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愚か者、異世界にてようやく初仕事

オイショ! \オイショ!/ オイショ! \オイショ!/ オイショ! \オイショ!/ オイショ! \オイショ!/

今月はね!一日からね!飛ばしていきますよ!いいっすか!それには今日!新規お仕事もろうたら!一本目粘って!とにかくお客さんと勝負して!今日一日ね!目一杯やってください!

 意識が覚醒し、備え付けの時計に目をやると5時45分だった。

 2週間の訓練期間中に叩き込まれた起床時間になると、自然と目が覚めるようになっていた。

 前日は4時間しか眠れず、そのまま仲間の誘拐事件があり、奪還し、事情聴取を受け、懲罰である床磨きをしたが、疲れは全く残っていなかった。


 寝具を整えると、戦闘用ブーツを履きしっかりと固定する。寝ている時も着込んでいる、戦闘補助服の上にボディアーマーを素早く身につける。

 5分で身支度を整えると、部屋から出る。異世界にいる間、民間志願警備員は休日を除き、ドーリー内で生活をする事が義務だ。

 24時間営業の食堂や、チェーン店が出店している食堂街がドーリー待機場のすぐ近くにあるが、あまり無駄遣いをしたくないサトシは、支給される食材を使う自炊を選んだ。


 ドーリー内にはキッチンもある。窓がなく、節電の為、最低限の照明しか点灯していない居住スペースの中央に向かったサトシは、既に誰かがいる事に気づいた。


「おはよう、サキさん。早いね」


 おなじく自炊を選んだサキが、フライパンを魔道コンロに乗せている所だった。ドーリー内の至る所には、魔石を使った魔道技術による製品が備え付けられており、小さな魔石で長時間使用できる魔道コンロもそのひとつである。


「おはよう、サトシ。ようやく初日だからな。朝ご飯は沢山食べないと力が出ない。ご飯はもうすぐ炊けるから、ベーコンエッグを頼む。わたしはサラダにする野菜を準備する」


 幼い頃から家事をしていたというサキの手際は熟練のものだった。慣れているという理由で、サトシとサキが立候補し朝食当番となっていた。

 サトシは手を洗い、冷蔵庫から10個入りLLサイズの卵を5パックと、分厚くカットされた見るからに上質のベーコンを取り出す。

 買えば相当お高そうな、こんなのが支給されるってありがたいなぁと思う。


 ベーコンを弱火にかけ、脂を出してから卵を次々と割り入れていく。作り方は、モーニングセットが名物の、喫茶店を経営している母に叩き込まれた。

 サキは恐ろしい速さでキャベツを千切りにし、水にさらしてからザルに上げ、トマトと一緒に盛り付けていく。

 さらに、冷凍のハッシュドポテトを温めてから皿に乗せていた。

 

 サキが準備した皿に、事前に仲間たちに聞いた好みの固さの卵に仕上げたベーコンエッグを乗せていると、皆が起きてきた。


「おはようございます。サキさん、サトシさん。朝ご飯の準備ありがとうございます。食事当番を押し付けてしまい申し訳ないです」


 完璧に身だしなみを整えてあるエリナが律儀に謝る。


「おはよう、エリナさん。毎日やっていた事だから気にしないで」


「そうだぞ。それにエリナは働きすぎだ。ご飯の用意くらい任せろ」


 部隊長をお願いしたエリナは、前日から獅子奮迅の活躍だった。

 誘拐事件や防壁破壊事件に関する、あらゆる交渉を任せてしまった。

 2人の言葉に嬉しそうに笑いながら、手を洗い席に着く。


「おはよ!お腹空いた!すごい美味しそう!」


「はよう、ジュリアは朝からテンション高えなぁ。お日様みたいだぜ。」


「おはよ〜まだ眠い〜でもサキの愛のこもった朝ご飯は逃せない〜」


 ジュリアとユウキとセイラも手を洗い席に着く。食事前の手洗いは必ず丁寧にしろと、教官であった敷島スバルに毎日言われていた。

 清潔な環境は集団生活において重要だからだ。食中毒など起きたら目も当てられない。


 分厚いベーコンと照りの美しい卵のベーコンエッグに新鮮なサラダとハッシュドポテト。

 1升炊きの炊飯器2台を開くと湯気が噴き出すご飯に、根菜たっぷりの豚汁。

 梅干しや漬物、鮭フレークが盛られた小鉢がそれぞれの前に並ぶ。


「それでは、準備をして下さったサキさんとサトシさんに感謝を。頂きましょう」


 全員が席に着くと、エリナの言葉に続き、いただきますと手を合わせ猛然と食べ始める。

 特にサキとジュリアはよく食べる。ご飯は丼でモリモリと美味しそうに頬張り、汗を浮かべながら美味しそうに食べ続ける。生命力が溢れ出すような光景だ。

 その様子を見ると、作りがいがあるなぁとサトシは嬉しくなり、ゆっくりと食事を楽しんだ。


 食事が済み、後片付けが終わるとエリナに呼び出しがあり、指令室に向かった。

 サトシ達も準備をしていると、エリナが人を連れて戻ってくる。


「私たちの初仕事は変更との事です。第3陣への物資輸送ではなく、第6陣及び友好都市への物資輸送となりました。さらに、友好都市へお客さまをお連れする様にとの指令です」


 エリナは隣でニコニコと満面の笑みの清楚な美女を紹介する。


「友好都市の魔道士団団長である白銀のサーシャ様です。皆さん、4日間失礼のないように接してください。サーシャ様、ご挨拶をお願いします」


 優雅に腰を落とす礼をしながら、エルフ族の小柄な美女は流暢な日本語で挨拶をする。


「サーシャと申します。先日は皆さんにご無礼を働き、申し訳ありません。短い時間ですが、よろしくお願い致します」


 サキとセイラを誘拐したエルフのひとりがそこにいた。


「サーシャちゃんと一緒か〜嬉しいな〜気分上がってきた〜」


 誘拐事件の後、サーシャ達エルフの両手両脚を縛って口も塞いで、天井から吊るすべきと主張していたセイラは、ご機嫌でサーシャの手を握りピョンピョン跳ねていた。

 サキは特に思う事がないようで、平然としており被害を受けた2人がいいならいいかと、サトシは納得する。


 それにしてもすごく綺麗な人だなと、しばし見惚れる。背は低く華奢だが、スタイルがよく、立っているだけで華がある。しかも、日本語まで流暢に話すエルフなんて初めて出会った。

 サトシの視線に気づいたのか、こちらを向いてニッコリと艶やかに笑顔を向けられ、顔が赤くなる。

 ペチン!と尻を叩かれて後ろを見ると、何だか不機嫌そうなジュリアだった。


「サトシ、、、そんな風に女の人をジロジロ見たら駄目だよ、、、デリカシーないのは駄目、、、ゴリラどもみたいになるからね、、、」


 いつもキラキラと星のように光る瞳がドス黒く濁っており、サトシは恐怖を感じて慌てて謝る。



 出発予定時刻が近づき、追加物資がドーリーの倉庫に搬入される。それを確認した後、ハッチを閉めてロックをかけた。


「準備完了だよエリナさん」


 報告を済ませると、エリナは管制室に連絡を入れて、出撃許可を申請する。


「お疲れ様ですサトシさん。管制室、こちら民間志願警備員絵崎隊の部隊長絵崎エリナです。本日より4日の予定で、第6陣及び友好都市への物資運搬。加えて、友好都市へ白銀のサーシャ様をお連れするように命じられております。出撃許可を願います」


「絵崎隊、出撃を許可する。南門へ回るように、、、今日は門が開いてっから防壁ぶち抜くんじゃねえぞ!無事に帰ってこいルーキーども!」


 先日、緊急出撃をした際に担当だった管制官と同じ声だった。


「感謝致します。それではユウキさん、お願いします。絵崎隊、出撃!」


 アクシデントは色々とあったが、ようやく異世界での仕事が始まる。

 サトシは両頬を叩き気合いを入れ直して、自分の担当である主砲室へ向かった。



「まあ、わたくしサトシ様とお話をしてみたいのでお譲り願えませんか?」


「ダメ!主砲室で待機するのはボクの役目なんだから!探知が得意ならサーシャは狙撃室のセイラのとこ行けばいいでしょ!」


 何故か、主砲室の前でサーシャとジュリアが揉めていた。


「あら、でもサトシ様はわたくしにご興味があるご様子ですし、ね?」


 こちらに気づき、ちろりと舌で唇を舐めて流し目を送ってくるサーシャ。清楚な美貌とギャップがすごいその仕草に、背筋がゾクゾクする色気を感じてしまい、サトシは顔が赤くなる。


「なに、、、サトシはサーシャがいいの、、、ボクよりサーシャがいいの、、、?」


 大きな目でジュリアが睨みつけてくる。

 

 とてもこわい


「サーシャさん!ドーリー内ではジュリアさんが主砲室での待機となっています!探知をしてくださるなら、セイラさんの手助けをお願いできませんか?」


「まあ、残念ですわ、、、わたくし、サトシ様と沢山お話をしたかったですのに、、、でも、ポジションが決まっているなら仕方ありませんね。セイラ様の所にお邪魔致します。ジュリア様、失礼致しました」


 その言葉にフンスッと勝ち誇るジュリア。

 ほっとしていると、サトシのそばを通り過ぎようとしていたサーシャが背伸びをして耳元で囁く。

 腕に圧倒的!圧倒的よ!と叫びたくなる、雄大なる神秘が押し付けられた。


「時間はたっぷりありますから。夜にお部屋にお邪魔致しますわ、ね?」


 そのあまりにも艶かしい声に全身が固まる。


 その不意打ちを見て、しばらく呆けていたジュリアは地団駄を踏んでから、サトシを睨みつけて主砲室へ入っていく。


「なんでやねん、、、」


 思わず関西弁が漏れた。

リリアからサトシのギフテッドを聞いたサーシャはそらもう喰い散らす気満々です。

なにせ生まれ故郷の人口が少なすぎるので

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