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ナマケモノ殿下と公爵家令嬢

 シンセイ達が黒のワイバーンを討伐してから3日ほど経った。

 この3日間の間、シンセイとクイルはほとんど寝て過ごしており、レイや他の兵士からことの顛末をきいたブルメシア候はワイバーンの死体の確認や他所への報告、クリスはアキナとともに確かにシンセイ王子とその婚約者の2人だけで黒のワイバーンを倒したという報告ができるように準備をしていた。


 フォーグラム王国で過去に黒のワイバーンの討伐を成し遂げたのは現在、伝説と言われるとあるSランクパーティと雷神ロバートのみ。

 一騎討ちでは雷神ロバートのみが成し遂げており、犠牲者なしでの討伐は過去に例がなかった。


 2頭同時討伐だけでも前例がないのに犠牲者なしでの討伐、テンセイ派のクリスティーナはこの実績は流れを変える実績になると確信していた。

 特に実家のフォーグラム家に対して。


 ---


 うっ、眩しい、よく寝てしまったな。


 目が覚めると俺はベッドの上にいた。

 恐らく黒のワイバーン討伐後そのまま寝てしまってから3日ほど経っている、その間ほとんど寝て過ごした。

 ぶっちゃけあんまり記憶がない。


「シン様、お目覚めですね、おはようございます。」

 天使のような笑顔に急に顔を覗き込まれてびっくりしてしまった。


「おはようクリス、いい朝かな?」

「ふふ、もうお昼すぎですよ」

 柔らかくはにかむクリスはメイドに声をかけて他の人を呼んでいるようだ。


「それにしてもシン様、聞きましたよ。レイ様とお2人で黒のワイバーンを倒したって」

 クリスは目をキラキラさせながら聞いてくる。


「そんなに面白い話はないよ、俺は防御しかしてないし、最後は相手が勝手に結界に突っ込んだだけだよ」

「大丈夫ですよ、詳細はレイ様に聞いてます。愛の力って凄いですね。」

 あー、これは色んな話されてるなぁ、どんな内容なのかわからないけど、クリスからキラメキがとめどなく流れている。


「でも少しだけレイ様が羨ましいですね。私はシン様と同じ戦場には立てません、内政や書類整備しか出来ない。それに私の護衛が要らなくてアキナさんもいればもっと楽に勝てたかも知れないですよね」

 明るかった顔に少しだけ暗みを落とし、俺の怪我した部分を見ながらクリスが言った。

 足手纏いだったと感じているのだろう。

 

「そんなことないよ、腕自慢ばかりじゃ内政は出来ないからね。レイやアキナは確かに戦場にたてるけど、他の貴族の説得やご婦人方との協力関係を築いたりするのは2人じゃ出来ない。今回クリスがついてきてくれなかったらこんなに簡単に説得出来なかった、そしたら黒のワイバーンの討伐にも間に合わなかったし、他の人にも被害が出たかも知れないよ。」

 過少しだけ考えるような顔になったのをみて続けて話す、


「今回の黒のワイバーンだけでみれば確かにクリスは役になってない、でも北西部への遠征全体で考えればとっても役にたってるんだ。族の退治やモンスターの退治はクイル様やアキナ、レイでやってた。でも代官や領主、貴族の説得はほとんどクリスだったよ。クリスがいなきゃもっと禍根を残してたよ」

「ふふっ、シン様はお上手ですね。」

 顔をあげて、いつもの笑顔になった。


「わかりました。私はこれからもシン様を手伝います。家は関係なく、何があってもついていきます。戦闘になると足手纏いかもしれませんが、精一杯頑張らせていただきます。不束者ですが、よろしくお願い致します。」

 綺麗な、本当に綺麗なお辞儀をしてくれた。

 なんだが結婚してうちにくるみたいになってる。俺にはレイがいる、勘違いしちゃいけないね、クリスはいい子だからね。


「こちらこそ、これからもよろしくね、信頼出来る人に内政が上手な人がいないから、助かるよ。」

 手を出して握手を促すとクリスも応じてくれる。


 強力で、信頼出来る味方を手に入れた。

 怪我するのも悪いことばかりじゃないな。

 そう思いながらベッドから起きあがろうとすると、やはりまだ身体がうまく動かずずっこけてしまう。


「おっと」

 コケそうになったところクリスに支えられた。

 顔が近くなってしまい、この前のレイとのキスを思い出して、照れてしまう。


「あっ、シン様、今私じゃなくてレイ様のことを思って照れましたね?」

 顔を両手で掴まれ、至近距離で怒られてしまう。沈黙を肯定と取られた。いや間違ってないけども。


「シン様はレイ様のことが一番なのはわかります。でも私の顔が近くにきたのに、レイ様を思って照れるのはさすがに嫉妬します。許しません。」


 チュッ


 は?


 思考が追いつかないでいると目の前のクリスはとんでもないほどに顔を赤くして固まっていた。


「私は、2番目でも3番目でも大丈夫ですから!」

 そういうとコケかけた俺を支えていたクリスは俺を放り出して急いで部屋を出ていってしまった。


 もちろん俺はそのまま転ける。


 そんな様子を、無表情のレイと顔を赤くしたアキナが扉の先で見ていた。


「どこから見てた?」

「クリスがシンにプロポーズするところから」

「プロポーズじゃなかったでしょ!」

 真っ赤な顔のアキナが代わりに否定してくれた。

 でもどうやら、かなりガッツリ前から見られてたらしい。


「あれは、貴族の中だとそういう意味、キスもしてたし。シン、それくらいの甲斐性はあるでしょ。私はクリスなら大丈夫だから」

 無表情のまま、レイがコケている俺を起こしてくれる。


「シン、この間のがファーストキスなのに、もう2人目?」

 そう、そうなんだ、何も間違ってないけど、頭が痛くなってきた。


「これでシンさんは、この国最強の雷神の娘である侯爵家のご令嬢と、この国トップクラスの貴族である公爵家のご令嬢に手を出したってことになるんだね。」

 アキナ頼む、言わないでくれ、テンにイケメンとかモテてるとか言えなくなってしまった。おかしい、レイはともかく、こんな美人に好かれる予定はなかった。


「シン、もう1人ぐらいなら大丈夫だよ」


 頭痛が痛いって奴だ


 ---


 レイとアキナに連れられて大広間にいくと俺よりも重傷にみえたクイル様はピンピンしていた。

 温室育ちのおまえとは鍛え方が違うと言われてしまった。小さい頃からロバート様に連れられて各地を回っていたクイル様にとっては誰もが温室育ちだろう。否定はしないが。


 黒のワイバーン討伐に向かったメンツが一通り集められており、そのほかにも町の護衛をしていたメンバーやら冒険者がいた。


 中央階段からブルメシア侯が降りてくると冒険家達が歓声をあげる。


「実はシン様達が討伐に行ってるときに赤のワイバーンと何頭かのワイバーンの襲撃があったんですよ」

 さっきのことから気を取り直してくれたクリスは小声で教えてくれる。

 赤のワイバーンの襲撃はかなりの大事でよく犠牲者等がでる大事件である。無事に討伐に成功したから、その論功ということだろう。


「まずは第四王子たるシンセイ様、そして雷神の後継者たるクイル様、お2人が率いる黒のワイバーン討伐隊が、無事に2頭の黒のワイバーンと複数のワイバーンの討伐に成功しました。」

 ブルメシア侯がそういうと、先ほどまで騒いでいた冒険者達が完全に沈黙してしまった。


「皆様は功績が大きすぎため、このブルメシア領で称することはできません。後日王国、王城より論功会があるため、そちらで称させてください。」

 そういうとブルメシア侯は礼をする。


「ただこれだけは言わせてください。黒のワイバーンが2頭という前代未聞の大災害に対して、犠牲者0という、これも過去例にない結果で討伐していただきありがとうございました。もし失敗していれば、討伐が遅れていれば、数百人、数千人単位の被害が出ていたと考えられます。ブルメシア領の全民を代表して、お礼をさせてください。」

 ここまで話して、冒険者達や騎士達が大歓声をあげる。


 黒のワイバーンの脅威は知っているつもりだったが、実際に現場にいて脅威に晒されている人達からの反応は、予想以上であった。

 英雄王子、2人目の雷神、氷帝と声が上がっていた。


 歓声が暫く続いたあと、落ち着いたところで再びブルメシア侯が口を開く


「さて、続いては、先のブルメシア街の赤のワイバーンの襲撃時に獅子奮迅の活躍を見せた方々の論功を称させてください。まずは◯◯ーーー」


 多くの冒険者や騎士達が賞賛されていく、ブルメシア領は多くの危険があるが、それだけにワイバーンの討伐に成功した際には身分に差はなく、全員がしっかりとした恩賞をもらえるのだ。


「最後に、シンセイ殿下の護衛としてこの地に来訪し、街の防衛のために残っていたシンセイ殿下の懐刀、アキナ」

 びっくりする俺たちをよそに、当然という顔をするクリス、そしてびっくりして固まってしまうアキナ。


「このものは多くの冒険者や騎士を恐怖に落とした赤のワイバーン相手に果敢に立ち向かい、ほとんど1人で倒してみせた!さすがシンセイ殿下の懐刀と言える!」

 この日1番の歓声の中、顔を真っ赤にしたアキナが賞を受け取っていた。


「さて、こっちでやることは終わったな、次は王城で論功賞だな、ついでに2人分の婚約の発表でもするか?」

 ニヤニヤしたクイル様がこちらを見てきた。

 なんでもうさっきの話が伝わってるんだよ、レイはそんなにおしゃべりじゃなかったじゃん。


 めんどくさいなぁこの義兄

 

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