脳筋兄と最後の献策
【ガイエス視点】
上手くいきすぎている
テンセイの軍は完全に抑え込んでいる。
大橋を渡ったポイントを集中砲火しているためこちらの被害はゼロだ。
一方のテンセイ軍は防御のローテーションが上手くほぼ被害は出ていないが、どんどん消耗していってる。
テンセイは諦めていない、こちらの隙をみて突撃してくるだろう。
でもこんな状況になるか?テンセイの兵力を誤魔化してこちらの進軍を遅くする策は失敗した、そのせいでテンセイ軍が渡川するタイミングに間に合い出どころを潰している。
しかしあのテンセイがたった一つの失策でここまで不利な状況になるか?渡川するところを狙い撃ちされる、そんな状況になるか?
デカい策を好むシンセイならそういうこともあるだろう、しかしテンセイは小さな有利を作り本人のカリスマ性や武力で敵軍を崩すタイプだ、失敗してもこうはならない。
ならこの状況はテンセイが望んだ状況ではないか?
なら何故こうなった?
テンセイはどう考える、出口は包囲されている、ピンチだ、ここで時間を稼ぐ。
普通に考えたら援軍だ、しかし援軍がこれる状況か?そもそもこの広い平原で偵察隊の目を盗んで進軍することは出来ないだろう。
違う、偵察隊の目は盗んでいないとしたら?
テンセイは軍を数回にわけて動かし、偵察隊の報告のラグを計算に入れることで兵数を誤魔化していた。
少ない兵数を多く見せてこちらの進軍速度を遅くすることが目的だとよんでいた。
しかしこれが、逆だとしたら?テンセイは多い兵数を誤魔化すために軍を動かしていた。山の中で視認しにくい兵数、報告までのラグ、軍を動かしたことで偵察隊の報告にズレの発生。
これを全て使って、途中で平原に援軍が到着していることを気づかせなかった。
こちらが大橋の出口を包囲するために薄く伸ばした陣を援軍が後ろから援軍がつく、それまでの時間稼ぎか!
つまり、テンセイの策は兵数を誤魔化して援軍の存在を無くした後、わざと渡川するタイミングでこちらと接敵し、俺の軍に包囲させる。
包囲しているこちらの背後から援軍、おそらくシンセイが攻撃をしてくる!!!
「スケート、カクト、ここは任せた!」
俺は大声でスケートとカクトに包囲の最前線を離れる旨を伝える。
まずはリュートと合流して援軍からの攻撃に備えなくては
「後方より軍が迫っています!シンセイ様の軍です!」
遅かった、シンセイがくるのがあと30分遅ければ対応が間に合った。
1時間早ければまだ軍は包囲しきっていなかったから対応できた。
我が弟ながら、我が敵ながら完璧な時間だ!
「魔法が来るぞ、防御を固めろ!!!」
その指令を出した直後、後方の軍の前には、大きな火球が迫っていた。
ドォォォン
何名かの魔術師や騎士が防御結界を張ったが、着弾した場所は散々たる現状だった。
俺が鍛え、選りすぐり、信じた騎士達が、30名から40名ほど燃えていた。
ただの兵じゃない、俺の将来を支えてくれる先鋭達がたった一つの魔法で40人も戦闘不能になった。
「熱い、熱いよおおお」
「くそが、くそがあああ」
「・・・」
「すみません、お先に」
「どうして、こんなことに」
後方の軍は大混乱になり、ここから何を言っても取り返しがつかない状況となっていた。
すぐにシンセイが突撃してくるはずだ、立て直さなくては、しかしこれは、、、どうしたら
「ガイエス様!」
被害の状況をみて立ちすくんでしまった俺にリュートが声をかける。
「申し訳ございません、私の失策です。罰は戦が終わったら如何様にも。しかし一つだけ、この場を収める策を献策させてください。」
慌てているだけの俺に対してリュートは落ち着いて策をだす。
この落ち着き様は
「リュート、待て、その策というのは」
「恐らく、最後の献策となります。申し訳ございませんが、ガイエス様に勝っていただくためには多くのものを犠牲にしていただきます。」
最後の献策、つまりリュートの身を犠牲にした策、確実に自分が死ぬ策ということだろう。
時間はない、迷う暇もない、他に策もない。だが俺にはリュートを失うことはできない。
だが、ここで止まるわけにはいかない
「リュート、申してみよ!」
「はっ!!!まずはここにいる後方の部隊が命をとしてシンセイ様の軍に突撃、時間を稼ぎます。その隙にガイエス様はスケート、カクトを連れ全力でテンセイ様の首を取ってください。テンセイ様は逃げると思いますが、退路である大橋を燃やしてください!インフラが、兄弟の首がとは言えない状況です。最早テンセイ様の首がなくては収まりません。」
リュートは泣きながら献策をする。
その内容は、愛する民が利用する大橋を落とし、愛する弟を3人の先鋭を連れ殺してしまうという策だった。それも幼い頃より私とこれまでを歩んでくれたリュート達を失ってだ。
この思いを、決断を、俺は断れない!
「上策だ!!!リュート、身命を賭してシンセイ軍を止めよ。その間にテンセイの首をとる。リュート、そしてお前ら、これまでありがとう、私のためにその命を使ってくれ!」
リュート達は大した編成や準備も行わず、ただシンセイ軍の足を止めるために突撃を行う、あるものは相打ち狙いで突撃し、あるものは馬を横にして的になってまで進行の邪魔をする。
全員の最後を見守ることはできず、俺は兵たちの悲鳴に後ろ髪をひかれながら、それを振り解き、テンセイの元へ進む。
---
「スケート、カクト、テンセイの首をとるぞ!全軍テンセイ軍に突撃、脇目もくれるな、テンセイ1人をやる!!!」
「「おおおおおおお」」
俺の号令を聞き、後方部隊の混乱が伝わっていた前線の部隊は奮い立つ。
矢や魔法で遠距離から攻撃していた部隊はほぼ全て弓を捨て突撃を行う。
「魔法部隊は大橋を燃やせ!退路をなくすんだ、確実にテンセイの首をとるぞぉ!!!」
魔法部隊はテンセイ軍の後方にある橋を狙い落としにかかる。
「テンセイ様をお守りしろ!」
「はっ、橋が落ちるぞ、この橋を掛け直すのにどれだけかかると」
「退路がない、どうしたらいい」
急な突撃によりテンセイ軍は大混乱となっている。
いける、テンセイの首をとって降伏勧告を行う。
そこでシンセイは諦めるはずだ。
シンセイがくるよりも先に、リュートが死ぬよりも先に、テンセイの首をとる!!!
その時、戦場に大きく、そして綺麗な、敵である俺ですら聞き入ってしまう声が響く!
「全軍持ち堪えろ!シンが来てくれている、勝利はすぐそこだ!死ぬなよ!!!」
味方に死んでくれと頼んだ俺とは正反対に、死ぬなと号令するテンセイ
俺は、お前の様な号令を出したかったよ、でももうこれしかないんだ、馬鹿な兄だと笑ってくれ、卑怯な兄だと罵ってくれ。
スケートとカクトがテンセイの元へ辿り着く
スケートの剣をテンセイが防ぎ、斬り返すもカクトの剣がテンセイを狙うためまた防御に徹する。
テンセイは元々あまり防御は上手くない、1対多をこなせる人間ではあるが、スケートとカクトほどの人間が2人だと防戦一方だ。
徐々にスケートとカクトがテンセイを追い込んでいるが、それでも倒せない。
スケートの魔法、フレイムボールをテンセイが剣でかき消す。
防御結界ではなく剣速で火をかき消すのは最早神業といっていいだろう。
その隙をカクトがつき、ついにテンセイに傷ができる。
テンセイが崩れた瞬間をスケートが攻撃しついに膝をつく。それでもテンセイは諦めずに抵抗を続ける。
そしてついに俺がテンセイの元へ辿り着き、スケートとカクトが作った隙に、剣を、全身全霊で振り下ろす。
見れない、テンセイを斬るところなんて見れない、一瞬だけ目を瞑った。その一瞬、何年ものテンセイとの思い出が、ついでにシンセイとの思い出が俺の頭を支配した。
「兄上、見てください、中級魔法を覚えました。」
幼い頃のテンセイが浮かぶ、あいつは俺よりも天才だった、若い頃からなんでもできた。
「兄上、シンがロバート様の魔法を防いだんですよ」
「テン、恥ずかしいから言わないで、防いでない、結局倒れた」
テンセイはいつもシンセイを褒めていた。
俺の目から見たらサボったり手を抜いたり怠けていたが、テンセイから見た姿は違ったんだろう。
「兄上、初陣気をつけてください、これ、シンと作ったんです。恥ずかしいから来てないですけど、2人で心配して」
今も俺の腕についている、ほんの少しだけ傷を防ぐ術式が刻まれているブレスレット。
「兄上、シンに剣を教えてください!」
「シンセイ、剣を振る時は目を瞑るな、ちゃんと相手を見て腰を入れて振り下ろせ」
「この剣を重いから嫌だよ!」
強引に訓練に顔を出して、嫌がるシンセイを俺に押し付けたこともあった。
「兄上」
第4棟を初めて訪れた時
「兄上」
俺のことを脳筋と呼んで頭を掴まれているシンセイを助ける時
「兄上」
兄弟達はみな後継者として争う定めにあった、その中でテンセイとシンセイだけは、いつも冗談を言い合える、気疲れしない関係であった。
「兄上」
剣を振り下ろす瞬間、テンセイがこちらを見て俺を呼んだ気がした。
「すまん」
振り下ろした剣は、綺麗な術式が刻まれている、幾重にも折り重なった防御結界に阻まれ、テンセイを斬れなかった。
そして俺の上に、出来の悪いほうの弟が降ってきた。
「脳筋兄、剣を振るときは目を瞑っちゃダメだよ」




