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山田タカシ異世界へと帰還す 後編

まるで、主人公みたいだな山田ァ!

 それにしてもどデカいドーリーだなと、異世界に戻ってきて3日目になる山田タカシは、狙撃室の小さなハッチから流れていく景色を眺めて感嘆する。

 タカシが異世界にいた4年前に普及していたドーリーは、主砲と副門である機関砲が左右にあるだけで、居住空間なんてほぼなかったし、防御性能も低く、おまけに臭いという事から、走る棺桶なんて言われていたものだ。


 今じゃ棺桶タイプは存在すらしておらず、民間志願警備員用ですら朱雀型の主砲に加えて、左右6門背後に4門の機関砲がついており、偵察用のシーカーと呼ばれるドローンまで配備され、それなりの居住空間と破格の防御性能があるそうだ。


 魔石研究の第一人者である研究者とその弟子が、動力源として魔石を使用する事に成功し、動力部と燃料の総量を減らして、武装と装甲にリソースを割ける事が可能になったらしいが、こまけぇ事はタカシには分からない。

 分かるのは、今のドーリーなら殉職者を減らせると思うだけだが、そう上手くは行ってないらしい。

 道具は道具であり、使い手が追いついていないと戦友の宇部ウルスラが説明してくれた。


「最新機の中でも、こいつは私の中隊の専用機だがな!量産型とは違うのだよ量産型とは」


 まるでおもちゃを自慢する子供のようなドヤ顔のウルスラだが、自慢するだけの事はある。

 まずどデカいとにかくどデカい。量産機は6人から8人で運用するらしいが、魔石や特殊弾頭に貴重品の運搬を担う、この特務輸送中隊のメインドーリーは3倍近く大きく、36人で運用されているらしい。

 さらに18人の魔導師と6人の生活補助要員まで搭乗していて、居住空間も広いらしい。

 武装も大口径の機関砲が左右に12門、後方に8門あり、白虎型機関砲が6門、朱雀型滑空砲が2門、麒麟型対物ライフル4門。さらに榴弾砲や小型の機関銃が無数に配備されているらしく、まるで動く要塞だ。


 さらに、倉庫部分を小さくした6人乗りの偵察及び攻撃特化型ドーリー12台が、護衛として周囲に展開しつつ移動している。

 頻発するデーモンは出現した途端に殲滅し、近寄る事すら許さない。輸送成功率100%という驚異の数字を叩き出しているのも納得出来る。


「そうだ!聞いたぞタカシ!自衛軍病院のアイドルのリリーちゃんを堕としたらしいな!私が何回誘ってもお茶すらしてくれなかった、あのお堅い子をどうやって堕としたんだ!?どんな薄汚い手を使った?返答次第では許さんぞ!」


 狙撃室の隊員に、現在のエネミーの分布図を聞いていたら、巨大な肉食獣のような動きで入ってきて、ご機嫌でドーリー自慢をしていたウルスラが、急にテンションをあげた。

 こいつは昔からこうだったなと、少しだけウンザリする。

 ウルスラはタカシより身長が20センチ以上も高く、何もかもが規格外にデカい。かといって太っているわけではなく、女性美に溢れた戦士だ。

 戦闘用ブーツを履いていると30センチ近く上から見下ろされる事になり、巨大な肉食獣に睨まれているようで威圧感がある。

 

 絶対に許さんと腕を組み睨みつけてくるが、何がお堅い子だと思う。

 女房のリリーは人当たりもいいし、退院する時に、ご飯に行こうと誘ってきたのも向こうからだ。そもそも、誰に聞いたんだと思う。


「なん、、、だと、、、あのアイドルのような可愛い顔にクールな態度と、けしからん体のギャップがたまらないリリーちゃんから誘われただと?信じられない、、、笑顔すら見せない氷の美少女だったのに」


 女房は四六時中ご機嫌だし、よく笑っている。

 四六時中よく喋るし、タカシを叱る時以外は、ほぼ笑顔だ。

 氷の美少女(笑)誰だよそれと、タカシは思う。まあなんだそのあれだ顔立ちが整っているのはまあ分かる。なにせ女房そっくりの娘も世界一可愛いし。


「あのリリーちゃんが笑顔?想像も出来んが、可愛いだろうな、、、それにしても、タカシは相変わらず面食いだな!アリシャも顔面最強だったし!ただの汚っさんが何でモテるんだ、、、あ!おまえ!私の可愛いハーレムメンバーに手を出すな!許さんぞ!リリーちゃんにチクるからな!」


 信じがたい事に、この特務輸送中隊は、生活補助要員や医師も含めて、150名全員が女性だという事だ。

 女性比率が高い部隊はあるが、全員が女性というのは、ここ以外にほぼない。

 ハーレムって何だよと呆れ返りながら、一応、確認だけはしておく。


「手なんか出すか!女房と娘だけで精一杯なんだからよ、、、ちなみに、どの子がハーレムメンバーとやらなんだ?仕事以外には近づかねえようにしとくわ」


 ウルスラはニヤリと笑い高らかに宣言する。


「全員だ!休暇中の予備隊50人も含めて、この中隊の部隊員全てが、私の嫁であり恋人だ!羨ましかろう!」


 そんなわけあるかバカがと思いながら、狙撃班の班長だという隊員を見ると、慣れているらしく、苦笑いしながら説明してくれる。


「操縦室のサブ操縦士のサラと、医務官の高田先生は恋人らしいです。それ以外は、ストレス解消の仲の子が何人かいる程度ですね。お触りは酷いですけど、ちゃんと言えばやめてくれるし、お給料いいんですよね。安全性も高いし」


 その言葉のどこにそんな顔をする要素があったのか、タカシにはまるで分からないが、圧巻のドヤ顔になるバカを見ながら、こいつは昔からそうだったなと懐かしくもある。

 ウルスラはとにかく、女の子が好きで好きで仕方ないやつだった。暇があれば、女の子を手当たり次第ナンパしていて、恋人だ嫁だハーレムだと、賑やかに騒いでいた。


 わがままで仕方がない、小さな子を見るような目でくすくす笑う部隊員たちの姿に、慕われているみたいで良かったと思った瞬間、懐かしい風が耳元で囁いた気がした。


 そして、20年以上の間に、数え切れぬほどに同じ動作を繰り返したタカシの体は、4年ぶりだというのに精密機械の如く動いた。

 音も立てず、狙撃室に置かせてもらった麒麟型対物ライフルの横に移動し、風が囁いたように思えた方向に構えて、弾が入っている事を確認し、スコープを覗き、安全装置を外した時に、非常警報が鳴り響き、警戒レーダーに巨大な反応が出現した。


「索敵班より緊急伝令!エンジェル種の出現を確認!距離4200!推定脅威レベル6!?アーク級の指揮個体と推察!」

「デカめの羽虫を確認した。狙撃許可を求める」


 悲鳴のような伝令と、冷え切ったタカシの声は、ほぼ同時だった。


「許可する」


 ウルスラの嬉しそうな声にトリガーを引く。


 数え切れぬほど繰り返し放ってきた、必中の魔眼持ちであるタカシが撃った弾丸は、今回もあっさりと、巨大な化け物のコアの中心を貫き破壊した。

 コアを中心に現出していた巨大な羽虫が自壊していくのを油断なく見つめ、巨大な魔石が落ちるのを確認してから、安全装置をかけて、残心を解き立ち上がり、何でもないように元の場所に戻る。


「あ、、、え?消滅?エンジェル種アーク級指揮個体と思われるエネミーの消滅を確認しました?え?あれ?」


 戸惑うような声が機内放送から流れる。

 羽虫狩りと、誰かの呻くような感嘆の声が、静まり返った狙撃室に響いた。


「相変わらず見事なもんだな!タカシ!」


 懐かしそうな嬉しそうな戦友の声に、鈍ってやがると小さく愚痴る。


「あいつがいりゃ現出した瞬間、受肉する前に落とせたんだがなぁ、、、まぁ俺だけならあんなもんだろ」



 その瞬間から、特務輸送中隊内でタカシの評価は爆上がりだった。

 中隊長の知り合いらしい、なんだか変なオッサンという腫れ物ポジションから、頼れる伝説の狙撃手にランクアップした。

 さらにアーク種に支払われる討伐賞金と、巨大な魔石の買取金額の全てを、中隊に分配すると伝えたら、狂喜乱舞のお祭り騒ぎになった。

 若い隊員たちの年収にも匹敵するボーナスが、何の苦労もなく手に入ったからだ。


 休憩時間や食事時間になると、なんだか距離が近すぎる気がする薄着の隊員が何人かいたが、1ヶ月も世話になるんだから、気楽に話せるならまあいいかと思っていた。


 異世界に戻って7日目。

 女房の家族が眠る大樹に花を添えて、近くに再建され拡張し続けている、牛人族の都市に作られていた、戦友だった大戦士たちの墓参りを済ませた。


 10日目には、自衛軍第6陣近くにあるエルフの有効都市と虎人族の都市を訪れた。

 あそこのエルフたちは相変わらずで、タカシを救世主と呼び、女房を聖母と讃え、娘を御子と認定して永遠の忠誠を誓うと宣言されて、顔を引き攣らせながら戦友たちの墓に花を添えた。

 特殊作戦群の隊長だった、虎人族大戦士の子供たちは全員が戦場に赴いていた。

 唯一、家に残っていた奥さんに謝罪しようとしたら、あの人に叱られるからやめてくださいと、優しく諭された。


 11日目には、女房から通信が来た。10日に1度だけだがパートナーと7歳以下の子供となら、異世界間の通信が許されている。

 だが、職場は男の戦場である。今の職場は女性しかいないけれども、そこにノコノコと連絡してきた女房にはガツンと一括してやった。


「どうしたリリー、なんかつれぇことあったのか?心配事があんなら、お隣の弓沢さんに話すんだぞ。弓沢さんに話しにくい事なら、紹介した瀬宮を頼れ。あいつは頼れる奴だから」


 娘のアリサはご機嫌に、とーちゃ!あーちゃ!ときゃっきゃしているが、リリーはモジモジしている。


「タカシ堪忍な、、、お仕事やから辛抱しよおもたんよ?ほいでもタカシの顔みとぅなって辛抱できへんかってん、、、堪忍な?」


 潤んだ上目遣いで、甘ったれた事を吐かす女房にガツンと言い聞かす。


「わりぃ、、、用が済んだらすぐに帰るからよ。墓参りもちゃんと済ませたからな。大樹の近くに都市が出来ていてよ、、、一面の花畑まであった。リリーとアリサと3人でまた訪ねてみてぇと思った。俺もはやくリリーとアリサ抱きしめてぇ、、、勘弁してくれ」


 タカシの頼れる亭主関白ぶりに安心したのか、リリーはやっといつものように笑ってくれた可愛い。

 背後から、うわっ可愛い!なんだあの子可愛いすぎでは?でっかでっか!エッド!あの子が嫁?若すぎね?犯罪では?秘密会議が必要リリーちゃん可愛いよリリーちゃん等の声が聞こえるが無視する。


 リリーとアリサにガツンと一括してから通信を切る。タカシのあまりの亭主関白ぶりに、女性隊員たちはビビり散らかしたかもしれんが、時代遅れと言われても、このスタイルを変えるつもりは一切ない。

 なんだその微笑ましいものを見る目は、、、なんだか落ち着かないのでやめてください。


 そして異世界に戻ってちょうど1ヶ月。

 15ヶ所で墓参りを済ませたタカシは、特務輸送中隊に送られて自衛軍の要塞に戻ってきた。

 最後の方は、隊員たちにタカシちゃん呼ばわりされていたのが、微妙に納得出来んが、揉める事なく済んだのは良かったと思う。


 そして、要塞に戻ってすぐに、チンピラから要塞の副司令に成り上がった、せっかちな戦友のエルフであるリリアと共に、タカシはエルフ族最大の都市に、貴重な転移魔法が封じられた宝石を使いたどり着いた。


 自衛軍第8陣と第9陣の間にある、広大な森の中心にその都市はあった。巨木と巨石を組み合わせた高さ60メートルを超える城壁に囲まれた、エルフ族の250万都市。

 有史以来、唯の一度も陥落した事のない伝説の都であり、タカシの師匠であった大魔道士エレクトラや、相棒だったアリシャ、大戦士リリアの生まれ故郷だ。


 都市の中央部には城があり、その背後には女房の故郷にある大樹が、小枝に見えるほどの巨木がそびえ立っていた。

 世界樹と称される、高さ2キロにもなるエルフの象徴となっている神木である。


 リリアに連れてこられた、世界樹の麓にある日のよく当たる場所に、そのログハウスはあった。2階建の煙突があるログハウス。

 それが視界に入った瞬間、タカシは自分でも驚くくらいのスピードで走り出した。途中、バランスを崩して転んで、すぐに起き上がりログハウスの玄関に辿り着く。

 まさかとは思う。でも、このログハウスはタカシが初めて異世界に来た時、師匠が魔法で作り上げたものと瓜二つだった。

 震える右手でノックをする。返答がないので、躊躇いがちに何度かノックを続ける。


「うるせー!寝てんだから後にしろ!」


 その懐かしく夢にまで見た怒声に、涙が溢れて止まらなくなり、タカシは動けなくなる。


「あん?何だ?誰だ?眠いのに、、、あん?この魔力は、、、」


 ボソボソとした独り言の後、ドタドタと走ってくる音がして、ドカンッ!とすごい勢いでドアが開いた。


「タカシ!このバカ弟子が!遅いぞ!」


 魔法使いだらけの異世界において、ありとあらゆる種族の大魔道士に影すら踏ませなかった、エルフの有史以来最強の大魔道士にして、4年前のあの日、死んだはずのエレクトラがいた。

 人の考えうる極致のような美貌と燃えるような好奇心に光り輝く瞳。悪戯好きの子供のような表情。

 間違いなく、親同然に慕った師匠のエレクトラだった。


「なんだ、泣いてんのかバカ弟子。嫁をもらって赤ちゃんまでいる男が、そんな簡単に泣くんじゃない」


 優しく頭を撫でてくる手の感触が暖かかった。


「師匠、、、生きてたのか?生きていたなら、、、」


 それ以上、言葉が出てこない。

 そんなタカシを、エレクトラは小屋に誘い、ソファに座らせる。


「いや、あの日、わたしは死んだんだ。スバルがわたしの体を無事に運んでくれて、両親の手により、世界樹の根元に埋葬された。わたし達エルフの体と魂は世界樹に吸収されて、またいつかこの世に戻ってくる。ただ、わたしは魔力が大きすぎたから、吸収まで100年ほどかかるみたいなんだ。その間、この体を作って時間を過ごしているんだ」


 例え亡くなっていたとしても、また師匠に会えて言葉を交わせたのが嬉しかった。


「師匠、何であの時、俺の傷を塞いだんだ?師匠の方が世界の役に立つのに」


 スパンっと頭を叩かれる。


「タカシはほんとにバカだなぁ、師匠が弟子を守るのは当たり前なんだよ。おまえ以外の誰もが知っていることなんだ」


 抱きしめられて紡がれた、その言葉にまた涙が溢れてくる。


「師匠、、、」


「なんだ、バカ弟子?」


「部屋汚すぎるし、なんか臭い、、、」


 タカシは風魔法で外に吹き飛ばされた。



 タカシは師匠命令で、地面に正座をして待っていた。リリアは胡座をかいて、こちらを見ながらゲラゲラと笑っている。笑うなチンピラのくせにと思う。


 シャワーを浴びて着替えてきたらしい師匠は、もう一度タカシの頭を叩いて、女性に対してデリカシーのない男に生きる価値はないと、お説教を始めた。

 何だか暖かな風が笑っているような気もした。


 ひと通りお説教を終えて、項垂れるタカシに師匠は優しく告げてきた。


「もう、分かっているなタカシ。ずっと、誰に守られていたのか分かっているよな」


 暖かな風が吹いていた。

 春の陽だまりのような暖かで優しい風だ。

 この風の持ち主と、命が尽きるまでずっと一緒に歩みたいと思っていた。

 だけど、それは叶わなくて、自分の命より大切だったのに失ってしまった。


 彼女を失ってしまったのに、何だかいつも彼女の存在を感じていたような気がしていた。


 例えば夏。失った左手の幻痛に苦しみ、脂汗を流すタカシの体に涼やかな風が吹いて、痛みを消してくれた。


 例えば秋。苦しそうに悪夢にうなされていた女房のリリーが柔らかな風に包まれて、落ち着いて微笑むような寝顔になった。


 例えば冬。娘のアリサが熱を出した日に、何故か暖かな空気に包まれて、健やかな寝息になった。


 例えば春。3人で桜を見に行ったら、軽やかな風が包み込んでくれて、楽しげに笑っているように思えた。


 どれだけ探しても見つかる事はなかった。

 彼女は探知と隠蔽と隠密魔法が得意だった。

 喧嘩をして拗ねた彼女を、タカシから見つけられた事はいっかいもなかった。


「アリシャ、ずっと守ってくれていたのか?」


 立ち上がり、誰よりも愛おしかった彼女の名前を呼んで、タカシは振り返る。


 そこに彼女がいた。ずっとずっと、心の中で探し続けていた彼女がいた。

 背の低い華奢な体。端正な小顔に、生意気そうな大きな吊り目。肩まである燃えるような真っ赤な髪。

 細やかな胸の下で腕を組み、頬を膨らませて、タカシを睨みつけている。


「タカシはさ、なんでそんなにおっきなのが好きなのさ?さっきも師匠のに見惚れていたよね?リリアやウルちゃんやスバルのにもさ、、、リリーちゃんにあんな事させてるし!だめでしょ!」


 その言葉にタカシは再び正座に戻る。愛おしい女がめちゃくちゃブチ切れてる。

 最終的に脂肪の塊に過ぎないものには、二度と惑わされないと、土下座しながら誓わされるまで、アリシャの怒りは解けなかった。師匠とチンピラは、過呼吸になるくらい笑い転げていた。






「ほんとはさ、あのまま消えるはずだったんだ。護衛についてくれていた戦士たちが、身体を守ってくれてね。ウルちゃんとスバルが世界樹に埋葬してくれたんだ」


 ログハウスの2階、修行時代のタカシとアリシャの部屋だった場所にある、ベッドに2人はいた。

 惜しむように抱きしめ合い、お互いの体温を分け合って話をしていた。


「でもさ、ウルちゃんが止めてくれたけど、タカシが死のうとしていたからさ。心配で心配で仕方なかったんだよ?」


 あの何もかも無くした日、泣きじゃくるスバルを見ながら、タカシは爆裂魔法が仕込まれたナイフで、自分の心臓を貫こうとした。

 それを蹴り飛ばして止めてくれたのが、ウルスラだった。


「消えそうになる意識と引っ張りあってね、、、そうしたら師匠が魔力を分けてくれて、体と時間をくれたんだ。心配だったから、タカシにくっついて向こうに行ったんだよ」


 なんで、姿を見せてくれなかったんだと、答えは分かるような気がしたから、聞かなかったけど、優しいアリシャは答えてくれた。


「ずっと一緒にいれるならさ、、、タカシと生きられるなら姿を見せたかったよ。でもさ、師匠の力でもわたしみたいな貧相な魔力の持ち主を留めるのは、5年以内が限界なんだ。だから、ちゃんと一緒にいてくれる人を探したかった。リリーちゃんが見つかって、ほんとに良かった!」


 ほんとに嬉しそうに笑うアリシャを、タカシは抱きしめる。

 本当はアリシャとだけ居たかったなんて、嘘になるから、もう言葉にすら出来ない。


「リリーちゃんさ、、、わたしに気づいていたんだ、、、それで、身を引くってさ。あの時は焦ったなー」


 説得すんのに1年もかかったんだ、感謝するんだぞと悪戯っぽく笑いかけてくる。


「アリシャ、あとどんくらい居られるんだ?」


 タカシの言葉に、少し寂しそうに呟く。


「1ヶ月くらいかな?タカシへのプレゼントを作るのに力使ったからね!明日、それ渡すから、早く帰るんだよ!2人とも心配、ヒャッ!?」


 強がるアリシャを強く強く抱きしめる。


「帰らない、アリシャを見送るまで何処にも行かないからな」


 ありがとうと呟き、唇を噛み締めるように、啜り泣くのは、生きていた頃と同じだった。


 その夜から、タカシは4年の空白を埋めるように、アリシャとの1ヶ月を大切に過ごした。

 朝起きて、一緒に飯を食い、後片付けをし、修行をしたり、師匠の研究を手伝ったり、花を見に出掛けたり、また食事をして、風呂に入り、一緒に眠った。

 10日に1度、女房と娘に通信をつなぐ。仲良くはしゃぐリリーとアリシャ。あーちゃ!とアリシャに語りかける娘に、涙が止まらなくなった。


 その日は晴れだった。

 柔らかな風が吹き抜ける午後だった。


 師匠とリリアが見守る中、タカシはアリシャを見送った。


「守ってやりたかったのに、守れなくてすまねえアリシャ」


 タカシの言葉に、おかしそうに笑うアリシャ。


「でも、最後の約束はきちんと守ってくれたから、許してあげる」


 くすぐったそうな笑顔を見せてくれた。


「アリシャ、ありがとうな、、、さよならは言わねェからよ、、、エルフはまた帰ってくるって話だから、、、だからよ、またな」


 強く強く抱きしめ合い、深く深く口づけて、惜しむように体を離す。


「うん、未練たらしいタカシが心配だから、できるだけ早く戻ってきたげる!リリーちゃんとアリサを大事にするんだぞ!、、、またね、タカシ」


 大きな吊り目をぎゅうっと細めて笑うアリシャが愛おしかった。


 ふわりと風が吹いて、アリシャの体は世界樹に吸い込まれて消えた。


 世界樹が祝福するように光り輝く。

 そして、1本の木の枝のようなものが現れた。


「タカシ、それはアリシャの全てが詰まったものだ。おまえの左手を再生させたいと、残りの1年を捨てて、それを作った。大切にしろ」


 師匠の言葉に、もっとアリシャと居たかったとは思わないようにする。彼女の気持ちとずっと一緒に在れるのが嬉しかった。


 左手に近づけると、吸い付くように接合した。

 今はまだ動かないけれど、きっと、すぐに動かせるようになるだろうと思う。


 リリーとアリサの所に帰ろうと思う。

 そして、アリシャがくれた腕でしっかりと抱きしめる。


 まずはそこから始めようと、山田タカシは異世界の空の下、誰よりも愛おしかった人がくれた腕を撫でながら、そう思った。


次から本編に戻ります。

愚か者と愉快な仲間たちがエルフと戯れます

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