開始したと聞いて、流石に無理ではないかと思ったが、様子を見に行くと、何故か介護士とジュリアとサーシャと金髪メイドの4人がかりで、体を拭かれていて、大丈夫そうだと安心した。ハーレムキングがまたメンバーを増やしていた。

 サトシは恐るべき男だ。サキはセイラを取られないように、最大限の警戒しないといけないと改めて思う。



「セイラ、ジュリア、エリナ。この都市には温泉があるらしいぞ」


 サキ達の部隊には1週間の特別休暇が出た。

 サトシは左腕を失っていたが、民間志願警備員が負傷により与えられる休暇は、最大限でそれしか出ないらしい。分かってはいたが、やはりブラックですら生ぬるい、ドス黒い仕事である。

 エリナによれば、ちょうど週末の休暇にはさまるようになっていて、合計11日間となっているだけ配慮されていてマシだという。


 ユウキは性懲りも無く怪しい場所に行き、見事に撃沈して落ち込みながら、サーシャが用意してくれた宿舎に帰ってきた。

 次の日には元気になり、サトシのお見舞いに行って、看護師や介護士をナンパして叩き出され、菓子屋に通い詰めている。

 

 ユウキが言っていたキシンとは、機神という神様らしい。

 神が観測されているこの世界で、確認されている中では最も新しい神であり、コンタクトを果たしたのはユウキが初めてだという事だ。

 その機神とやらは、お菓子が好きらしく、ユウキはせっせと貢いでいるようだ。実際の女性とは致せないから、頭の中に降臨する神様に貢ぐとは、業が深い男だとサキは思う。


 バカのことはともかく、温泉である。

 サトシの介護を担当しているマリーによれば、このエルフの都市には天然温泉が至る所から湧き出しているらしい。

 そして、フリーパスを買えば、どの入浴施設でも入り放題という夢のような制度があると聞いて、自称お風呂マイスターのサキの心は荒ぶった。


 サキはお風呂が大好きだ。

 母と双子の妹と住んでいた、低所得者向けの市営住宅のお風呂は、残念ながら狭かったが、お湯を無駄にしないよういつも4人で芋洗いの如く、楽しく入っていた。

 母が仕事場の福利厚生として、毎月スーパー銭湯の無料券を貰ってきてくれるのが楽しみで仕方なかった。

 母の休日に、4人で広いお風呂を堪能するのが、サキにとって幸せの象徴である。

 異世界の未知のお風呂に、しかも天然温泉に入り放題と聞いては、もはや辛抱ならぬと、サキは同じ部隊の女性陣を誘い、エルフ温泉郷巡りを始めた。


 この自衛軍の友好都市に住むエルフは2万人程度しかいないが、異世界では有名な温泉郷らしい。

 湯治客や観光により賑わっており、それを目当てに集まった関連事業の労働者を含めれば、人口は10万人を超えていると、フリーパスを購入した案内所の職員が教えてくれた。

 宿を併設している、大規模入浴施設だけで12ヶ所もあり、中小規模なものは50ヶ所以上あるそうだ。

 これには自称お風呂伝道師である、サキのテンションは有頂天になった。


 まずは、宿舎でレンタルの浴衣そっくりの服に着替えて、近くの大規模入浴施設のひとつにやってきた。


「ほう?なかなかよい店構えではないか。よし、まずはここから攻略しよう」


 日本の温泉宿にそっくりな『長耳湯』に、フリーパスを示して入ると、そこは桃源郷であった。

 マッサージ機や椅子が並ぶ広い休憩室に、使いやすい大きなロッカーと、広めのパウダールームがある脱衣場。

 食事処はフードコート方式で、様々な店が出店されている。座敷があるのも、自称お風呂ソムリエのサキ的に高ポイントだ。

 さらに、湯は7種類もありサウナも2種類もある。


「ぬぅ、このトロミのある湯はたまらぬ。セイラの美しい肌がますます美しくなってしまうな」

「もう〜だめだよぉ〜サキ〜エリナがみてる〜」


 隣に腰を下ろしている、セイラの乳白色の肌は吸い付くようだ。


「はぁ全く、、、あなた達ときたら、、、わたしをシチュエーションに使うのをやめてくださいまし」


 そんな意図は全くないというのに、ため息を吐くエリナを見る。背はサキと変わらぬくらいで、体は美しい筋肉で引き締まっているのに、胸部装甲だけが大きいすごく大きい。


「ぬぅ、、、エリナよ、江崎隊ナンバーワンの座にいつまでも居られるとは思うなよ、、、毎晩、わたしが育て上げているセイラがすぐに追いつくからな」

「もう〜サキったら〜恥ずかしいよ〜」


 いつまでも、その地位を保てるなどと思うなという意志を込めて見つめる。しかし、あれだけ大きいと浮くんだなやりおる流石は部隊長。


「はいはい、追い抜いてくださいましね。あ!ジュリアさん!また石鹸で洗おうとして!いけませんよ!」


 実家の修行を思い出すと、滝湯で座禅を組んでいたジュリアは、満足したのか洗い場に来ていた。

 頭を洗うのに、石鹸を使おうとしていたの見たエリナが、慌てて湯船から出て行く。すごい揺れるとてもすごい。


「ぬぅ、我らの部隊長は化け物か」

「むぅ〜サキはエリナのがいいの〜?」


 嫁が唇を尖らせて妬いている。愛いやつよのうと指を絡める。


「わたしはセイラのだけでよい。ハーレムキングを目指しているサトシとは違うのだよ」


 蕩けそうな笑顔になるセイラは、やっぱり顔面天才だなと思う。


「ねぇ〜サキ〜そろそろ〜、、、ね?」


 しかもおねだり上手である愛いやつよ。


「ここじゃあ湯が汚れちまう、、、お部屋に行こうぜ、、、エリナ!ジュリア!わたしたちは休憩してくるから!おやつ時間に合流しよう!」


 良い子のジュリアは、はーい!と元気にお返事をしてくるが、むっつりエリナは賢しげに、ほどほどにしろと言ってくる。

 喰らう前から何を言っているのかと、サキはセイラと腕を組み、若干そう若干早足になる。

 あん待って〜と、甘えるようなセイラの声がけしからんと思う。急いで髪を乾かし、浴衣のような服を雑に着て、腰に手を当てフルーツ牛乳を飲み干し、予約してあった部屋に向かう。

 部屋に入ると、畳にくっつけてある布団が敷いてあった。うむ、よく分かっておると、心の中でスタッフを賞賛しつつ、セイラの柔らかな薔薇のような香りに包まれ、サキは楽園へと旅立った。




「あら、お早いですわね?」


 サキが大浴場横の休憩所に戻ると、ジュリアの長い髪に、ドライヤーをかけていたエリナが、不思議そうに声をかけてきた。


「うむ、エリナも気づいているだろう?セイラはここに来てから毎日特訓をしている。なんでも、先生ならあんなの一撃で倒せるのにと、悔しがっていてな。夜中も、わたしが寝たのを確認した後、訓練をしに出かけている。睡眠が足りんだろうから、寝かしつけてきた」


「アークデーモンを一撃?狙撃でそのような事が可能なのですか?セイラの先生って確かあの何というか、、、あの可愛らしい奥さまのいらっしゃるあの、、、」


 エリナは言い淀むが、セイラの先生とは、あのどう見ても若い嫁の尻に敷かれている、冴えないおっさんである。


 ドライヤーが気持ちいいらしく、うとうと船を漕いでいるジュリアも気づいていたらしい。


「サーシャのメイドの狙撃手と特訓してるよ、、、サトシをおっきなお胸で誘惑する、あのけしからんメイド長が言ってた、、、セイラの師匠のタカシ強いよ、、、お姉ちゃまと同じくらい強いはず、、、」


 とうてい信じられないが、あの若すぎる嫁にペコペコしていたおっさんはすごいらしい。ジュリアが言うからには間違いないであろうと、サキは思う。


 法的に大丈夫なのかと、心配になるくらい若い嫁の尻に敷かれている、前髪を気にしていた冴えないおっさんはどうでもいいのだ。

 セイラの疲労回復をせねばならぬと、サキは決意し温泉大作戦の次は、食べ物である。

 食とは医療でもあるからだ。普段の食事は気を使っているが、足らぬものがある。


「和菓子を買いに行く。お勧めの店を、ユウキに聞いておいたのだ。神様お気に入りらしいからな。期待が高まる」




 サキは小学1年生の頃から、近所の和菓子店でお手伝いをさせてもらっていた。もちろん、アルバイトは出来ないが、保護者、民生委員、学校、お店の代表の許可があれば、1日3時間まで週3日社会学習という名目で、お手伝いをする事は出来た。


 サキは早朝1時間、夕方2時間働かせてもらい、月に5万円の収入を得ていた。社会学習という名目なので、税金がかからない青山家の貴重な収入源だった。

 サキは半分を家計にいれ、1万円を貯金に回して、残りの1万5千円を、自分と妹達のお小遣いにしていた。

 妹達がそのお小遣いを使わずに、殆どを貯金に回していたのが切なかった。


 自分はともかく、妹達にはもっと子どもらしい学生生活を、楽しく送って欲しかったのも、サキが中学を卒業してすぐに働き始めた理由のひとつでもあった。


 和菓子店の老夫婦と従業員は、サキに優しく沢山の事を教えてくれた。特に菓子作りに関しては、創業200年を超える店の秘伝技術まで伝授されている。

 当然、和菓子にはかなりうるさい。ひとくち齧れば材料から配合まで全てわかる。


 そのサキを唸らせる逸品が、エルフの温泉郷にあった。小ぶりながら、口に含めば溶ける、柔らかな生地に包まれた、糖を徹底的に抜いた極上のこし餡。砂糖は香り高いものと、黒糖を合わせている。

 『銘菓 エルフ饅頭』などという、土産物の定番のような名前だが、その味の深みと美味しさは神域に達していた。


「ぬぅ、店主。あなたは只者ではないな?この味の深みは生半可な修行で出せるものではない」


 小さな店に1人だけの、若そうなエルフの女性は不敵に笑う。


「ほう、お客様はお若いのに、それの味がお分かりのようだ。300年前に日本に迷い込み、50年間丁稚奉公して学んだ母が帰ってきて、継いだこのあたしが、200年かけて作り上げた至高の逸品だよ。エルフの長達御用達、エルフ菓子の頂点のひとつさ」


 その伝統と培った技術に裏打ちされたオーラに、サキは怯みそうになる。何という圧倒的な気迫か。一流の職人だけが、技術の錬磨の果てに至るという


「あら、美味しいですわね。10個入りのを2箱くださいな」

「ボクは10箱ください!サトシとマリーと、ついでにサーシャとメイド隊に持って行ってあげよう!サキはいくつ買うの?」


 味見をしていたエリナとジュリアが、火花散るサキと店主の緊張感など知った事かと、あっさりと注文をする。これだから素人はと思う。


「うむ、わたしも10箱ください」


 だが、こいつは愛しいセイラに食べさせるのにふさわしい。早く食べさせてあげたい。


「ありがとうございます、今後もご贔屓に」


 包装されたまだ暖かいエルフ饅頭を持ち、サキはセイラの下に急いだ。そろそろ目覚める頃だろうから。





 旅館の部屋に戻ると、セイラは目覚めて、縁側に腰掛けて庭を眺めていた。


「セイラ、戻ったぞ。お菓子を買ってきたからお茶にしよう」


 振り向いたセイラから、少し濃厚な薔薇のような匂いがする気がする。


「サキ、おかえり。お茶入れるね」


 柔らかな水色の瞳が深く昏い蒼になっている気がする。しばし、エルフ饅頭を喰らいお茶を啜る。


「美味しいな、、、ねえ、サキは怖い?怖いなら2人で逃げちゃおっか?サキの事は私が絶対に守るよ。サキの家族も絶対に守る。私の育てのお母さんね、すごく強いんだ。それに、親戚のキーラちゃんにお願いしたらきっと守ってくれるしサキを怖いことから全部全部」


 思い詰めたような愛しい人の様子に、仕方ないなぁと思う。


「セイラ、確かに少し怖かった。デーモンなるものがあんなに恐ろしい存在とは想像を遥かに超えていた」


 サキの言葉にぶつぶつとつぶやいていたセイラが、こちらを見てくれる。


「エリナはすごいやつだ。本当に一生懸命で、いつもわたしたちをしっかり見て、導いてくれようとしている。ジュリアはすごい子だ。あんなに小さくて可愛いのに、とんでもなく強くて、わたしたちを守ってくれる。ユウキはバカだけど大したヤツだ。命懸けでわたしたちを運んでくれている」


 むせ返るような濃厚な薔薇のような香りが、柔らかくなってきた。


「サトシはハーレムキングだが大したヤツだ。左腕を失っても、真っ先にわたしたちを心配してくれた優しいヤツだ。もちろん、わたしは屈する気はないし、セイラは渡さないけど。サーシャはとんでもないお姫様だけど、サトシとユウキを助けてくれた優しいお姫様だ」


 昏く深い蒼に染まっていた瞳が、優しい水色に溶けていく。


「怖い確かに怖い。だけど、あいつらがいる。それにセイラが隣にいるなら、何処でも一緒なんだ。今のわたしにとって、セイラがいる場所が、わたしの居場所なんだ。だから、わたしは逃げない。このクソみたいな世界で生き残ってみせるよ」


 頭の中で何かが囁く。それ以外、人類が生き残る未来はないと囁いていた。


「セイラ、ずっと一緒にいてくれ。これからもずっとわたしの隣にいてくれ」


 強く強くセイラを見つめる。


「もう〜サキったらタラシなんだから〜他の女の子にそんな事言ったらだめだよ〜」


 首筋まで真っ赤になり、湯気が上がりそうなほどになって照れている、いつもの優しいセイラだった。


「何を言う。セイラ以外に言うわけなかろう。わたしはハーレムキングを目指すサトシとは違うのだ」


 何があろうと、この世界で生き残ってやる。仲間たちとセイラと共に、必ず生き延びてやる。

 美しい夕日を眺めながら、それよりも遥かに美しい恋人を見つめ、サキはそう決意した。

「あの、サキさん。ハーレムキングってなに?」


「この世にある全ての種族の女性をメンバーに加えるイカれた王の事だ。即ち、サトシのことだ」


「やめてやめてくださいお願いします」


「はっきり言っておく!わたしは絶対に屈しないし、セイラは渡さん!むっつりエリナはくれてやる!」


「やだぁ〜サキ素敵すぎるんですけど〜」


「な、何を言ってますの!?わた、わたしはそんな!ちがう!ちがいますからね!」

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