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友軍による民間志願警備員誘拐事件に関する報告

山田ァ!

 たった数時間で何件の前代未聞の事件が起こりやがるんだ。

 自衛軍異世界第一駐屯地のトップであり、日本に通じるゲートを擁する要塞の司令官である竜胆ゲンジは、信頼する部下達が凄まじい剣幕で議論を重ねる様子に頭を悩ませていた。


 前日の夜、民間志願警備員の中に5人の新規ギフテッド所有者が確認され、その報告と取り扱いに関する会議の終盤、警報が鳴り響き警備部から緊急連絡が入った。


 エネミー群による襲撃かと警戒するゲンジ達は耳を疑った。自衛軍の協力団体の中でも、最も深く交流があるエルフ達が、新規ギフテッド所有者2名を誘拐したというのである。


 エルフ達は大きな国を持たず、数十の都市を築き生活を営んでおり、それぞれの都市ごとに独自のルールを定めている。

 日本政府は、人口250万人を抱える最大の都市の長と交渉をし、条約を締結し、協力関係を結んでいる。さらに、7つのエルフの都市とも協力関係がある。


 今回、誘拐事件を起こしたのは自衛軍が展開する12の陣地の内、第6陣近くの森の中にある、人口2万人程度の小さな都市のエルフ達だ。

 その都市のエルフ達は、些細な問題はあるが、自衛軍に極めて協力的であり、300名の魔道師団と2000名からなる戦士団を、前線の要塞に派遣してくれている。

 都市の全戦力の50%に相当する人数だ。


 自衛軍との連携も取れており、前線担当の幹部達は、今回の事件の第一報を信じる事すら難しいようだった。

 さらに、誘拐された民間志願警備員2名の奪還に同じ部隊の4名が出撃し、同部隊員が確保し連れ帰った5人の容疑者の中に『白銀のサーシャ』が確認されたという報告に、あり得ないと叫んだ後、絶句する者までいた。


 サーシャは友好都市の魔道師団団長である。

 腰まである白銀の髪を靡かせ、結界術と治癒魔術と風魔術を高いレベルで使いこなす大魔道士だ。

 彼女に助けられた数多くの自衛軍兵士達は、彼女を女神の如く慕っている。

 売店では可憐な美貌の彼女が、恥ずかしそうにはにかむ100種類ものブロマイドが販売され、御守りとして人気がある。

 エルフ族だけでなく、他の種族と自衛軍の間に入り、円滑な部隊運用が出来る様に取り計らってくれてもいる。

 そんな彼女が、ギフテッド持ちとはいえ、民間志願警備員を誘拐など、何のメリットがあるというのか、全く理解出来なかった。


 敵対勢力が偽装魔法を使い、サーシャになりすましているのではないかと声高に主張する者までいたが、同じエルフ族である副司令のリリア自ら尋問に参加し、サーシャ本人と確認している。


 荒れる会議室に、副司令のリリアが、両手を背中できつく縛られたサーシャを伴い入室してきた。


「誘拐事件の首謀者サーシャを連れて参りました。皆様に謝罪と申し開きがあるとのことです」


 前線の幹部から、腕をきつく縛られたサーシャの姿にやりすぎではないかとの声が上がるが、サーシャ本人が首を振り制した。


「お久しぶりですサーシャ殿。こんな形で再会する事になり残念だ」


 腰を優雅に落とし礼をしたサーシャは、悲痛な表情で謝罪をする。


「お久しぶりですゲンジ様。今回、このような騒動を起こした事を深くお詫び致したます。また、自衛軍の皆様の信頼を裏切った事をお詫び致します。計画をし、実行を命じたのはわたくしであります。どのような処分も受け入れます故、他の4名と虎人族の皆様には、何卒寛大な処分をお願いいたします」


 サーシャの口から出た言葉は日本語であった。魔法やデバイスにより、お互いの言葉の翻訳は可能だが、意思の疎通に齟齬がないようにと、サーシャは熱心に日本語を学び習得した、数少ないエルフのひとりである。


「サーシャ殿、理由をお聞かせ願いたい。サーシャ殿の都市と我々は、この20年極めて良好な関係を築けていたと思っとる。サーシャ殿をはじめとする魔道師団や戦士団の献身には、幾千の兵士達が命を助けられている。そんな貴女が何故このような事を」


 しばし瞑目し、開いたサーシャの目は狂熱を帯びていた。


「もちろん、救世主様の為です。わたくし達がどんなに懇願しても、皆様は救世主様の現状を一切教えてくださらない。あの方が酷く傷つき、腕を失いお帰りになられた事以外、一切の情報がないまま4年が過ぎました。嗚呼、救世主様!貴方様が今も嘆いておられないか、我々2万の同胞は皆夜も眠れぬほど案じております!しかし!しかし貴方様が使徒を遣わしたとの知らせを得て、我々は歓喜しました!貴方様が再び降臨なされる証だと!復活の日は近いと!使徒様にお話を賜りたく、このような無礼を働き心からお詫びいたします。ゲンジ様、お願い致します。救世主様の事を、山田タカシ様がどうなっているのか、どうかどうか、我々に教えてくださいませ。あの方の無事が知れたなら、この身がどうなろうとかまいません。どうかどうか、お願いいたします」


 硬い床に両膝をつき、頭を深く下げて懇願するサーシャに会議室は静まり返り、ゲンジは頭を抱えそうになる。


 自衛軍に最も協力的であり、親愛を示し、勇猛に闘う、友好都市のエルフ達の些細な問題。


 その問題とは、自衛軍の超エースであった山田タカシを救世主様と崇めて、彼のためなら全住民2万人が命すら惜しくないとまで主張する事だ。


 この4年間、毎日のように救世主様の状況をと嘆願があるが、山田タカシの情報自体が最高機密となっている為、司令官のゲンジですら自衛軍の訓練所で働き始めている事以外、プライベートは一切分からない。


「サーシャ殿、我々は何か意図があって、タカシの情報を貴方がたに伝えていないわけではないのだ。アイツは現状、自衛軍に所属しているが、教官として働いている以外の情報は俺ですら分からん。理解してくれ」


 ゲンジの言葉に反応し、顔を上げたサーシャの目は喜びに輝いていた。


「嗚呼!救世主様!あれほどの傷を負い、御心を痛めながらも、使徒を導いていらっしゃるとは!何と尊い!」


 前線部隊のものは慣れている。

 サーシャだけでなく、あの都市のエルフ族は全員が同じように山田タカシを崇めている。


 しかし、他の者たちはドン引きである。

 次代のエルフ族の賢者とまで謳われる知性の持ち主であり、数々の大魔道により自衛軍を救い、その可憐な美貌に多くの信者までいる、あの白銀のサーシャの狂乱ぶりに顔が引き攣っている。


「司令、自衛軍に情報がないなら、伊知地警備員に現状を聞いてみては如何でしょう?狙撃の訓練を受けていたという事ですし、彼女の立場なら問題はないかと」


 リリアの提案に、使徒様のお言葉をいただけると顔を輝かせるサーシャ。

 正直なところ、サーシャが率いる部隊の戦力は絶対に欠くことは出来ない。山田タカシの現状が分からない以上、このままでは、また同じ事が起こる可能性が高い。


「伊知地セイラに話を聞こう。俺とリリア、サーシャ殿の3人以外は、食事と休憩を済ませてくれ。担当地域への連絡もあるだろう。6時間後に会議を再開する。では、一旦解散とする!」




 防音が施された応接室のひとつに、伊知地セイラを呼び出し、山田タカシについて話を聞きたいと伝えると、意外な事に了承を得られた。

 拗れる可能性が高いと思っていただけに、ゲンジは安堵した。


 ソファに腰を下ろすセイラの対面に、サーシャは後ろ手に縛られたまま、床の上に頭を擦り付けるように土下座をしている。


「偉大なる山田タカシ様の使徒たるセイラ様と、セイラ様の恋人の自由を奪い、承諾なく連れ去ろうとした事をお詫び申し上げます。タカシ様の現状をお教え頂き、それを同胞に伝えた後、わたくしの事をご自由にお裁きください。自ら腹を裂くセップクの作法も心得ております。わたくしの命に従った未熟者どもの命だけはお助けくださるよう、お願い致します」


 それまでご機嫌のよろしくないのが分かるセイラであったが、サーシャの言葉を聞いて、喜びを露わにする。


「え〜?なに〜?分かる〜わたしとサキが恋人って分かっちゃう〜?そんなに分かりやすい〜?」


 毛先を弄りながら、かなりうざいドヤ顔になっているセイラに、サーシャは言葉を続ける。


「はい!セイラ様とサキ様は、眠っておられても魂が混じり合うがごとく、美しく輝いて寄り添っておられました!あまりにも尊いお姿に見惚れてしまいました!」


 その言葉にご機嫌になったセイラは、サーシャに近づき、立たせた後に、縛られた腕の紐を勝手に解きだす。


「嗚呼、使徒セイラ様のお手を煩わせてしまうなんて、、、申し訳ありません」


「サーシャさんだっけ〜?あなた、見る目あるよね〜そっか〜分かるか〜分かっちゃうか〜サキとラブだって分かっちゃうか〜」


 自分の隣のソファに座らせる。


「ちょと〜司令のおじさんさ〜こんな華奢な女の子をキツく縛るなんて〜ダメだよ〜」


 おまえはサーシャ達を連行するように要請する警備部に、両手両脚を縛り、草原に放置するべきだと主張していただろうと、ゲンジは思うが、気分よく話してくれるなら、それに越した事はない。


「うむ、申し訳なかった。それで、タカシの奴は元気なのか?実は俺の部下だったのだが、4年前から会っていないので気になっていたのだ」


「せんせ〜元気だよ〜28歳も年下の牛人族の奥さんいるし〜赤ちゃんもいるね〜」


 ほう、あのタカシがなぁと感慨深くなり、ゲンジは思わず笑みを浮かべる。ちょっと年下すぎる気もするが、幸せならよかろうと思う。

 サーシャは涙を流しながら喜び、リリアは何故か半眼の仏頂面になっていた。


「あとね〜妖精さんがいるよ〜せんせ〜や奥さんのリリーちゃん、娘のアリサちゃんの事を守ってるんだって〜でもせんせ〜には内緒にしてって頼まれたんだ〜」


 妖精?何か若い世代のスラングかと思ったが、リリアの目が鋭くなり、サーシャが知性を取り戻したように落ち着いた声で尋ねる。


「使徒セイラ様、、、妖精とはまさか我々エルフのような存在でしょうか?」


 何でもない事のように、セイラが肯定した。


「そだよ〜赤毛のすっごい綺麗な妖精さん〜アリシャって名前らしいよ〜」


 それは、壊滅した特殊作戦群に属していた山田タカシのパートナーであり、4年前に亡くなったはずエルフの名前だった。

サーシャさんは異世界に常駐する自衛軍達の中でスーパーアイドルです。

年に1度ライブも開催しています。

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