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ナマケモノ殿下と目的

 領民や兵から遅れて屋敷から顔を出した反乱軍の首魁でクリスの兄であるユリウスはあまり事情を飲み込めていないのか、大きな声でクリスに問いかける。


「クリスティーナ、どうしたんだ?早く屋敷に帰ってこい。」

「お兄様、聞いてください!一部の兵が私のことを偽物だとおっしゃるです!私が本物のクリスティーナであることを証明してくれとおっしゃるのです!」

「バカなことをいうな、俺が最愛の妹を間違えるわけないだろう。俺が保証するから、さっさと降りてこい。」

 

 クリスが偽物だと言い張って説得をしていた騎士や、半信半疑だった領民は、ユリウスのお墨付きでクリスティーナが本物が本物だとわかってしまい、悲壮感を露わにしていた。


「そんな、クリスティーナ様は本物?なら先ほどの話も本当のこと?」

「ユリウス様は状況がわかっているのか?

「今クリスティーナ様を本物と断定するのは非常にまずい!」


 まだ自体が飲み込めていないユリウスは俺の顔を確認してやっと何が起きているかを把握したようである。


 まぁさっき投げた使い捨ての術式魔石で屋敷の一部に防音効果が働いてたからユリウスが全然気づかなかったのは仕方ないんだけどね


「おまえ!ナマケモノがなんのようだ!!!さっさとクリスティーナを返せ!婚約など認めるわけがないだろう!」

 怒り狂った様子のユリウスは俺を確認次第、現場の把握よりも俺への文句になる。

 本当に単純だなぁ、使わせてもらおう。


「ああ、お久しぶりです、フォーグラム公爵家後継者候補だったユリウス様、現在は反乱軍の首魁ですかね。この反乱を予見していたガイエス兄上が、現在全速力で軍を率いてこちらに向かっていますよ、明日には到着するらしいので、それまでの短い天下をお楽しみください。」

 そういうとユリウスは怒り狂った様子から一転して得意気な顔をしてみせた。

 

「ふっ、さすがナマケモノだ、何もわかっていないようだな。この国を正すための戦いだ、降伏しろ!」


 今回の目的は大きく分けて2つ

 1つは当然敵の士気の落とし離反や日和見を増やすこと、こちらはユリウスの対応が遅れクリスが好き勝手言ったことで概ね成功している。

 そしてもう1つ、こっからはクリスの手腕にかかってる、フォーグラム公爵家の玉のようなかわいい一人娘の手腕にね


「お兄様、この国を正すための戦いとおっしゃいましたか?一体どういうことでしょうか?」

 ユリウスにとって目に入れても痛くないような可愛い妹であるクリスからの質問、ユリウスはここでクリスを保護したいと考えているため、当然答えるしかない、それも自信満々でな

 

「クリス、この国は血塗られた過去が多すぎるんだ、多くの兵が、民が血を流して出来てる。フォーグラム王国という国が、名前が、もうそれ自体が怨嗟の礎となっているんだ。」

 自信に満ちた顔で、手を身体全体に広げ声を張るユリウス。


「ですがお兄様、それで徴兵を行ったり略奪などで民を巻き込んでの戦争になると国は何も変わりませんわ!」

「大丈夫だクリスティーナ、民は巻き込まない!徴兵もしないし略奪もしないと誓おう!」

 よし!徴兵をしないという言質は取れた。


「レイ、アキナ、今の声ちゃんと拾えた?」

「うん、大丈夫」

「バッチリよシンさん」

 小声でレイとアキナに目的の残り1つが成功したことの確認をとる。

 アキナの知識をもとに作った声を保存する術式魔石に先ほどのユリウスの声を録った。これを公開する事で反乱軍は徴兵も略奪もできない。

 よし、帰るか!


 そう思って合図をするとクリスが手を前にだして止めた。何をするつもりだ?


「わかりましたお兄様、でしたらこの国の次の王はお兄様になるのですか?正直にいってお兄様にそこまでの器はありません、お兄様が王になるというのであれば私はついてこれません。」

 一見ユリウスに対して非常に失礼な物言いで返答するクリス

 しかしユリウスの顔は自信に満ちた表情のまま、勝利を確信したかのような態度でさらに声を張る。


「さすが聡明なクリスティーナ、確かに俺に王の器はない!だが王は別にいる、連邦と旧フォーグラム王国の王となる偉大なお方がな!」

「そっ、それは?」

 クリスが少々演技がかった驚きでガイエスの名を引き出そうとする。

 それと同時にバサッバサッと空獣グリフォンの羽ばたく音がする。20騎ほどだろうか、暗いのと認識阻害の魔法で確実にはわからないが、囲まれているらしい。


「クリスティーナ、そしてナマケモノのシンセイ!教えてやろう、新たな国の王となるのは第一王子であるガイエス様だ!!!」

 知ってたよ

 でもさすがクリス、完璧だ。ここでこの名前まで引き出せるなんて!


「クリス、ナマケモノ、悪いが包囲させてもらった。投降しろ。ガイエス様はナマケモノのおまえにも慈悲を与えるつもりだ、悪いようにはしないせん」

 そこまで言うと認識阻害の魔法が解かれグリフォン部隊が姿を現す。完全に包囲されていて逃げ場はなさそうだ、今のところはね。


「じゃあ帰るよ、レイ、アキナ、ブリザードをお願い。クリス、帰るからちゃんと義兄上に挨拶しといてね」

 レイは氷の魔法の準備を、アキナは風魔法の準備を行い始めた。


「お兄様、色々と情報ありがとうございます!徴兵しないという件、お忘れないようにお願い致します!では帰りますね。さようなら!」

 笑顔でユリウスに向けて手を振るクリス

 ユリウスは静かに捕えろと言った気がする。


 包囲していたグリフォン部隊は距離をつめようとするが、それよりもはやくレイとアキナがブリザードを唱えた。


「「ブリザード」」

 その瞬間、ドラゴンとグリフォンが飛んでいる上空に風が吹き荒れ、空からは雹が降ってくる。

 レイとアキナが用意していた空挺部隊に対する切り札だ!

 墜落するほどじゃないが、上空で身動きが取れないほどの風と雹がドラゴンとグリフォン部隊を襲う。

 グリフォン部隊は必死に片面だけの防御結界を張って雹を防ぎ、風でバランスを崩さないように制御している。


「包囲結界発動」

 パチィン


 まぁ俺達のドラゴン部隊は移動式の包囲結界の中にいたから影響はなかった。

 結界強度が薄い代わりに範囲を広くしたけど、ちょっとした強風や霰程度は防げる。


「よし暗いから気をつけて帰ろうね」

「家に帰るまでが遠足だよね。」

 アキナが格言みたいなことを言っているが聞いたことがないな、異世界の言葉だろうか、最後まで気を緩めず、いい言葉だな。

 

 墜落しないように必死に動きを抑えるグリフォン部隊を尻目にゆっくりと帰路についた。

 帰り際にユリウスが色々叫んでいたけど全然聞こえなかった、雹は音が大きいからね。



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